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悪役令嬢の断罪劇、有料観覧席からポップコーン片手に見物してます  作者: 九葉(くずは)


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13/15

第13話

帝都へ着いて十日目、私は大評議会ホールの傍聴席にいた。


高い天井。白い大理石の柱。正装した貴族たち。

今日はポップコーンを置いてきた。

緊張で喉が渇き、朝のお茶もあまり飲めなかったくらいだ。


代わりに膝に載っているのは、記録具の資料だ。

キリアンの隣ではなく、技官席のすぐ後ろ。必要があれば上映の補助をしてほしいと頼まれていた。


昨日、傍聴の説明を受けた際、記録映像の拡大方法について、つい口を出してしまったのだ。

王国で使った投射機と同じ系列の機材だったので、できることとできないことは分かる。


私が座る前、キリアンは小声で尋ねた。


「本当に、引き受けていいのか」

「手が空いていますし。お役に立てることなら」

「客人として来たんだぞ」

「ずっと案内していただくばかりでも、落ち着きません」


そう答えたら、少し困ったように笑われた。

帰りに約束の劇場へ寄る。その約束をして、彼とは席を分けた。


中央で、審理官が資料を開く。

被告席には、ベルンハルト公爵が座っていた。

先帝の親族で、キリアンの即位後も人事に口を出し続けていた人物だという。権限を削られたことを恨み、一派とともに暗殺を計画した。


署名入りの密書と、金を受け取った使用人の証言。

それらが順に示されても、公爵は首を横に振った。


「部下が勝手にしたことです。私の名を使えば、話が通りやすいとでも思ったのでしょう」


私は手元の資料を押さえた。

場所が変わっても、同じ言い訳をする人はいるものだ。


続いて、封印された透明な箱が運ばれた。

中には、紫水晶の指輪が入っている。

拘束された日に公爵から押収したもので、調査の結果、宝石の下に液体を送る魔導の仕掛けが見つかった。


技官が、指輪と杯に残ったものが同じ毒だったと説明する。

私は唇を引き結んだ。

飲む前に異変へ気づいた給仕がいた。そのおかげで、キリアンは今、あそこに座っている。


「仕掛けのことなど、私は知りません」


公爵が言った。


「贈られたものを身に着けただけです。細工した者をお調べになるべきでしょう」


誰かが椅子の上で動いた。

審理官は頷き、技官へ映像の再生を求めた。


夜会の光景が、壁に映る。

大勢の客の中に、軍服姿のキリアンがいた。少し離れた場所で公爵が杯を掲げ、その指に、紫の石が光っている。


私は技官へ目で合図した。

映像を止め、全体像と、手元だけを大きくしたものを並べる。

昨日、一緒に何度も試した映し方だ。拡大だけすると手の動きがどの場面のものか分からなくなるので、元の映像も残しておく。


「画面の中央、親指の動きをご覧ください」


技官が指し示した。

公爵の親指が、指輪の台座の下へ回る。

飾りの位置が変わった。


「こちらの部品を動かさなければ、仕掛けは働きません。通常、杯を持つ時に触れる場所でもありません」


公爵が顎を上げる。


「指輪がずれたから直したのです。そんな指の動きを、暗殺と結びつけるとは」


私は審理官に向け、小さく手を上げた。

昨日の説明で確認したことがある。許可されてから、立ち上がった。


「もう少しだけ、続きを映してもよろしいでしょうか。全体の方も、合わせて」


映像が動く。

公爵は指輪から手を離した後、キリアンの杯を見ていた。

給仕がその杯を取ると、公爵は一歩近づき、何か言っている。


『それは陛下のお杯だ。下げるな』


記録の声が響いた。

証人席にいた給仕が、背筋を伸ばす。


「はい。お止めになりました。ですが、陛下の手袋へこぼれた滴が変色したため、私は杯を下げました」


キリアンは給仕に退くよう命じ、毒を疑って宴を中断していた。

全体を続けて見ると、それまで平静だった公爵だけが、杯の行方を追っていたことが分かる。


審理官が尋ねた。


「なぜ、そこまでその杯を気にされたのですか」

「無礼だと思ったからだ!」


公爵の声が荒くなる。


「そこの小娘が映像をいじったのだろう。小国から来て、陛下に取り入るために――」


喉が、ひゅっと狭くなった。

反論しようとした時、キリアンが口を開いた。


「映像を確かめたのは帝国の技官だ。原本もここにある。異議があるなら、その箇所を指摘しろ」


大きな声ではなかった。

でも、私の方を向いていた人々の視線が、公爵へ戻った。


「それから、彼女には名がある。シビル嬢だ」


私は資料を握り直した。

技官がこちらへ小さく頷く。私は頷き返し、座った。


続けて示されたのは、指輪の細工を依頼した書面だった。

すでに押収されていたそれを、公爵は部下の偽造だと主張していた。

けれど、知らなかったと言う仕掛けを自分で動かし、杯が下げられるのを止めた姿は、全員の目に残った。


審理が終わる頃には、公爵も、後ろに座る一派も、こちらを見なくなっていた。

暗殺計画への関与が認定され、拘禁は継続。爵位と役職の剥奪が告げられ、刑の確定は正式な判決へ委ねられた。

衛兵に立つよう促され、公爵はゆっくりと椅子を離れた。


* * *


ホールを出たところで、キリアンが待っていた。

私は資料を抱え直し、彼の前に立つ。


「陛下」

「助かった。あの見せ方は、分かりやすかったな」

「難しい調査をしたのは技官の方々です。私は、見やすくしただけですから」

「それを頼んだんだ。ありがとう」


嬉しかった。

できることをやって、その分をきちんと受け取ってもらえる。それが、こんなに気持ちのいいことだとは知らなかった。


それでも、さっきの映像が離れない。


「……杯に気づいてくれて、よかったです」


言った途端、声が少し震えた。


「もし、そのまま飲んでいたら」


キリアンが、私の抱えた資料を脇の卓へ置いた。

空いた手を、両方とも握られる。


「ああ。俺も、そう思う」


彼は笑わなかった。


「今なら、なおさらな」


私は彼の軍服の袖をつかんだ。

人が通る廊下だったけれど、少しだけ額を寄せる。


「長生きしてください。まだ、一緒に行きたいところがあります」

「まずは劇場か」

「今日は、静かなところがいいです」


彼の手が、私の背へ回った。


「分かった。予定を変えよう」


ためらった後、私は顔を上げた。


「二人で、お茶を飲みたいです」


初めてのお誘いを思い出したらしい。

キリアンは少し笑って、私の額にそっと唇を当てた。


「今度は、その誘い方で合っているな」

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