第10話
あの卒業パーティーから、二週間が過ぎた。
その間に私は、父と一緒に監査局へ通い、教科書のことも、紅茶のことも、外階段でのことも話した。
コンスタンツェ様が当時の記憶を証言してくださり、家に来た医師の記録も出た。
話し終えるたびに疲れたけれど、今度は書類がどこかへ消えることはなかった。
そして昨日、判決が出た。
ファビアンは正式に廃嫡され、王族籍を失った。不正な支出や徴税を認めていた責任に加え、私たちへの加害でも有罪とされた。
私財を没収された上で、北部の鉱山へ長期の労役に送られる。
ガストン、パスカル、ユーグも、それぞれ地位と資格を失った。横領への関与と証拠隠し、私への暴行。それぞれの罪に応じた刑を受け、返還できない金の弁済も残る。
コラリーは虚偽の訴えと慰問金の詐取で有罪となり、南部の開拓地へ送られることになった。
ダグラス男爵も、架空の請求書を作ったことが分かり、爵位を失った。
三人の父親たちの監督責任については、別に審査が続いている。
私が知りたかったのは、ちゃんと裁かれたかどうかだ。
判決書には、私が嘘をついていなかったことも書かれていた。
父はその箇所を、何度も読んでいた。
今日、王宮へ来たのは、返却された証拠品を受け取るためだった。
布に包まれた教科書と、父が保管していた財布。
それを侍女に預けてから、私は監獄棟への面会を願い出た。
今度は、ファビアンに呼ばれたからではない。
言いたいことが残っていると、自分で決めたからだ。
「俺も行っていいか」
王宮で協議を終えたキリアンが、尋ねた。
この二週間で、我が家に二度、お茶を飲みに来ている。どちらも先に手紙が届いた。返事を待つ練習は、順調らしい。
「はい。でも、お話は私にさせてください」
「分かった」
彼はそれ以上、何も言わなかった。
地下への階段を下りると、ひんやりした空気が頬に触れた。
灯りの下に並んだ扉には、それぞれ別の名札が掛かっている。口裏を合わせないよう、五人は別々の房へ収容されていた。
私たちを案内した看守が、一番奥の前で止まる。
「ファビアン。面会だ」
中で椅子が倒れる音がした。
鉄格子の向こうへ駆け寄ってきた男は、飾り気のない灰色の服を着ていた。
顔色が悪い。髪も、自分ではうまく整えられないらしかった。
「シビル! やっぱり来てくれたんだな!」
差し出された手が、鉄格子で止まる。
私は腕が届かない位置に立った。
「お前から父上に頼んでくれ。北部なんて行けるわけがない。俺は鉱山の仕事などしたことがないんだ!」
「判決を変えていただくために来たのではありません」
「では何をしに来た!」
声が荒くなる。
看守が一歩動くと、ファビアンははっとして口を閉じた。
そして、声を作り直した。
「……悪かった。俺も、ずいぶん考えた。お前にひどいことをした」
私は黙って聞いた。
「昔みたいに戻れないか? お前は菓子を焼いて持ってきてくれただろう。俺のことが、好きだったんだろう?」
クッキーのことだ。
候補になったばかりの頃、好みを聞いて焼いた。半日かかったのに、殿下は一口かじって皿へ戻し、こんな貧乏くさいものはいらないと言った。
「あの頃は、仲よくなれたらと思っていました」
認めると、ファビアンの目に期待が浮かんだ。
「だったら――」
「だから、悲しかったんです。嫌だと言ってもやめてくださらなくて。帰ったら泣くくせに、次に会う時は、また笑って」
キリアンが後ろにいる。
こんなことまで聞かせるつもりはなかったけれど、言い始めたら、やめたくなかった。
「笑えば機嫌を損ねずに済むと思っていました。仲よくしていたわけではありません」
ファビアンが、鉄格子を握り直した。
「……なら、謝る。何度でも謝るから」
「謝っていただきたかった時には、聞いてもらえませんでした」
それは、もっと前のことだ。
皇帝の隣に立つ私にではなく、泥のついた制服で家へ帰った私に、言ってほしかった。
「私からお願いすることは、もうありません。判決の通りに償ってください」
「お前なら頼めるだろう! その男にひと言頼めば――」
ファビアンの目が、キリアンへ向いた。
私は、その視線を遮るように少し動いた。
「陛下に言わされているんじゃありません」
自分の声が、よく響いた。
「私が、貴方を助けないと決めたんです」
ファビアンは何も言わなかった。
返事を待つ必要もなかった。
私は看守へ終わったと伝え、通路を戻った。
背後で名前を呼ばれたが、振り返らずに歩いた。聞こえないふりをする必要もない。聞こえていても、戻らなくていい。
階段の途中で、ようやく足が止まった。
キリアンが、私より一段下に立つ。
「疲れたか」
「少し」
彼の手が差し出された。
私はその袖をつかんだ後、握り直して、手を取った。
「……笑っていたら、平気だと思われるんですね」
「俺も、最初はそう思った」
正直な答えだった。
「だから、聞くようにする」
キリアンは、私の顔をのぞき込んだ。
「今は、平気か」
喉の奥が、少しだけ詰まった。
私は目を伏せ、それから頷いた。
「すぐには。でも、お腹は空きました」
「なら、何か食べよう」
手を引かれ、残りの階段を上がる。
扉の外は、晴れていた。
私は目を細め、隣の人を見た。
「陛下。明日の朝、うちで一緒に食べませんか。母も、ぜひご一緒にと申していました」
「朝から会っていいのか」
「ええ。私が誘っているんですから」
その顔が、ぱっと明るくなった。
皇帝を朝食に誘うのは、思っていたより簡単だった。
誘ってよかったと思うのは、もっと簡単だった。




