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転生したら三国乱世だった件  作者: レモンティー


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第六十二章:張飛は、龐統の罠に落ちた敵軍を一気に突破した

張飛が怒鳴ると、天幕が揺れた。

「わざと倉を空に見せるだと? 敵に兵糧をくれてやる気か!」

龐統は眉一つ動かさない。

「空なのは見える倉だけです。敵が欲しいのは食料ではなく、劉備軍の補給を断ったという手柄でしょう」

敵将は、川沿いの補給所を襲うと宣言していた。

そこへ張飛が守備に出れば正面衝突になる。

だが龐統は張飛を林の陰に伏せさせ、敵に倉の入口を見せるという。

「俺を隠すのか」

「将軍が姿を見せれば、敵は疑います。将軍がいないからこそ、敵は安心して入る」

張飛は不満そうに鼻を鳴らした。

俺は、少なくとも食料を本当に置いておかなくて済むと知って胸をなで下ろした。

偽の倉を作るのは思った以上に面倒だった。

空の俵では軽すぎて見破られる。

俺たちは籾殻と砂を詰め、見た目と重さを似せた。

ただし本物の穀物と混ざらないよう、俵の底に赤い糸を縫い込む。

工房の親方は、俺が作らせた木製の盾を叩いた。

「これで火矢を防ぐつもりか」

「火矢を防ぐのではなく、煙の中で道を見失わないための目印にします」

盾の表に白い帯を描き、味方が進む方向を揃える。

火薬の煙は敵だけでなく味方の視界も奪う。

俺は過去の失敗を繰り返したくなかった。

作戦の前夜、張飛は兵たちの夕食を見て回った。

大豆入りの麦飯に干した野菜の汁。

普段なら文句を言いそうな彼が、黙って椀を手に取った。

「龐統の策は気に食わん。だが、腹を空かせて走るよりはましだ」

「待つのも戦いです」と俺が言うと、張飛は顔をしかめた。

「お前まで軍師みたいなことを言うな」

それでも彼は、先走りそうな若い兵を呼び止めた。

「俺が合図するまで、槍を出すな。命令を破った奴は帰ってから飯抜きだ」

炊事頭が聞きつけ、「飯を罰に使うんじゃないよ」と怒鳴り返した。

兵たちが笑い、張飛もつられて笑った。

龐統の策を聞いた張飛は、最初、露骨に顔をしかめた。

「俺が逃げるふりをするだと?」

「逃げるのではなく、敵に追わせるのです」

「同じことだろう!」

俺は二人の間に、試作した軽い木盾を置いた。

板の表に濡らした布を張り、裏には持ち手を二つ付けたものだ。

火薬の煙が流れてくる狭い道で、目と喉を守りながら進むために考えた。

万能ではないし、矢を完全に防げるほど厚くもない。

張飛は片手で持ち上げた。

「軽すぎる」

「だから走れます。重い盾は置いていくしかありません」

龐統は盾を指で叩いた。

「追う敵は、あなたの兵が弱ったと思う。ところが狭い谷に入った瞬間、盾が並ぶ。後ろから戻る道はない」

実戦前、張飛は兵を集めて訓練した。

旗が一度上がれば退く。

二度上がれば盾を並べる。

三度目で反転する。

だが二度目の合図で、若い兵が早まって振り返った。

張飛は怒鳴りかけ、口を閉じた。

「俺が最初に振り返ったからだな」

「はい」と若い兵は震えながら答えた。

張飛は旗手の位置を自分の真横に変えた。

次の訓練では、誰も早まらなかった。

戦が始まると、敵将は張飛の退却を見て笑った。

しかし追撃隊が谷へ押し寄せたとき、濡れ布の盾が一斉に立ち上がる。

煙が横へ流れ、張飛の声が谷底に響いた。

「今だ! 前に出ろ!」

槍を構えた敵は狭さに阻まれ、隊列を組み直せない。

張飛は最前列を破ったが、深追いはしなかった。

退路を塞がれた敵兵が武器を捨てたからだ。

戻ってきた張飛は盾を地面に置いた。

「逃げるふりも、悪くないな」

龐統は笑った。

「将軍が合図を守ってくだされば、もっと勝てます」

「余計な一言だ!」

その怒鳴り声に、兵たちはようやく笑った。

夜が明けると、敵は狙い通り倉へ進んだ。

斥候が赤い糸のついた俵を破り、籾殻が舞ったときには遅かった。

敵将は罠に気づき、退却を命じた。

だが狭い土手には荷車が入り、後続の兵が押し合っている。

龐統が予想したのは敵の勇気ではなく、奪った兵糧を持ち帰ろうとする欲だった。

「今だ、翼徳将軍!」

林から張飛が飛び出した。

彼の部隊は土手を正面から塞がず、荷車の列を横から断った。

先頭と後尾が切り離され、敵将の命令は伝わらない。

張飛の蛇矛が敵の旗を倒す。

敵将は馬を返そうとしたが、後ろに積んだ俵が邪魔をした。

「食い物を奪う前に、誰の畑から来たか考えろ!」

張飛の一喝に、敵兵の槍が次々と落ちた。

俺は補給隊とともに、負傷者の運搬を指揮した。

荷車に敷いた藁だけでは揺れが大きい。

工房で作った縄の吊り床を車台に取り付けると、石の多い道でも身体が跳ねにくくなった。

一人の敵兵が、味方の担架を見て目を見開いた。

「俺たちも乗せるのか」

「歩けないなら乗せる」

「敵だぞ」

「今は負傷者だ」

言い切った後、俺はその言葉の重さを感じた。

運ぶ人数が増えれば、こちらの食料も減る。

それでも劉備が選んだ戦い方は、勝った後に人を捨てないことだった。

帰営した張飛は龐統の前で腕を組んだ。

「策は見事だった。だが次は俺にも最初から説明しろ」

龐統は笑った。

「全部話せば、将軍の顔に出てしまいます」

「何だと!」

孔明が横から言った。

「では次は、顔に出てもよい役をお願いします」

張飛は一瞬黙り、腹を抱えて笑った。

敵の補給車を奪ったのではない。

敵が自分で持ち込んだ荷車を、進めなくした。

その違いを理解したとき、俺は龐統の恐ろしさを初めて肌で感じた。

戦が終わってから、俺は盾を回収して傷み具合を調べた。

濡れ布は泥で重くなり、持ち手の紐が二本切れていた。

戦場で使えたからといって、完成品とは言えない。

「次は布を外せるようにしましょう」俺が言うと、張飛は首を振った。

「外れる仕組みは、戦の最中にも外れるんじゃないか」

その指摘はもっともだった。

俺は木工職人と相談し、布を固定する留め具を変えた。

二度の訓練で一つは壊れ、三度目でようやく使える形になった。

張飛は新しい盾を持って走り、わざと転んでみせる。

「俺が転んでも外れねえ。だが、若い兵ならどうだ」

若い兵に持たせると、盾は少し大きすぎた。

取っ手の位置を変える。

装備を改良するとは、英雄に合わせることではなく、最も疲れた兵が扱えるようにすることなのだと痛感した。

龐統は訓練を見ながら、張飛へ言った。

「将軍が怒鳴る声は、敵にも聞こえます」

「聞かせてやればいい!」

「合図を隠したいときは困ります」

張飛は唸った末、旗手の腕の動きだけで命令を伝える練習を始めた。

最初は誰も合図を理解できなかったが、三日後には一度も声を出さずに隊列を変えられた。

俺は兵たちへ温かい豆汁を配った。

訓練を終えた少年兵が「今日は将軍が静かで怖かった」と言い、周囲が吹き出す。

張飛も笑っていた。

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