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転生したら三国乱世だった件  作者: レモンティー


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第五十一章:孔明は火薬を使った十の戦術を、一晩で考案した

朝、孔明の机には十枚の木札が並んでいた。

「一晩で考えたんですか」

「眠れなかったので」

俺が呆れていると、孔明は一枚目を裏返した。

そこには「渡河援護」と書かれていた。

二枚目は「退却路の遮蔽」、三枚目は「敵の伝令分断」

最後の札は「使用せず」とある。

「十番目が一番難しい」と孔明は言った。

「鳴らせば勝てると思った瞬間、人は鳴らす理由ばかり探します」

張飛が顔をしかめた。

「難しいことを言うな。十枚あるなら十回勝てるだろう」

「十回鳴らして一回しか勝てないなら、九回分の火薬を失います」

俺は倉庫の在庫表を差し出した。

火薬はすでに開発済みだが、原料の調達も職人の手も無限ではない。

しかも運ぶたびに護衛が必要になる。

孔明は数字を見て、三枚の札を取り除いた。

「では、残り七つを現実の策にしましょう」

北の渡しでは、曹操軍の前衛が船を集め始めていた。

こちらが守る南岸には、収穫を控えた麦畑が広がる。

敵を止めるために畑を焼けば、冬に食うものがなくなる。

関羽が尋ねた。

「渡しを守ったあと、農民は戻れるのか」

孔明は答える前に俺を見た。

「水路を壊さなければ戻れます。けれど堤を切ったら、来年の畑まで失う」

「ならば堤は守る」と関羽。

張飛は渋い顔で言った。

「じゃあ俺はどこで暴れればいい」

「敵が本当に渡ってきたときです」と孔明。

その場の全員が笑ったが、張飛だけは真剣だった。

渡しの見張り番からは、敵の船が引き返すまでに三度、川面へ近づいたという報告が届いた。

孔明はそれぞれの時刻を聞き、川の流れと風向きを重ねた。

「敵もこちらの煙を見ています。次に同じ時刻で炊事をすれば、今度は見破られます」

俺は炊事係に相談した。

食事の時刻を変えると、兵の腹が空く。

そこで干し飯を少し配り、待つ兵の空腹を和らげることにした。

関羽は新兵を連れて川岸を歩いた。

泥に沈む足を見て、長靴のようなものがあればと俺は思ったが、すぐに作れるものではない。

代わりに布を巻く方法を変え、乾いた替えを各隊に持たせた。

小さな改善だが、足を傷めた兵は行軍できない。

関羽は一人の兵の足元を確かめ、「勝負の前に歩けなくなっては話にならぬ」と言った。

孔明の札には、結局まだ使われていない策が七つ残った。

張飛はそれを惜しんだが、孔明は「残る策があるということは、次の危機に備えがあるということです」と答えた。

俺はその言葉を、倉庫の予備の米俵と重ねて覚えた。

使わずに済んだものにも、確かな価値がある。

俺は旗の色と太鼓の回数を整理した。

火薬の煙が出たときに旗が見えなければ、予備の伝令が走る。

伝令が走れなければ、太鼓に切り替える。

逆に、何の合図もないうちは味方は前進しない。

前回の試験で煙の向こうにいた兵が勝手に動き、危うく衝突しかけた反省からだ。

「旗を覚えるのが苦手な奴もいる」と張飛。

「だから三種類だけにしました」

「三つなら俺でも覚えられる!」

「将軍を基準にしたわけではありません」

関羽が咳払いをして笑いを隠した。

昼、炊事場で干し飯を試食した。

米を一度蒸し、乾かして持ち歩けるようにしたものだ。

湯で戻せば食べられるが、そのままでは硬い。

俺は豆を炒って粉にしたものと塩を少し混ぜ、兵が長く歩いても腹持ちするようにした。

「旨くはないな」と張飛。

「遠征で腹を壊すよりはいいでしょう」

「旨い方がもっといい」

まったくその通りだった。

俺は職人に乾燥野菜の刻み方を相談した。

戦術の改良と食事の改良は、同じ日に進む。

日暮れ、敵の船が岸を離れた。

孔明は火薬箱に手を伸ばさなかった。

代わりに、上流の森で旗を動かさせた。

渡しのこちら側には弓兵を隠し、太鼓だけを鳴らす。

敵は上流から別動隊が迫ると勘違いし、船を岸へ戻した。

「敵が戻るぞ。追うか!」と張飛。

「追えば川の中です。敵の弓の的になります」

孔明は静かに首を振った。

敵は二度目の渡河を試みなかった。

戦のあと、俺は渡しの農民から礼を言われた。

だが村長は真顔で尋ねた。

「軍が去ったあと、また来るんじゃないか」

「来るでしょう」と俺は答えた。

「だから次は、村が先に逃げられる仕組みも作ります」

村長は少し考えてから、子供に道を教える役を引き受けた。

夜、孔明の十枚の札をもう一度見た。

派手な札ほど目を引く。

けれど今日、俺たちを助けたのは火薬の爆音ではなく、敵の疑念だった。

孔明は十番目の札を指で叩いた。

「これを選べる軍なら、長く戦えます」

俺は頷いた。

火薬を作ったのは俺だ。

だが、いつ使わないかを決めるのは、これからもっと難しくなる。

夜番の兵が、川向こうの灯を数えながら「あれも俺たちを騙しているんでしょうか」と聞いた。

俺は「かもしれない」と答えた。

孔明は横で「だから確かめるのです」と言った。

疑うことと恐れることは違う。

俺は新兵に、見たことだけを報告するよう教えた。


その夜、張飛は十枚の木札を借りて兵に説明していた。

ところが三枚目と四枚目を取り違え、「ここで敵を脅かし、ここで飯を食う!」と言ってしまう。

兵が笑うと張飛は顔を赤くした。

「笑うな、腹が減っているだけだ」

俺は干し飯を差し出した。

「将軍、まず食べましょう」

張飛は一口噛み、「硬い!」と叫んだ。

今度は俺が笑われる番だった。

孔明はその光景を見て、札の文字を短くした。

難しい言葉を覚えさせるより、動作を一つに絞る。

訓練の翌日、張飛は間違えずに全員を動かした。

「ほら見ろ」と胸を張る将軍に、孔明は真顔で礼をした。

兵たちの笑顔は、昨日より明るかった。

俺は、良い仕組みとは人の失敗を責める仕組みではなく、失敗しにくくする仕組みなのだと改めて思った。

渡しの農民には、敵が再び来たときの知らせ方を決めてもらった。

寺の鐘を二度鳴らしたら家畜を移し、三度なら子供を丘へ逃がす。

村長は「軍の太鼓と間違えないか」と尋ねたので、鐘の間隔も変えた。

軍の策と村の避難が噛み合うまで、俺たちは何度も試した。

孔明は最後に「これで火薬を使う前に守れるものが増えました」と言った。


その晩、川岸から戻った斥候が言った。

「敵は渡しを諦めていません。上流で筏を組んでいます」

張飛は十枚の札を見つめた。

孔明は最後の一枚、「使用せず」を裏返す。

「今度は使うかもしれません。ただし、使うのは敵が渡り切る前ではありません」

俺は保管庫の鍵を握り直した。

守るべき畑の位置と、避難した村人の人数を、地図にもう一度書き込んだ。

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