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転生したら三国乱世だった件  作者: レモンティー


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第五十六章:龐統は火薬を見て、孔明とは全く違う使い方を考えた

「鳴らす場所を変えよう」

龐統が言ったのは、火薬を見てから半刻も経たないころだった。

孔明は敵の動きを読み、必要な場所で轟音を響かせる。

龐統は逆に、敵が音を聞いたとき、何を疑うかを考えていた。

「敵が火薬のある場所を避けるなら、火薬がない場所へ誘えばいい」

「そこに伏兵を置くんですか」と俺。

「伏兵がいると敵が考えるなら、何も置かない方がいい場合もある」

張飛は頭を抱えた。

「いるのか、いないのか、どっちだ!」

「敵にそう思わせれば成功だ」

龐統は楽しそうだった。

俺は工房へ二人を案内した。

火薬はすでに運用しているものだが、雨に弱く、輸送の衝撃にも気を遣う。

工房の職人は木箱の内側を工夫し、揺れを和らげる仕切りを試していた。

龐統は箱の構造より、その外に貼った札に目を留めた。

「この札を敵が見たら、火薬だと分かるか」

「味方の運搬係には分かります」

「では敵も覚える。札を変えろとは言わない。ただ、敵が覚えることを忘れるな」

孔明が頷いた。

「敵は我らの成功を教材にします」

俺は職人頭に、目印の管理を厳しくするよう頼んだ。

味方の安全を損なう偽装はできない。

敵を騙すために、現場の兵を迷わせては本末転倒だ。


翌日の試験では、龐統は兵に「敵の荷車を見つけたらどうするか」と尋ねた。

若い兵は「奪う」と答え、古参兵は「罠を疑う」と言った。

龐統は両方に頷いた。

「相手がどちらの考えかを見抜くのが、軍師の仕事だ」

孔明はさらに「こちらの兵がどちらの考えかも知るべきです」と付け加えた。

二人のやり取りは、まるで盤上で互いの石を置き合うようだった。

俺は工房で、運搬用の車輪を交換しやすくする工夫を進めた。

壊れた車をその場で修理できれば、食料も救護具も止まらない。

職人頭は「火薬の次は車輪か」と呆れたが、作業には真剣だった。

龐統はその様子を見て、「戦場では一つの車輪が千の兵を動かす」と言った。

夜、張飛は干し飯の袋を一つ持ち帰った。

夜が明けると、「硬かったが腹は減らなかった」と報告してきた。

俺は笑った。

「味の方は?」

「次はもう少し旨くしろ」

その注文がある限り、俺の仕事も終わらない。

龐統が最初に試したのは、火薬ではなく荷車だった。

空の車を十台並べ、幌をかけて重そうに見せる。

別の車には本物の食料を積み、目立たない道を走らせる。

「敵は何を襲うでしょう」と龐統。

「大きい荷車の列」と張飛。

「そう考えるなら、相手も同じです」

関羽が口を挟んだ。

「だが敵が慎重なら、両方を襲う」

「だから関羽将軍の騎兵に、見つかった方を守ってもらう」

張飛は不満げだった。

「俺は?」

「敵が欲を出したとき、逃げ道を塞がずに追い払ってください」

「また追い払うだけか!」

「将軍が本気で追えば、敵は二度と同じ道へ来ません」

張飛は満足そうに笑った。

その日の昼、俺は携行食の試作品を渡した。

干した飯と豆を砕いたものを布袋に入れ、湯がなくても少しずつ食べられるようにした。

龐統は袋を指で揉んだ。

「これなら騎兵が一日余分に動けるな」

「ただし水が必要です。乾いたものだけ食べれば喉が渇く」

「水場の位置も策の一部になる」

孔明は作戦用の板に井戸を記した。

兵器の使い方を話していたはずが、いつの間にか水の話になっていた。

夕方、偵察隊が戻った。

曹操軍の小隊が、空の荷車を遠巻きに見て引き返したという。

「敵が火薬を積んでいると思ったらしい」と報告する兵。

龐統は首を振った。

「火薬があると思ったのではない。火薬があるかもしれないと思ったのだ」

「違うんですか?」

「大違いだ。確信した敵は対策を立てる。疑っている敵は、動くたびに迷う」

夜、俺は空の荷車を片づけながら考えた。

火薬は強力だ。

だが力の大きさだけでは、いつか敵に追いつかれる。

龐統はその先を見ていた。

「俺の発明を、使わない方がいいと?」

「違う。お前の発明があるから、使わずに勝つ道が増える」

龐統は笑って付け加えた。

「ただし、最後の一押しには本物が必要だ。そのときまで、大事に取っておけ」

俺は火薬庫の鍵を確かめた。

孔明は戦場の流れを読む。

龐統は敵の心を読む。

二人が揃った軍で、俺が守るべきものは変わらない。

兵が食べ、眠り、帰れること。

そのための道具を、明日も作るのだ。

孔明は龐統の案を聞き、俺に「彼の策は人の弱さをよく知っています」と言った。

俺は「怖いですね」と答えた。

孔明は首を振る。

「弱さを知ることは、守ることにも使えます」

俺は炊事場で疲れた兵を見て、その意味を少しだけ理解した。

龐統の提案を受け、俺は各隊の食料袋に小さな印をつけた。

誰が持っているかを示すためではなく、どの倉庫から出したかを後で確かめるためだ。

袋が破れたとき、原因を追いやすくなる。

龐統は「敵に見られたら補給路が分かる」と指摘したので、外から見えない場所へ印を移した。

味方の便利さと敵への情報漏れ。

その両方を考えるのは、思ったより骨が折れる。


午後、孔明は張飛の隊に、火薬の音がしても勝手に突撃しない訓練をさせた。

張飛は最初こそ不満げだったが、敵役の兵が横から現れると目を見開いた。

「なるほど、音の方ばかり見ていたら背中を取られる」

龐統は満足そうに頷いた。

「人は怖いものを見続ける。そこから目を逸らさせるのが策だ」

俺はその言葉を聞き、火薬を初めて使った日のことを思い出した。

敵が驚く姿を見て、俺自身も力に酔いかけた。

あのまま派手さだけを追っていたら、今頃どうなっていただろう。

新しい軍師が二人いることは、俺の発明を過信しないためにも必要だった。

村の祭りで龐統が「敵を惑わせるなら甘い汁を先に」と言い、孔明は「空腹の者に甘味だけでは長くもたぬ」と譲らなかった。

張飛は二つの鍋を抱えて「どちらも俺の勝ちだ」と宣言し、村の子供たちから「それは反則!」と一斉に叱られた。

笑いが収まったころ、年老いた料理番が口を挟んだ。

「戦場なら、味が違うだけで帰る道を思い出せるかもしれません」

龐統は真顔になり、味の違う携行汁を隊ごとの目印にする案を書き留めた。

冗談から始まった話が、迷子の兵を減らす工夫に変わった。

俺は料理番に、次の試作へ参加してほしいと頼んだ。

工房の片隅では、古い鍋の取っ手を直していた。

職人頭は「戦の道具ばかり作っていると、暮らしの道具が後回しになる」と言った。

俺は頷き、作業の時間を分けることにした。

火薬の箱を作る手も、鍋を直す手も同じ人間の手だ。

龐統はその話を聞き、「戦に勝って鍋がなくなったら、何を食うのだ」と笑った。

俺は、その冗談が案外大事な問いだと思った。

試験のあと、龐統は失敗した囮の配置を自分で片づけた。

木札の一枚を拾い、「この場所に味方がいたら、敵だけでなく味方も騙してしまう」と言った。

孔明は頷き、合図の色を変えるよう提案した。

俺は工房の職人に頼んで、煙に紛れにくい旗布を選んでもらった。

火薬をどう鳴らすかより、鳴らしたあと誰がどこへ動くか。

二人の軍師が見ている先を、俺もようやく追えるようになった。

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