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転生したら三国乱世だった件  作者: レモンティー


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第五十四章:孔明は俺に、もう一人の天才を迎えるべきだと告げた

「軍師が二人必要です」

孔明は朝の将たちの協議で、あっさりそう言った。

張飛が目を丸くする。

「お前一人で三万を追い払っただろう。二人いたら何をするんだ」

「私が間違えたとき、止めてもらいます」

その答えに、部屋が静まった。

俺は孔明を見直した。

勝った直後に自分の弱点を口にできる人間は、そう多くない。

「名は龐統。字は士元。鳳雛と呼ばれています」

胸がざわついた。

三国志を知る俺には、その名が持つ重さが分かる。

臥龍と鳳雛。

歴史では、才能があってもすべてを救えるわけではなかった。

「会ったことが?」と劉備。

「あります。私と違うところを見ます。敵を倒すより、敵が戦う理由を失うところを」

「それなら、ぜひ迎えたい」と劉備は言った。

ただし、人を招くのは簡単ではなかった。

こちらが勝ち続けているからといって、相手が仕えたいとは限らない。

俺は書状に何を書くべきか悩んだ。

三万を退けた戦功か、火薬の威力か、劉備の仁徳か。

「どれも書かなくてよいでしょう」と孔明。

「じゃあ、何を?」

「本当の困りごとを」

俺は書き損じた札を並べ直した。

兵は増えたが、輸送車は足りない。

捕虜を受け入れれば食料が減る。

村を守るには守備隊を置かなければならず、攻める兵が減る。

勝てば勝つほど、次の戦の準備が重くなる。

孔明は頷いた。

「鳳雛なら、その数字に興味を持ちます」

使者が発つ前、俺は龐統に見せるための記録を一冊にまとめた。

勝利した日の兵糧だけでなく、雨で輸送が遅れた日、鍋が足りず食事が冷めた日、捕虜を受け入れて豆が不足した日も書いた。

孔明はそれをめくり、「この軍が失敗を隠さないと分かれば、彼は来るでしょう」と言った。

関羽は使者に護衛を二人つけた。

張飛は「俺が行って連れてくる」と言い出したが、劉備は笑って止めた。

「お前が行けば、断る暇も与えぬだろう」

張飛は胸を張った。

「その方が早い!」

誰も否定しなかったが、誰も賛成もしなかった。


その夜、俺は史実で知っている龐統の最期を思い出した。

知識があるからといって、彼を一生危険から遠ざけることはできない。

それは本人の選ぶ道を奪うことにもなる。

俺にできるのは、危険を減らす道具を作り、誰かが失敗したときに戻れる道を用意することだけだ。

未来を変えるという言葉の重さを、初めて具体的に感じた。

書状を運ぶ使者には、若い記録係を選んだ。

張飛は反対した。

「名のある武将を送った方が礼儀だろう」

「この人なら、書付台帳身を説明できます」

若者は青ざめた。

「俺が、そんな大人物に?」

俺は肩を叩いた。

「分からないことは分からないと言えばいい。見栄を張るより信用される」

孔明も微笑んだ。

「それが一番難しいのですがね」


その日の午後、俺は荷車の車軸を調べた。

戦勝で兵が増え、重い荷を積みすぎる車が出ている。

車軸が折れれば、食料も包帯も届かない。

職人頭と相談し、車ごとの積載量を木札で示すことにした。

「また札か」と職人頭。

「文字が読めない人にも分かるよう、印を刻みます」

「それなら俺にもできる」

小さな改良だが、俺はこういう仕事が好きだった。

前世の知識を使うなら、人を驚かせるためだけではなく、明日も同じことができる仕組みにしたい。

夕方、劉備が俺を呼んだ。

「孔明は、お前が鳳雛を知っているように見えたと言う」

俺は息を止めた。

「名は聞いています。大変な才人だと」

「そうか。なら、迎えたときはお前も話してやってくれ。あの者に、この軍がどんな苦労で立っているかを」

劉備は窓の外を見た。

畑へ帰る農民と、訓練場へ向かう兵が同じ道を歩いている。

「わしは天下を望む。だが、そのために民を飢えさせる天下なら、手に入れて何になる」

俺は深く頭を下げた。

使者が発った夜が明けると、孔明が俺の机に新しい図面を置いた。

食料の輸送路を三つに分け、どれか一つが塞がっても軍が止まらないようにする案だった。

「龐統が来る前に、できることをしておきましょう」

「二人が揃ったら、どんな策が出るんでしょうね」

「まず私の案に文句をつけるでしょう」

孔明は楽しそうだった。

俺は少しだけ安心した。

未来を知っていても、未来を変えるのは目の前の人間だ。

鳳雛を迎えるなら、歴史の名場面をなぞるためではない。

この軍の誰かが、明日も生きて飯を食えるようにするためだ。

使者の馬が門を出ると、張飛は「帰ってこなかったら俺が迎えに行く」と言った。

俺は「そのときはまず手紙を書いてください」と頼んだ。

張飛は筆を持つ姿を想像したのか、ひどく嫌そうな顔をした。

関羽が静かに笑い、久しぶりに将たちの前が和んだ。

使者が発って三日目、激しい雨が降った。

俺は川の増水を見て、龐統を招く道が塞がれていないか心配になった。

孔明は現場から届いた報告を聞いて「橋を避けるなら、この村を通るはずです」と言った。

俺は宿場へ知らせを送り、道が悪ければ無理に進ませないよう頼んだ。

人を迎えるというのは、到着の日を決めることではない。

安全に来られる道を整えることだ。

夕方、劉備は俺に一つの問いを投げた。

「才ある者が集まれば、必ず勝てるのか」

俺は答えに詰まった。

孔明が代わりに言った。

「才ある者が集まっても、互いに耳を貸さなければ弱くなります」

劉備は笑った。

「なら、わしの仕事は耳を貸すことだな」

その言葉に、孔明は深く頭を下げた。

俺は工房へ戻り、雨で湿った干し飯を確かめた。

袋の口が甘いものだけ傷みが早い。

保存食は作って終わりではない。

運び、開け、食べるところまで考えなければ役に立たない。

俺は結び方を変えた袋を作り、使者が戻ったときに試してもらうことにした。

鳳雛を迎える準備は、作戦会議の外でも進んでいた。


数日後、使者から無事を知らせる短い書状が届いた。

龐統にはまだ会えていないが、道中の宿で劉備軍の評判を聞いたという。

兵が村の食料を奪わなかったこと、負傷者を置き去りにしなかったこと。

俺は読みながら胸が熱くなった。

俺たちの名は戦場の外でも広がっている。

派手な勝利の話だけでなく、地味な約束が人から人へ伝わる。

それなら、鳳雛にも届くかもしれない。

使者が戻るまで、俺は客用の席を空けたままにした。

張飛は「来なかったらどうする」と尋ねる。

「それでも椅子は無駄になりません。次に誰かを迎えるときに使えます」

そう答えた俺を、孔明は少し不思議そうに見た。

「あなたは人を迎える準備を、兵器を整えるのと同じくらい大切にするのですね」

俺は空の椅子を拭いた。

戦に勝つための知恵を招くのだとしても、まず一人の旅人に座ってもらう場所が要る。

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