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転生したら三国乱世だった件  作者: レモンティー


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第七十二章:曹操の名将は、劉備軍を包囲したと確信した

曹操軍の指揮官は、劉備軍の左右に回り込んだという報告を受けて笑った。

「今度こそ逃がさぬ」

斥候の報告には嘘がなかった。

実際、敵の旗は俺たちの両側に見えた。

だが孔明は川沿いの風向きを確かめ、「包囲は形です。閉じるには時間が要る」と言った。

龐統は敵将の性格を知っていた。

「手柄を急ぐ者は、輪が閉じる前に勝利を宣言する」

敵の輪の内側で、俺たちは陣を縮めた。

兵が不安を漏らすたび、関羽は「旗を見るな。隣の仲間を見よ」と声をかけた。

張飛は逆に笑い飛ばした。

「囲まれたなら、逃げ道を探す手間が省ける」

俺は夜間の見張り交代を短くし、眠る兵に温かい豆汁を回した。

眠れぬ夜に豪華な食事は要らない。

腹を壊さず、体を冷やさず、明日の合図を聞けることが大切だった。

工房から届いたのは新しい信号板だった。

遠くからでも形を区別できる大きな板を、昼は高く掲げ、夜は覆い付きの灯火で合図する。

俺は色だけに頼らず、板の形と掲げる回数を組み合わせた。

霧や煙で見えなくなることも想定し、伝令を残す。

孔明は実物を見て頷いた。

「戦場では、伝わったつもりが最も恐ろしい」

龐統は「敵にも見えるのがよい」と意味深に笑った。

軍営には敵軍から逃れてきた商人もいた。

彼は敵将の気質を語る代わりに、街道の水場と荷車が通れない坂を教えてくれた。

龐統はその情報を大切に扱った。

「将の勇猛さより、車輪の通る道を知る者の方が今は役に立つ」

俺は商人へ食事を渡し、情報が正しければ家族の避難も手伝うと約束した。

勝利は、偉い人間の言葉だけで生まれるわけではない。

包囲されたと知らせる狼煙が二度上がった。

俺は山道の地図に印をつけたが、古い地図では橋が一本多い。

昨年の洪水で流されたと、地元の薪売りが教えてくれた。

「では、伝令はどこを渡る」

薪売りは黙って山の裏を指した。

孔明は彼に案内を頼み、兵ではなく軽い伝令だけを通すよう命じる。

龐統はわざと古い橋へ荷車の轍を残し、敵の斥候を誘った。


夕刻、敵は存在しない橋を探して足止めされた。

こちらの伝令は無事に戻ったが、案内した薪売りの靴は裂けていた。

俺は新しい草鞋を渡し、彼の村にも伝令が通ることを知らせる札を用意した。

地図の一本の線には、人が歩いた苦労が隠れている。

俺は伝令用の旗を手に取り、孤立しかけた歩兵のところへ歩いた。

「包囲の輪の間、何が一番困った?」と聞くと、答えは将たちの協議で想像したものとは違っていた。

負傷した伝令は、自分の足より馬の脚を心配した。

「あいつが止まれば、次の知らせが届かない」

俺は近道を選んだ判断を詫び、担架を担いだ。

謝罪だけでは傷は塞がらない。

敵に見つからない迂回路を、地元の炭焼きに教わることにした。

夜が明けると、敵将は劉備軍の旗が北へ動くのを見て、包囲の完成を急いだ。

しかし北へ動いたのは目立つ旗だけだった。

実際の主力は、関羽に率いられて西の窪地を抜けていた。

孔明は火薬の音を東で響かせ、敵将の視線を奪う。

龐統はあらかじめ偽の伝令を流し、敵の予備軍を南へ引き寄せた。

包囲を閉じるはずの敵軍が、自ら大きな隙間を作った。

関羽が敵の補給隊を押さえ、張飛が包囲の薄い一角を突破すると、敵将は初めて自分が囲んだのではなく、誘導されたのだと悟った。

劉備は追撃を制し、降伏した兵を保護した。

俺は新しい信号板の傷を確かめながら、使えた合図と使えなかった合図を記録した。

勝ったからこそ直すべきことがある。

孔明は俺の記録を見て言った。

「次はもっと速く動けます」

信号板の試験は、最初からうまくいったわけではなかった。

朝霧の中では板の形がぼやけ、風が強い日は旗が裏返った。

俺は見張りの兵に「分からなかった時は分からなかったと報告してくれ」と頼んだ。

失敗を隠される方が、道具が壊れるより恐ろしい。

試験に失敗した若い兵は叱責を覚悟していたが、俺が記録を取るだけなのを見て驚いた。

「失敗を教えてくれたから直せる」

その言葉に、彼は何度も頷いた。

龐統はその様子を見て「敵には間違えさせ、味方には間違いを認めさせる。面白いものです」と笑った。

孔明は扇で口元を隠した。

「間違いを認める軍は強くなります」

関羽は試験に参加した兵へ水を配り、「次は必ず届くようにしよう」と声をかけた。

俺は、これほど頼もしい仲間に囲まれているのだと、あらためて感じた。

包囲を信じた敵将は、谷の出口へ兵を詰め込んだ。

だが雨上がりの地面は荷車に向かない。

龐統が敵の進路を読めたのは、斥候が持ち帰った泥のついた車輪の跡からだった。

孔明は敵を追い詰めず、逃げ道を一つ残した。

「塞げば死兵になる」

俺はその判断に胸をなで下ろした。

勝つために必要な道と、生きて帰るために残す道は、同じ地図の上にあった。

俺は翌日、敵の包囲を抜けた伝令について現場の者から話を聞いた。

作戦図の上では整って見えたことも、実際には小さな不都合がいくつもあった。

誰かが道を間違え、誰かが荷を落とし、誰かが食事を後回しにしていた。

俺は一人ずつ理由を尋ね、怒る前に仕組みを確かめた。

失敗した人間を叱れば、その日は静かになる。

だが次から失敗が報告されなくなる。

それでは軍は強くならない。

兵の一人が「こんな細かい話まで聞くんですか」と不思議そうにした。

俺は答えた。

「細かいことが積み重なって、最後に大きな差になるんだ」

夕方、孤立しかけた歩兵から声を掛けられた。

包囲の輪の最中には言えなかった話があるらしい。

俺は腰を下ろし、相手が話し終えるまで口を挟まなかった。

そのあと伝令用の旗の置き場所を変えた。

ほんの小さな手直しだったが、次の当番の顔が少し明るくなった。

包囲を抜ける道を見つけたと俺は思った。

だが、先頭の荷車がぬかるみに沈み、後続が止まった。

俺が近道だと主張した道だった。

敵の矢が木の幹に刺さり、荷車を押していた若い兵が腕を負傷した。

張飛は俺に怒鳴る代わりに、黙って車輪の下へ肩を入れた。

龐統が退路を確保し、孔明は部隊を二手に分けた。

兵が助かったあと、俺は負傷した若者に頭を下げた。

「近い道と、通れる道は違います」

若者は顔をしかめながら「次は先に俺たちに聞いてください」と答えた。

俺は以後、地図の上に荷車の轍の深さまで書き込むことにした。

帰還した伝令の靴から、川底の小石が転がり出た。

彼が使った渡し場は地図にない。

俺は炭焼きの老人に道筋を描いてもらい、目印となる木を三つ聞いた。

孔明はその図を写し、次の伝令には同じ危険を負わせまいと決めた。

包囲の輪を破ったのは、一枚の不格好な地図だった。

包囲の報告が届いた夕刻、伝令の一人が戻らなかった。

俺は予備の馬を出そうとしたが、龐統が止めた。

「道を知らぬ者を急がせても、二人目を失うだけです」

地元の炭焼きに頼み、山裾の細道を確かめる。


やがて伝令は泥だらけで戻った。

敵の斥候を避けて川を渡り、合図の旗を失ったという。

俺は旗の代わりに色の違う布を荷車の側面にも付け、遠目でも所属が分かるよう改めた。

孔明は伝令を叱らず、「戻った者の失敗を聞けば、次に十人を救える」と言った。

包囲の輪が狭まる中、俺たちは逃げ道ではなく、情報の通り道を守っていた。

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