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転生したら三国乱世だった件  作者: レモンティー


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第六十五章:孔明は敵の火薬対策を逆手に取り、五万の軍を破った

敵軍五万が、三列に分かれて南下してきた。

先頭は濡れ布を掲げ、中央は長槍、後尾は予備の騎兵。

火薬の音で止まらない訓練を積み、狭い谷も避けている。

前の敗北から学んだ、よく整った軍だった。

孔明は敵の陣形を見て「立派です」と言った。

張飛が眉をひそめる。

「褒めてどうする」

「立派な陣ほど、崩す順番が決まっています」

龐統は横から「まず自分たちが勝つと信じてもらいましょう」と付け加えた。

俺の役目は、兵が敵より長く動けるようにすることだった。

戦闘が長引けば、食事の時刻がずれる。

そこで炊事を二組に分け、先に食べた兵が交代で持ち場へ出る仕組みにした。

「冷えた飯は嫌だ」と張飛が言った。

「将軍の分も冷えます」

「俺だけか!」

「全員です」

張飛はしばらく俺を睨んだが、最後には笑った。

「なら文句は言えんな」

兵たちは乾いた麦飯を湯で戻し、豆の汁をすすった。

豪華ではない。

それでも腹が空く時間を短くできれば、長い待機に耐えられる。

孔明は敵に、こちらが火薬を運び込んでいるように見せた。

実際に運んだのは空の木箱で、危険な物は入れていない。

箱を見た敵は予定通り散開し、先頭の歩兵を広げた。

敵将は満足げだったという。

火薬を恐れず、しかも一度に多くを失わない。

完璧な備えに見えた。

だが広がった兵の間には隙間ができる。

号令を伝える旗手も離れ、横の部隊の動きが見えにくくなる。

「音に備えることと、命令を伝えることは別です」と孔明は言った。

五万の敵が退いた後、俺たちは囮に使った荷車を集めた。

車輪の一つが割れ、もう一つは軸が曲がっていた。

戦場で役目を終えた道具を、ただ捨てるわけにはいかない。

「こんな車を何に使う」と兵が尋ねた。

「直せば、次は食料を運べます」

俺は職人と一緒に車輪を外した。

木の乾き方にむらがあり、継ぎ目から割れている。

木材を替えれば済む話ではない。

作るときの乾燥期間を見直す必要があった。

孔明はその作業を眺めながら言った。

「敵は火薬を恐れて盾を増やしました。我々は敵の盾を恐れて車を増やした。恐れから生まれた工夫も、使い方次第です」

「でも、壊れたら終わりです」

「だから一度の勝利で満足しないのでしょう」

夜、戦いに参加した兵へ麦飯と温かい汁を出した。

南の道で囮を務めた兵は、自分たちが逃げたように見えたことを悔しがっていた。

関羽はその前へ進み、静かに言った。

「お前たちが退いたから、我らが進めた」

その言葉で、兵の顔が変わった。

俺は夜が明けると、囮の荷車を修理する班に彼らを招いた。

戦で役目を終えた道具を直す手つきは、戦場の誇りを別の形に変えていくように見えた。

後日、南の道に残った轍を見に行くと、村人が車輪の跡に土を入れていた。

雨が降れば水が溜まり、畑へ流れ込むという。

俺も鍬を借りて埋め戻した。

戦に勝ったという知らせは遠くまで届く。

けれど、その勝利の跡を片づける仕事は、誰かが目の前でやらなければ終わらない。

正午、関羽が敵の右翼へ小さく攻めかかった。

敵は予定通り予備兵を向けた。

そこへ張飛が左翼の遠くに姿を見せる。

敵将は二人の豪傑を同時に押さえようとして、中央の兵を薄くした。

その瞬間、孔明が白い旗を上げた。

火薬の音はしない。

旗を見た趙雲の騎兵が、敵中央の伝令路へ走った。

趙雲は敵の旗手を斬り伏せるのではなく、旗を奪って横へ投げた。

次の命令が届かない。

左右の部隊は互いに後退を始めたと誤解し、列を乱した。

孔明は出陣前、敵の布陣を見たまま長く黙っていた。

五万の敵は三列に分かれ、中央を厚くしている。

火薬の音に備えた盾兵を前へ出し、左右の騎兵がこちらの側面を狙っていた。

「中央を破れませんか」と俺は聞いた。

「破る必要はありません。あの中央は、破られないために集められた兵です」

龐統が笑った。

「強い場所へ突っ込むより、強い場所を役立たずにした方が安い」

俺たちは三日前から、南の細い道へ空の荷車を走らせていた。

敵の斥候には、そこへ兵糧が集まっているように見える。

実際の食料は北の林で小分けにし、夜明け前に各隊へ配っていた。

しかし、策の途中で雨が降った。

荷車の車輪がぬかるみに沈み、囮に使う予定の車が一台動かない。

兵は焦り、牛を叩いた。

「やめろ。牛が倒れたら、荷車より困る」

俺は車輪の下へ枝を敷き、積み荷を半分降ろした。

近くにいた趙雲が手を貸してくれる。

泥だらけになって押すと、車がようやく動いた。

「軍師の策も、車輪が回らなければ止まるのだな」と趙雲が言った。

「笑えませんよ」

戦が始まると、敵は南の道へ騎兵を向けた。

空の荷車を守るように見せた少数の兵が退く。

追った騎兵は細道で速度を落とし、その間に関羽が敵の左翼を圧迫した。

中央の盾兵は援護に出ようとしたが、隊列を崩す命令が届かない。

孔明は火薬を使わなかった。

代わりに太鼓を三度打ち、張飛を右翼へ回した。

敵将がようやく中央を動かしたとき、左右の兵はすでに離れていた。

「五万を倒したのではありません」と孔明は戦後に言った。

「五万が一緒に戦えないようにしたのです」


その夜、俺は泥のついた車輪を洗った。

勝利の決め手が一台の空荷の車だったことを、後世の史書は書くだろうか。

龐統は敵の逃げ道を一つ残していた。

逃げる兵を追い詰めれば、死に物狂いの抵抗を招く。

敵将が退却を命じたとき、すでにその道には関羽の騎兵が並んでいたが、刃は振るわなかった。

「武器を置けば通す!」

関羽の声が届くと、敵兵が次々と槍を捨てた。

張飛は追撃したが、捕虜の列を見て足を止めた。

「逃げる奴を追うより、荷車を押さえろ」

以前なら考えられなかった命令だった。

勝報は夕方に届いた。

五万の軍は壊滅したのではない。

隊としての形を失い、多くが降伏し、残りは散って退いた。

俺は捕虜の数を聞き、思わず額を押さえた。

昨日までの食料計算が全部やり直しだ。

龐統が笑う。

「敵が生き残ったことを、そんなに困った顔で迎える人は初めて見ました」

「困ってるんです。でも、死なれるよりずっといい」

孔明は敵の陣形図に筆を入れた。

散開する対策は間違いではなかった。

火薬への備えとしては正しい。

ただ、こちらはその備えを見て別の戦い方を選んだ。

「策が勝ったのではありません」と孔明は言った。

「敵を見て、策を変えたことが勝因です」

俺は配給表の数字を書き直した。

戦い方を変えられる軍なら、食べさせ方だって変えられる。

次の戦で必要なのは、また新しい答えだ。

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