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転生したら三国乱世だった件  作者: レモンティー


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第六十八章:曹操は十万の大軍を集め、劉備軍との決戦を宣言した

曹操の命令は短かった。

「十万を集めよ。次は退かぬ」

敗戦を重ねた将たちは、誰も声を上げなかった。

曹操は机に置いた報告書を一枚ずつ指した。

火薬への対策、分散した陣への対策、関羽と張飛の同時攻撃への対策。

どれも失敗した。

「敵の武器を恐れるな。敵の食料を断て。渡しを押さえ、井戸を塞ぎ、荷車を焼け」

その命令が届いたとき、俺は初めて、曹操が本気で俺たちの弱点を見ていると知った。

十万という数字は、地図の上では小さな墨の点にすぎない。

だが一日食わせる米麦の量を計算すると、紙が足りなくなるほど大きい。

「曹操は自分の補給を維持できるのでしょうか」と俺が聞くと、孔明は答えた。

「維持できないなら、こちらの土地から奪うでしょう」

劉備は顔を曇らせた。

「民を逃がさねばならぬ」

関羽が避難路を確認し、趙雲が村ごとの護衛を申し出た。

張飛は敵の先鋒を迎え撃つ役を望んだが、龐統は首を振った。

「まずは、敵に急いでもらいます」

俺は工房へ駆け込んだ。

兵器を新しく作る時間はない。

すでに使っている装備を、壊れにくく、直しやすくするしかなかった。

盾の縁には革を張り、荷車の軸には予備を持たせる。

水袋は漏れを確かめ、雨覆いは縫い目を二重にする。

火薬は保管庫を分け、輸送の担当を固定した。

親方は俺の書いた一覧を見てため息をついた。

「全部やれというのか」

「優先順位をつけます。まず水袋、次に車軸、それから盾です」

「火薬が一番ではないのか」

「火薬があっても、水がなければ兵は倒れます」

親方はしばらく黙り、「分かった」とだけ言った。

十万の軍を迎える準備が進む一方で、村の市場には妙な静けさが広がっていた。

商人が穀物を売り惜しみし、塩の値が上がっている。

軍が買い占めるという噂が広まったのだ。

俺は劉備に頼み、軍が必要とする量と買い付けの期限を村の広場に掲示した。

文字を読めない人のため、炊事係の老女が声に出して説明する。

「軍が全部持っていくんじゃないのかい」と農夫が聞いた。

「家族が冬を越す分は残します。足りない分は別の道から運びます」

「そんな約束、戦になったら忘れるだろう」

俺は返す言葉を探した。

そこで劉備が前へ出た。

「忘れぬよう、村の者にも帳面ってもらう。こちらの記録と違えば、申し立ててほしい」

農夫はすぐには信じなかったが、翌日、約束した量だけを売りに来た。

工房では新しい装備の試験が続いた。

防水の覆いを掛けた荷車は、雨に強くなった代わりに中が蒸れた。

乾いた食料を入れた袋が湿り、俺は慌てて覆いの上部に通気口を作った。

雨が吹き込む向きも考えなければならない。

「完璧な道具はないんですね」と弟子が言う。

「ない。だから使った人の声を聞く」


その晩、孔明から使者が来た。

敵の先鋒が予定より早く動いたという。

俺は道具の改良を中断し、避難民のための食料袋を数え直した。

炊事場では、乾燥させた野菜を袋に詰めていた。

遠征が長引けば青菜が不足する。

塩漬けだけでは重いので、干したものと組み合わせる。

豆は煎って持たせ、麦飯は薄く広げて乾かす。

「これで腹が満ちるかね」と老女が言う。

「水があれば戻せます」

「水がなければ?」

「そのときは負けです」

老女は厳しい顔で俺を見た。

「だったら水を運ぶ人を、飯を作る人と同じくらい大事にしな」

俺は配給表の一番上に、水の欄を作った。

十万の大軍が集まるという報告は、最初は数字にしか見えなかった。

だが、地図に敵の進軍路を描くと、村がいくつも赤い線の下に隠れた。

「十万の兵は、一日にどれだけ食べる」と劉備が聞いた。

俺は概算を示した。

兵だけではない。

馬、荷役の者、職人、伝令。

数字を増やすたびに、帳面の端が足りなくなる。

「曹操は兵を集めた。だが集めた兵を食わせ続ける道は、限られています」と孔明。

龐統は首を傾げた。

「だからといって、飢えるまで待てば民の田畑が食い尽くされる。先に戦場を選ばせましょう」

俺は食料庫を一か所に集める案に反対した。

敵の斥候に場所が知られれば、そこを焼かれて終わる。

村ごとに小さな倉を設け、受け渡しの記録を二人で照合する。

盗難を疑われた村長が怒ったが、俺は帳面を彼に見せた。

「村の取り分を減らすためではありません。軍が借りた分を、必ず返すためです」

村長はしばらく黙り、最後に印を押した。

「戦が終わったら、忘れるなよ」

工房では火薬の保管箱を分散させた。

近くに火を置かない、濡れた箱はそのまま使わない、運ぶ者と確認する者を分ける。

派手な新兵器ではない。

だが、一つの事故で味方を失うことだけは避けたかった。

夕方、趙雲が子供たちを連れてきた。

避難先へ向かう途中、道に迷ったという。

馬超はまだいない。

関羽も張飛も、目の前の十万をどう崩すか考えている。

俺は子供たちに温かい汁を渡した。

一人が尋ねた。

「勝ったら、家に帰れる?」

「帰れるようにする」

約束した瞬間、胸が重くなった。

勝利の数ではなく、帰る場所を守れたかどうか。

その問いに答えられる戦にしなければならない。

決戦前夜、張飛が試作の携行食を味見した。

「これはうまい!」と言って二袋目を開けようとしたので、俺は慌てて止めた。

「一袋で半日の行軍分です。二袋食べたら明日が困ります」

張飛は胸を張った。

「なら明日は二倍働く!」

関羽が横から「働く前に馬が潰れる」と返し、兵たちが笑った。

笑いが収まると、張飛は残りを封じ、若い兵の袋へそっと入れた。

大声で笑わせる男ほど、誰にも見られないところで優しかった。

作戦を詰める席では、龐統が敵の進路を三本示した。

「曹操は大軍を一つにまとめると動きが鈍ることを知っています。だから三つに分け、最後に合流させるでしょう」

孔明は頷いた。

「合流の場所を、こちらで選ばせましょう」

「選ばせる?」

俺が尋ねると、龐統は地図の川筋を指した。

「十万が通れる道は、見た目ほど多くありません。橋、井戸、平地。大軍が欲しがるものを数えれば、進む先が見えます」


その夜、趙雲が村から戻った。

避難を拒む老人がいるという。

生まれた家を離れたくないのだ。

劉備は趙雲とともに村へ向かい、老人の話を聞いた。

無理に連れ出すのではなく、家畜を預かり、収穫物を運び、戦後に戻れるよう記録を残した。

俺はその記録に、家の位置と井戸の深さを書き添えた。

戦場の地図に、暮らしの情報が増えていく。

夜が明けると、曹操軍の先鋒が動いた。

遠くの山道に、途切れない旗の列が見える。

張飛が槍を握り直し、関羽は静かに目を細めた。

孔明と龐統は、まだ命令を出さなかった。

俺は荷車の車輪を最後にもう一度確かめた。

十万の敵に勝てるかどうかは分からない。

だが少なくとも、戦いが始まる前に壊れるものは一つでも減らしておきたかった。

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