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転生したら三国乱世だった件  作者: レモンティー


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第六十四章:曹操の名将が、火薬を封じる新戦法で挑んできた

敵が火薬を恐れなくなった。

その知らせを聞いて、俺はむしろ身震いした。

曹操が送り込んだ将は、兵に厚い濡れ布を持たせ、散開して進ませていた。

前衛が音に驚いても後衛が止まらないよう、隊を小さく分けている。

火薬の轟音を合図に使えば、その合図まで読まれる可能性があった。

「敵も学ぶんですね」と俺が言うと、孔明は当然だという顔をした。

「こちらだけが学ぶ戦なら、策など要りません」

龐統は敵の配置図を指で弾いた。

「恐れを克服した将は強い。ただし、克服したことを証明したくなる」

作戦を詰める席では張飛が「ならば火薬を増やせばいい」と言いかけた。

俺は慌てて首を振る。

「増やせません。雨が続いて保管庫の一部が湿っています。乾かせば済むものでもありません」

工房の親方が同意した。

危険な道具は、数だけ増やせば扱えるわけではない。

俺たちは保管場所を分け、担当者を決め、使用しない判断も作戦に組み込んでいた。

関羽が言った。

「ならば、刀と槍で勝つ」

孔明は微笑んだ。

「それができるよう、敵を動かします」

敵は川沿いの平地に陣を築き、こちらが火薬を使いやすい狭い谷を避けた。

守りは堅く、こちらの斥候も近づけない。

俺は工房で作った分解式の柵を見せた。

短い木材を縄で結び、地面に打ち込む。

頑丈な城壁にはならないが、夜のうちに歩兵の足場を整えるには役立つ。

「これで敵を止めるのか」と張飛。

「一晩だけです。次の日の朝には外せます」

「一晩で足りるのか」

龐統が答えた。

「一晩あれば、敵にこちらの本陣がそこにあると思わせられます」


数日後、敵が使った板盾の破片が工房へ運ばれた。

板の厚みは一定ではなく、前面に泥を塗った跡がある。

火の粉を防ごうとしたのだろう。

敵も失敗を重ねて学んでいる。

「これを真似しますか」と若い職人が聞いた。

「そのままでは重すぎる。まず何を守ろうとしたのか考えよう」

俺たちは盾の裏側を調べた。

持ち手は大きな手に合わせてあり、腕の細い兵では固定しにくい。

試しに兵舎の新兵へ持たせると、三十歩で肩を落とした。

孔明はその様子を見て言った。

「敵の弱点は盾ではなく、盾を持ち続けねばならない隊列です」

関羽は騎兵を率いて遠回りし、敵の板盾隊を動かした。

敵将は盾を捨てれば速く進めるが、捨てれば火薬を恐れる兵が混乱する。

結局、重い盾を抱えたまま方向を変えた。

戦いの後、捕虜になった敵兵は手のひらの皮がむけていた。

俺が薬草を煎じた湯を渡すと、彼は「盾を持つのが怖かった」とつぶやいた。

「火薬が怖かったのか」

「違う。盾を落としたら、後ろの味方に殺されると思った」

その言葉を孔明に伝えると、彼はしばらく黙った。

「兵を縛る道具は、いつか軍そのものを縛ります」

俺は新しい盾の設計図に、持ち手を外せる位置と、捨てて退く判断を訓練で教えることを書き足した。

夜が明けると、職人は壊れた盾を並べて、どの部分が先に傷んだかを兵に尋ねた。

誰も最初は答えられなかったが、一人が「走ると左の紐が食い込む」と口を開くと、次々に声が上がった。

俺はその言葉を一つずつ書き留めた。

戦術を考える軍師と、使いにくさを知る兵。

その両方の声がなければ、良い装備は生まれない。

俺たちは川の東岸に柵を立て、炊事場の煙をわざと見せた。

敵の斥候は大軍が集まっていると報告したらしい。

だが大鍋は空で、煙は湿った薪から上がっていた。

本物の食料と兵は、夜のうちに上流へ移動していた。

「食べ物を使った罠ではないから安心してください」と龐統は言った。

「空の鍋を洗うのは俺たちですけどね」

「そこは計算に入れておりませんでした」

孔明が珍しく吹き出した。

敵将は火薬の音を聞いても隊列を崩さなかった。

兵たちは耳を布で覆い、前列には厚い板が並ぶ。

初めて火薬を見たときのような混乱はない。

「真似されるのは当然です」と孔明が言った。

「こっちの切り札がなくなったら?」俺は尋ねた。

「切り札だと思わなければよいのです」

その言葉が気に掛かり、俺は工房へ戻った。

職人は防護柵の部品を作っていた。

杭を一体で削るのではなく、傷んだ部分だけ差し替えられるよう溝を切っている。

前線から戻った柵には矢が刺さり、泥が詰まっていた。

「溝を広げれば、交換は速くなる」と俺が言うと、職人は首を振った。

「広げすぎれば、衝撃で外れる」

試作品を地面に打ち込み、二人で体当たりしてみた。

一本目は外れ、二本目は割れた。

三本目でようやく持ちこたえる。

職人は笑わず、割れた木片を拾った。

「これが戦場で起きたら、人が死ぬ」

俺は失敗した二本も記録に残した。


その夜、関羽が工房へ来た。

敵の板盾を前に、槍で正面から崩すのは難しいという。

孔明は板盾の横へ回り込む道を探し、龐統は敵将が板盾を捨てられない理由を調べていた。

「敵は新しい道具を得たが、道具を守るために動きが遅くなった」龐統が言う。

関羽は静かに頷いた。

「ならば、敵の盾ではなく、盾を動かす足を攻めよう」

俺は作業台の上の割れた柵を見た。

兵器の強さは、材料の硬さだけでは決まらない。

使う者がいつ動き、いつ捨てるかまで含めて、初めて戦術になる。

夜が明けると、敵将は東岸へ進んだ。

火薬を防ぐ準備は万全。

だが、目の前の柵はわずかな兵で守られているだけだった。

敵が柵を越えようとしたころ、上流で関羽の部隊が浅瀬を渡った。

敵将は予備隊を向けたが、川沿いの狭い道で隊列が伸びた。

そこへ張飛が側面から現れ、補給車の列を押さえた。

「火薬はどうした!」

敵将の叫びは、勝ったと思っていた兵たちをかえって動揺させた。

彼らは轟音に備えて耳を塞ぐ訓練までしていたのに、必要だったのは後方を守ることだった。

戦いの後、捕虜の将校が俺に尋ねた。

「火薬を使わずに勝てるなら、なぜあんなものを作った」

「使わずに済む日を増やすためです」

口にしてから、自分でも少し意外だった。

火薬を生み出したころは、少しでも強い力が欲しかった。

今は、敵がそれを恐れて別の道を選び、結果として戦いを短くできるなら、それも価値だと思っている。

孔明は敵の濡れ布を手に取り、縫い目を調べた。

「よく考えた装備です。次は我々が学ぶ番でしょう」

俺はその布を工房へ持ち帰った。

雨の中で荷を守る覆いに使えるかもしれない。

工房の若者が「敵の布を真似るのですか」と顔をしかめた。

孔明は「良いものに敵味方はない」と答え、布を雨ざらしの麦袋にかぶせた。


翌朝、乾いていた袋は一つだけだった。

若者は何も言わず、その布を畳み直した。

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