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転生したら三国乱世だった件  作者: レモンティー


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第九十七章:関羽は敵の精鋭を破り、襄陽の門を開かせた

城門が開いたあと、関羽のもとへ夜襲で傷を負った敵兵の娘が来た。

「父は、あなたに負けたんですか」

関羽は少女の目線まで腰を落とした。

「父上は最後まで、お前の帰る家を守ろうとした」

少女はしばらく黙り、それから父の手を握って救護所へ戻った。

俺は勝者の言葉ひとつで敗者の誇りが消えることも、守られることもあるのだと知った。

襄陽の門は厚く、力任せに破れば市街まで火が回る。

孔明は城の外の水路を調べ、龐統は城内の商人と交渉した。

関羽は一度だけ門の前へ進み、守兵に名乗った。

「我は関羽。降れば武器を置いた者を斬らぬ」

城壁から矢が放たれ、彼の馬の前に突き立った。

関羽は動かなかった。

城内では強硬派と降伏派が争っている。

ここで挑発に乗れば、話し合いの道が閉ざされる。

俺たちは攻城具ではなく、負傷者を運ぶ折り畳みの担架を先に増やした。

城内の者にも見える場所に救護所を設ける。

最初は誰も来なかったが、夕暮れに白い布を掲げた老人が現れた。

敵兵の腕を支えながら「この者だけ助けてくれ」と言う。

俺は名を尋ねず、湯を沸かして傷を洗わせた。

夜が明けると、その老人が城門の内側へ戻ったことを知った。

敵の精鋭が夜襲をかけた。

魏延が土手の陰で受け止め、趙雲が逃げ遅れた兵を助け、黄忠が城壁の弓兵を牽制した。

関羽は最後まで本隊を動かさず、夜襲隊が退いたのを確認してから門へ進んだ。

「これ以上、互いの子を死なせる必要があるか」

声は城壁の上まで届いた。

やがて閂の外れる音がした。

門が開くと、関羽は先頭で入城したが、刃を抜かなかった。

市場の店先には壊れた秤が転がり、井戸の周りには水を待つ人が並んでいた。

俺は兵に荷を下ろさせ、炊事場の場所を決めた。

関羽は城門を振り返り、「門を開かせたのは我が刀ではない」と言った。

「この城の者が、まだ明日を選べたからだ」

俺たちが向かったのは襄陽城だった。

城内には食糧不足の民が残り、守兵も疲弊している。

赤壁で曹操の大艦隊を破ったとはいえ、荊州の城や街道がすべて味方になったわけではない。

戦が長引けば、せっかく救った民がまた飢える。

俺は地図の端に、兵糧の残りと一日の消費を小さく書き込んだ。

策の中心は、龐統が城内の民の声を使者に託し、関羽が降伏後の保護を約束することだった。

武器を見せつけるだけでは敵は意地になる。

逃げ道を塞ぎすぎれば、追い詰められた者が無茶をする。

だから孔明は敵が退ける道を残し、龐統はその道を選びたくなる理由を用意した。

俺の仕事は炊き出し所と診療所を分け、城の生活を立て直すことだった。

職人を呼び、炊事係と荷運びの兵を集める。

机の上の図では簡単でも、現場で使える形にするには手間がかかる。

最初の試みでは思うように進まず、年配の職人が「手を動かす前に現物を見ろ」と叱ってくれた。

やがて、守将が降伏し、襄陽は大きな損害なく劉備の手に渡った。

報告を受けた劉備は、勝利を祝う前に「民に被害はないか」と尋ねた。

俺は負傷者の名簿を持って前へ出た。

完璧な戦などない。

だから、少しでも被害が小さく済んだことを確かめるまでは喜べなかった。

襄陽の門をくぐったあと、趙雲は馬から降りて子供に道を譲った。

魏延は人混みを避けて荷車を回し、黄忠は高い壁の上に残る弓兵へ武器を下ろすよう呼びかけた。

俺は広場に鍋を据えた。

城を取ったという実感は、歓声よりも、恐る恐る集まった人々が一杯目の粥を飲み干したときに湧いた。

入城した翌日、襄陽の倉を開けると、予想より麦が少なかった。

旧守将が退く前に一部を隠したのだという。

張飛は怒ったが、龐統は倉番を呼んで静かに尋ねた。

「隠した麦は誰のためだ」

倉番は震えながら、城内の孤児と病人の分を確保したかったと答えた。

張飛は腕を組み、しばらく天井を見上げた。

「それなら先に言え」

俺は隠し倉をそのまま救護所の配給用にし、残りの麦だけを軍の書付台帳せた。

市街の井戸には長い列ができていた。

城壁の工事で水路が塞がり、水が濁っていたのだ。

俺は兵に溝を掘り直させ、飲み水は煮沸してから使うよう掲示した。

だが薪が足りない。

黄忠は郊外の倒木を集め、魏延は壊れた攻城柵を薪に回すよう命じた。

木をすべて燃やせば冬に困るため、俺は火を囲む簡単な竈を作り、鍋を二つ並べて熱を逃がさないようにした。

職人の女が「それなら家でも使える」と言った。

夕暮れ、門前で降伏した敵兵が関羽に頭を下げた。

「我々は負けたのに、なぜ飯をもらえる」

関羽は答えた。

「今は武器を置いた者だ。飢えさせる理由はない」

俺はその言葉を聞き、配給の列を軍と民で分けないよう指示した。

列の先で少年が熱い粥を受け取り、隣にいた元敵兵が器を支えた。

襄陽を取った実感は、旗が変わった瞬間ではなく、その小さな光景の中にあった。

襄陽の市が再び開いた日、店先には焼いた豆の匂いが漂った。

俺は通りの端に、修理を受け付ける小さな作業台を置いた。

壊れた鍋の取っ手、外れた車輪、穴の空いた桶。

戦場で覚えた修理の技術が、町の暮らしにも役立つ。

魏延は「こんなことまで軍がするのか」と呆れたが、次の日の朝には自分の兵を二人連れてきた。

戦場の帰り、趙雲はかつて救った少年に出会った。

少年は片方だけ新しい靴を履いていた。

「もう片方は?」と尋ねると、「弟にあげた」と胸を張った。

趙雲は言葉を失い、やがて馬から降りた。

「約束したな。戦のない道を通って来ると」

少年は頷いた。

「今日は馬の人、怖い顔してないね」

趙雲は目を細めた。

俺はその横顔を見て、勝利の報告よりも確かなものがここにあると思った。

城の子供たちは軍の荷車を珍しそうに囲んだ。

俺は車輪に手を触れないよう注意し、代わりに小さな木の模型を見せた。

子供たちは夢中で転がした。

黄忠は城壁の弓兵に弓を返す前に、城の治安を守る約束をさせた。

武器を取り上げるだけでは、町の明日は守れないと考えたのだ。

夜になると、襄陽の市場に一つずつ灯りが戻った。

俺は灯油の量を記録し、翌日も灯せるか計算した。

城を取るより、暮らしを戻す方が長い仕事だった。

城の古い鍛冶場では、攻城戦に備えて大量の矢尻が作られていた。

俺は鍛冶師に、今度は農具を直してほしいと頼んだ。

彼は「兵器しか作れぬと思っていた」と苦笑した。

壊れた鋤の刃を研ぐと、農民が深く礼をした。

魏延はその様子を見て、使わなくなった矢の鉄を持ってきた。

鉄を溶かす手間はかかるが、戦の道具が畑の道具に変わる。

俺は炉の火を見つめ、こういう仕事が増えてほしいと思った。

昼過ぎ、子供が作業台へ壊れた木椀を持ってきた。

俺が接ぎ直すと、子供は大切そうに抱えて走っていった。

高価な兵器を作ったときより、胸が温かくなった。

関羽は遠くからその様子を見て、「この城を取ってよかった」と呟いた。

俺は何も言わず頷いた。

新しい市の鐘が鳴った。

商人が店を開け、兵は道を譲った。

俺はその音を聞きながら、修理台の木屑を静かに丁寧に掃き集めた。

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