↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢の断罪劇、有料観覧席からポップコーン片手に見物してます  作者: 九葉(くずは)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/15

第4話

「……仲間割れが始まりそうだぞ」


キリアンが顎をしゃくった。

階下では、コラリーがファビアン殿下の袖を両手で握っていた。


『殿下、私、怖くて逆らえなかったんです!』

『何?』

『ガストン様が、協力しないなら父を困らせるって……!』


ガストンの顔が、一気に赤くなった。


『おい、待て! 俺に頼んだのはお前だろう!』

『そんなこと言ってません!』

『巡回を変えてくれと言ったじゃないか! 公爵家が口を出せなくなれば、俺を近衛の隊長に推してくれるって!』


言い終わってから、ガストンは口をつぐんだ。

遅い。とてもよく聞こえた。


「今の、記録していますか?」

「必要か?」

「いえ。監査官の方が、あそこで書き留めてますね」


壁際の男性が、すごい速さでペンを走らせていた。

証言者にも困らない。さっきまで音楽に合わせて踊るつもりだった人々が、今は全員、耳をそばだてている。


『あの記録具は違法です!』


パスカルが叫んだ。

拾った眼鏡の片側には、ひびが入っている。


『殿下、投射機を止めさせてください! これ以上、あんなものを――』

『設置許可証はこちらです』


校長先生の声に遮られた。


『パスカル君。調査を提案した際、記録を残すほどのことではないと反対したのは君でしたね。今、その理由も聞かせてもらいたい』


パスカルは、眼鏡を押さえる手で顔を覆った。

その背後を、ユーグがゆっくり下がっていく。

人垣に紛れれば抜けられると踏んだらしい。いつもなら誰かが道を譲るところだが、今夜はそうもいかなかった。


『失礼。お通しください』


令嬢が扇子を閉じ、その場にとどまる。

ユーグは舌打ちし、空いた通路へ駆け出した。


出口の衛兵が、槍の柄を横にした。


『監査局から、関係者を外へ出さぬよう命令が出ています』

『私は財務卿の息子ですよ!』

『承知しております。ですから、お待ちください』


その返事に、私は思わず口笛を吹きそうになった。

我が国にも、こういう返しのできる方がいたのか。


「あの衛兵さん、いいですね」

「指揮官が仕事をしていれば、兵も働ける」

「今夜の警備は、王宮監査局から派遣された方々なんです。ガストンが当番表をいじっていたと分かったので」


キリアンは頷き、広間の奥へ目を向けた。


「なら、そろそろだな」


その言い方が気になったけれど、下の声に意識を引き戻された。


『……騙したのか』


ファビアン殿下が、コラリーの手を振りほどいた。


『お前たち、俺を利用していたのか!』

『殿下、私は――』

『黙れ! お前も、ガストンも、全員だ!』


違う違うと口々に言う四人を前に、殿下はコンスタンツェ様へ向き直った。


『お前もだ。こんな場所で俺に恥をかかせて、ただで済むと思うなよ』


ああ、結局そうなるのか。

見栄えの悪いことが起きたら、それを見せた人が悪い。殿下の中では、いつも話がそこへ戻る。


コンスタンツェ様は、目をそらさなかった。


『人前で私を裁くと仰ったのは、殿下ですわ。私が何度、個別にお話を伺いたいと申し入れたか、お忘れですか』

『うるさい!』

『今日の訴えも、私の名誉に関わります。証拠を出すなと仰るのなら、殿下のお言葉も撤回していただかなくては』


殿下の手が、腰の細剣へ伸びた。

金属の擦れる音に、人垣が後ずさる。


私も立ちかけた。

隣で椅子が引かれる音がして、キリアンが手すりに片手を置く。


だが、コンスタンツェ様の前には、すでに衛兵が二人入っていた。

彼女は一歩下がっただけだった。扇子を握る指が、白くなっている。

怖くないわけではない。それでも逃げずに立っている。


『俺は王太子だぞ! 衛兵、こいつを捕らえろ!』


殿下が剣先でコンスタンツェ様を示した。

衛兵は動かない。


『聞こえないのか! 命令だ!』

『その剣を下ろせ、ファビアン』


正面の扉が開いていた。

入ってきたのは国王陛下だった。王妃陛下とアルスハイム公爵、その後ろに、三人の側近の父親たちが続く。


『父上……?』


王は息子の前まで歩き、手を差し出した。


『剣を渡せ』

『これは違うのです! コンスタンツェが俺を――』

『渡せと言った!』


ファビアン殿下の肩が跳ねた。

脇に立った衛兵が、殿下の手から剣を受け取る。


『監査官から報告を受け、隣室で今の記録とお前たちの言い分を聞いていた』


陛下の声は、二階までよく届いた。


『弁明の機会はあった。それを、お前は剣で終わらせようとしたのだな』


殿下が何か言いかけた、その頬を、陛下が打った。

乾いた音が響く。

よろめいた殿下は衛兵に支えられ、頬を押さえた。


私は無意識に、卓の縁を握っていた。

見たいのは、殴られて終わるところではない。明日になったら、また何事もなかった顔で戻ってくる。それだけは御免だ。


『……父上』


いつもの尊大さが消えた声に、陛下は答えなかった。

監査官へ目を向ける。


『処分と調査について、ここにいる全員の前で申し渡す。書き留めよ』


ペンが、紙の上を走り始めた。

私はようやく、椅子へ腰を戻した。


キリアンも座り直す。

私が袋を差し出すと、彼は一粒だけ取った。


「まだ終わらせませんよ」

「ああ。最後まで聞こう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。