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悪役令嬢の断罪劇、有料観覧席からポップコーン片手に見物してます  作者: 九葉(くずは)


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第3話

正面のシャンデリアが暗くなった。

広間の人々が顔を上げる。その向こう、白い壁に旧校舎の階段が映し出された。


『何だ、これは!』


ファビアン殿下の声にかぶさって、こつ、こつ、と靴音が響く。

映像の中へ現れたのは、コラリーだった。


「いい映りだな」

「レンズだけで金貨十枚しましたから。コンスタンツェ様のお財布に、心から感謝しています」

「ガルディニア製か。暗がりに強い型だ」

「お詳しいんですね」

「仕事で使う」


こちらは同じ機材を三度借り直し、設置場所まで調整したのだ。きれいに映ってくれなければ困る。

舞台で使う拡声具から、衣擦れの音まで聞こえてきた。


コラリーは周りを見回すと、階段に座った。

ドレスの裾を両手でつかむ。少しためらった後、びりっと破いた。


『……痛くしないと、駄目よね』


足首を押さえる仕草を試し、二段ほど下へ転がる。

仰向けのまま息を整え、懐から小瓶と手鏡を取り出した。


これを初めて確認した時、私とコンスタンツェ様は顔を見合わせた。

その前後まで含めて、階段に彼女以外の姿はなかったのだ。


壁の中のコラリーが、目元を濡らして声を上げる。


『誰か……! 助けてください!』


すぐにガストンが駆け込んできた。

倒れた令嬢の怪我を確かめるより先に、廊下の角へ声を張る。


『コンスタンツェ嬢がやったんだな!』


そこで私は、映像を止めた。


講堂のどこかで、誰かが短く息を漏らした。

さっきまでコラリーへ同情を寄せていた令嬢が、隣の友人からそっと手を離す。


『違います! こんなもの、幻影魔法です!』


当の本人が叫んだ。

ファビアン殿下も、その言葉に飛びつく。


『そうだ、偽物だ! コンスタンツェ、お前はこんな卑劣な真似までして――』

『でしたら、原本を調べていただきましょう』


コンスタンツェ様は慌てなかった。


『記録水晶は昨日、王宮監査局へ提出済みです。ここで映しているのは、確認を受けた複製。設置に立ち会った先生も、回収した職員も、今夜この会場にいらっしゃいます』


壁際で、校長先生が一歩前に出て頷いた。


『なお、私が突き落としたとされる時刻、私は校長室で卒業式の答辞について相談しておりました。面会簿もございますわ』


ファビアン殿下の口が、開いたまま止まった。

隣のキリアンが、私にだけ聞こえる声で言う。


「記録だけでは押し切らせないわけか」

「映像が嫌なら、先生のお話を聞けばいいんです。どちらも嫌だと言うかもしれませんけど」

「言いそうだな」


キリアンが笑うと、私もようやく肩の力が抜けた。

ここで言い逃れされたら、と何度も考えた。レンズの焦点より、今の校長先生の頷きの方が、ずっと頼もしかった。


次の記録を映す。

旧校舎の応接室。画面にはコラリーと三人の側近がいた。


あそこは嫌がらせの調査中、破れた教科書が持ち込まれた部屋だ。校長先生の許可で記録具を据えたままにしていたところ、彼らは人払いまでして使ってくれた。


『明日の分、これで足りるか』


ガストンが紙を差し出す。

学園の警備当番表だった。


『足りるわ。階段には誰も来ないのね?』

『俺が巡回をずらした。あとはお前が泣けばいい』


コラリーが頷く。

卓の向こうでは、ユーグが別の書類を広げていた。


『衣装の弁償は、いつもの慰問費に上乗せしておきます。殿下の印もいただきました』

『コンスタンツェが帳簿を出せと言ってきているぞ』


パスカルの声だった。


『なら、卒業パーティーで先に片づけてもらいましょうよ』


コラリーが唇を尖らせる。


『婚約を破棄された人が、王太子妃のつもりで会計に口を出せる?』

『殿下が本気で動けば、校長も公爵も逆らえまい』


ガストンの言葉に、ユーグが笑った。


『ですから今まで通り、殿下にはコラリー嬢を守るためだと。ご自分が救い出すお話は、お好きですからね』


映像を止める前に、短い笑い声が講堂に流れた。

その場の四人だけが楽しそうな、嫌な笑いだった。


『……これは』


ファビアン殿下が、隣のコラリーを見る。

彼女は腕をつかんだまま、必死に何か囁いていた。もう、こちらまでは聞こえない。


「殿下は、あの帳簿を読んでないんですかね」

「読まずに印を押していたなら、それも責任だ」


キリアンの声から、笑みが消えていた。

さっきまで一緒にマントの話をしていた人と同じなのに、私は思わず背筋を伸ばす。


階下のパスカルが、眼鏡を落とした。

拾おうと屈み、隣のガストンにぶつかる。ガストンは睨み返す余裕もなく、映像と出口を見比べていた。


ユーグだけは、ずっと懐を押さえている。

つい先ほど得意げに振っていた、弁償の書類がそこにあるのだろう。


『コラリー嬢』


コンスタンツェ様が扇子を閉じた。


『ドレスをお支払いした記録は、そちらの方が先ほどお見せくださいましたね。お怪我については医務室の記録を。帳簿については、監査官のお話を。それぞれ確かめてから、続きを伺いましょう』


その声は静かだった。

誰かが言い返すのを待ったが、今度はファビアン殿下も口を開かなかった。


私は小さく息を吐き、グラスを取った。

震えは、もう止まっている。


隣からグラスが差し出された。

軽く触れ合わせると、ちん、と澄んだ音がした。


「見事な上映だった」

「ありがとうございます。上映中に騒がないお客様も、素晴らしかったですよ」


彼が笑う。

その向こう、講堂の出口で衛兵たちが持ち場についた。


「さて。あとは、あちらの皆様がどこまで正直にお話ししてくださるかですね」

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