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転生したら三国乱世だった件  作者: レモンティー


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第百十一章:江東の水軍は、俺たちの船を一隻も通さなかった

最初の商船団は、川の真ん中で止められた。

岸に並ぶ孫権軍の旗。

船首に立つ若い将が、「江東の許しなく進むな」と叫んだ。

こちらの船頭は竿を握り締め、兵は弓を取ろうとした。

「弓を下ろせ」

俺は命じた。

商船を守る護衛は戦うために乗せたのではない。

船に積んだのは麦と乾燥させた豆、それに熱を通して固めた携行食だった。

しかし若い将は、荷を調べても通してくれなかった。

「兵糧を民の品と偽っているかもしれぬ」

その疑いはもっともだった。

俺たち自身、つい先日まで同じように敵の荷を疑っていたのだから。

戻った俺に張飛は怒鳴った。

「食い物まで止めるのか!」

孔明は船団の位置を聞くと、地図の一点に印を付けた。

「渡しを止めたのは敵の命令でしょう。だが、船を沈めなかった。交渉の余地は残っています」

俺は別の手を考えた。

兵を渡す前に、船を直せる職人を集める。

川の船は底が浅く、北方の荷車のように部品を揃えるわけにはいかない。

江東の船大工から学ばなければ、戦に勝っても川を支配することはできない。

工房では竹を編んだ浮き具を試した。

兵が鎧を着たまま川へ落ちれば、泳ぎの上手さは役に立たない。

浮き具は濡れると緩み、一度目の試験で外れた。

二度目は締め過ぎて胸が苦しい。

三度目にようやく、荷を背負わない船員なら浮いていられる形になった。

俺は職人に頭を下げた。

「戦で使う前に、漁師にも試してもらいたい」

「漁師を実験台にする気か」

「違う。危ないところを教えてもらうんです」

漁師は一目で問題を見抜いた。

浮き具が船縁に引っかかるのだ。

紐の位置を変えると、乗り降りが楽になった。

一方、龐統は江東の船頭たちが川の関所を嫌っていると知った。

関所の兵は徴発した船を返さず、漁に出る者まで止めていた。

「孫権の命令を守る者が、孫権の民を苦しめている。そこを知らせましょう」

孔明は通行証を改め、軍の船と民間の船を明確に分けた。

軍船を民船に偽装することも禁じた。

「我らが先に約束を守らねば、敵に約束を求められません」


三日後、江東から小さな返事が届いた。

商船の通行は認めない。

しかし負傷した漁師をこちらの岸へ運ぶことは許す、というものだった。

俺は診療所の灯を増やした。

川を渡ってきた最初の船に乗っていたのは、敵兵ではなく、魚網で手を切った老人だった。

戦はまだ始まっていない。

だが川には、すでに守らなければならない人がいた。

船着き場で俺は、戻された豆袋の底が濡れているのに気づいた。

荷役の老人が指で縫い目をなぞる。

「川の水じゃない。船底にたまった水だ。板が反ってる」

船を通す通さない以前に、積荷を腐らせてしまう。

俺は袋をいったん岸へ上げ、木枠の上に積み直した。

船大工には底板の継ぎ目を調べてもらう。

板を一枚取り替える間、趙雲は見張りに立ち、馬超は荷馬車で迂回できる村を探した。

「戦が始まる前に食い物を失うところだったな」と趙雲が言う。

「敵が止めた船でも、腐らせたのは俺たちの不注意だ」


その夜、乾いた豆を煮た汁を船頭たちに振る舞った。

岸の向こうにも同じ煙が上がる。

あちらの船頭だって、明日の飯を心配しているはずだった。

漁師の老人は、俺たちの浮き具を抱えてしばらく考え込んだ。

「これを作るなら、子供用もいるな」

戦場のことしか考えていなかった俺は言葉に詰まった。

老人は、嵐の日に転覆した船から孫を救えなかった話をした。

俺は作業台に戻り、寸法を小さくした試作品を作った。

ただ小さくすればいいわけではない。

肩が抜けないように結び目を変え、動ける余裕を残す。

老人は何度も直しを求めた。

夕方、試作を終えると、彼は浮き具を撫でて言った。

「兵だけが川に落ちるわけじゃない」

俺は返す言葉がなかった。

戦のために作った道具が、戦のない日にこそ役立つなら、その方がいい。

船大工たちは軍の船を直す代わりに、漁船の修理も請け負うことになった。

兵の仕事を奪うのではと心配したが、古参の職人は「戦が終われば軍船ばかり直してはいられん」と言った。

俺は工賃表を作り、材料の値を公開した。

値が見えるだけで、揉め事が少し減った。

川止めされた船の上で、豆の煮汁が冷めていた。

水夫の一人が「俺たちは兵じゃない」と呟く。

俺は船縁に腰を下ろし、荷札を一枚ずつ読み上げた。

麦、薬草、針、糸。

槍も矢もない。

だが岸の兵には、その違いが見えないのだ。

漁師の老人は浮き具を抱えたまま首を傾げた。

「これを付けたら泳げるのか」「浮きやすくはなります。でも川を甘く見てはいけません」

試した若い水夫が横向きに流され、趙雲が岸から縄を投げた。

笑っていた兵たちの顔が青ざめる。

俺は試験記録の最初に、失敗した距離を書き込んだ。

夜が明けると、関所を確かめるために現場へ出た。

昨日の約束が今日も守られているか、記録上の数字と目の前の景色を比べる。

船大工のそばには、まだ片づけられていない道具が残っていた。

兵は先へ進みたがったが、俺は手を止めさせた。

「次にここを使う人が困る」

若い兵は不満そうにしながらも、道具を揃え、壊れたものを別にした。

しばらくすると診療所のことを知る者がやって来て、俺たちのやり方の間違いを教えてくれた。

俺は礼を言い、作業をやり直した。

正しいつもりで進むより、間違いを教えてもらえる方がありがたい。

日が傾くころ、岸に取り残された運び手が船員用の水袋を運んできた。

江東水軍の封鎖が終わったあとも仕事は残る。

俺たちは互いに手を貸し、壊れたものとまだ使えるものを分けた。

明日の隊が同じ失敗をしないよう、作業を見た者に一行ずつ記録を書いてもらった。

俺は江東水軍の封鎖の経過を振り返り、船員用の水袋が誰の手から誰の手へ渡ったのかを確認した。

岸に取り残された運び手の名前も記録した。

手順を決めた人間だけでなく、実際に働いた人間の声を次の準備に生かすためだ。

劉備に川の様子を伝えると、彼は敵船の数より、止められた民船の乗員を尋ねた。

「子供はいたか」「二人いました。母親が一人で抱えていました」

劉備はしばらく黙り、「渡れない理由を知ることと、渡れない者を放っておくことは違う」と言った。

俺は対岸へ食料を渡すための小舟を手配した。

夜が明けると、子供の一人が岸から手を振った。

昨日の豆汁を入れた椀を、母親が洗って返してくれたのだ。

椀の底には小さな魚の絵が描かれていた。

誰かが暇を持て余して彫ったのだろう。

俺はそれを荷箱に戻さず、船頭に頼んで同じ椀をもう一度届けてもらった。

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