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転生したら三国乱世だった件  作者: レモンティー


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第百二章:曹操は火薬への対策を完成させたと確信した

曹操軍の前衛は厚い盾と散開隊形を用い、火薬の音にも動じない訓練を重ねていた。

敵将は「これで劉備軍の切り札は無力だ」と誇った。

俺が保管庫へ入ると、曹操軍から逃げてきた老兵が、震える手で濡れた火縄を差し出した。

「向こうはもう爆音を怖がらん。盾の裏で耳を塞いでいる」

俺は試験場で勝てたからと、戦場でも同じ結果になると決めつけていた。

試しに煙を上げると、敵は逃げるどころか煙の外側へ回り込んだ。

味方の斥候が二人戻らない。

俺は追撃の合図を取り消した。

孔明は俺を責めず、「失敗を隠せば次は十人失います」とだけ言った。

俺は生還した斥候の足を洗い、失敗した隊形を本人たちから聞き直した。

孔明は敵の新しい隊形を見て、むしろ安堵したように頷いた。

「敵が学んだのなら、我らも次の段階へ進みましょう」

龐統は散開した兵が伝令を待つ時間に着目する。

炊事場では木札と荷車を試すことになった。

料理人は俺の説明を聞いて眉をひそめた。

「言うのは簡単だが、千人分となれば別だぞ」

その通りだった。

少人数でうまくいっても、大鍋では火が均一に回らず、器が足りず、運ぶ途中で冷める。

俺は作り方を押し付けるのをやめ、料理人の手順を横で見た。

鍋を動かす順番、薪を足す時刻、出来上がったものを先に誰へ届けるか。

そこには長年の経験があった。

試作の一回目は失敗し、二回目は塩気が強すぎた。

三回目でようやく兵が笑顔を見せた。

「これなら毎日でも食える」

俺はその言葉を信じすぎず、翌日の残り具合も記録した。

食の改善とは一度うまい物を出すことではなく、続けられる仕組みを作ることだ。

保管庫の見張りは、雨で濡れた札が読めないと訴えた。

俺は墨の文字だけに頼るのをやめ、形の違う木札を使うことにした。

夜でも手触りで区別できる。

小さな変更だったが、老兵が「これなら目の悪い者にも分かる」と頷いた。

兵器の威力を上げるより、事故を減らす改良の方が今の俺には重要だった。

俺は火薬の管理を見直し、必要な場面以外では使用を控えるよう伝えた。

新しく作ったのは兵器そのものではなく、衝撃を減らして器材を運ぶ荷車の緩衝具と、火気を区別する保管標識だった。

職人が丈夫な木枠を組み、兵が実地で揺れを試した。

敵の陣地から、火薬の轟音を聞いても散らばらずに伏せる訓練の声が届いた。

曹操軍は確かに学んでいる。

俺は孔明に「音だけでは崩せません」と告げた。

孔明は当然だという顔でうなずいた。

「だから今日は音を使わない」

関羽が先頭に立つ兵には、盾の縁を交換できる木枠を配った。

試作品は重く、二人がかりで持ち上げたものを、工房の親方が薄い板に替えてくれた。

強さと運びやすさの釣り合いを、俺は何度も試した。


午後、曹操軍の弩兵が土塁の陰から一斉射撃を行った。

こちらの盾は矢を防いだが、運び手の足がぬかるみに取られた。

黄忠は後列から射手の交代時刻を見極め、敵が弦を張り直す短い隙に、盾隊を前へ進ませた。

「道具は人を助ける。勝つのは人だ」

黄忠の言葉を聞いて、俺は自分の仕事が少し見えた。

敵の対策を打ち破ったのは新しい爆発ではない。

矢の間隔を測る目と、倒れた盾を拾い起こす手だった。

敵陣では盾を連ねる曹操兵が問題になっていた。

曹操の将も無能ではない。

こちらが変われば向こうも学ぶし、昨日通じた策が明日も通じるとは限らない。

だから龐統は相手の失敗を笑わなかった。

「人は負ければ考える。考える相手には、同じ答えを見せてはなりません」

孔明も同意した。

二人は意見が一致しているようで、考え始める場所が違う。

孔明は地形と兵の配置から考え、龐統は敵将が何を信じたいかから考える。

俺は二人の議論を聞きながら、必要な物資と運べる時刻だけを答えた。

できないことはできないと言う。

それが軍師の策を現実にする、俺の役目だった。

敵軍が広い平野へ進むと、龐統が用意した偽の伝令が各隊の集合時刻を食い違わせた。

関羽は遅れた隊を包囲し、張飛は別の隊に退路を示して武器を置かせた。

曹操軍は火薬を警戒していたのに、火薬をほとんど使わず敗れた。

敵の盾列が火薬の爆音を受けても崩れなかった。

俺の発案した攻撃は失敗し、退却する兵が斜面で押し合った。

「俺の見積もりが甘かった」

孔明は責めず、盾の隙間に泥が詰まっているのを指した。


翌日、俺たちは火薬を敵に向けず、上流の水路を塞ぐ倒木の除去に使った。

流れが戻ると敵の進路はぬかるみ、盾を構えたまま進めなくなった。

強い武器ではなく、地形を取り戻したことが勝因だった。

曹操軍の盾兵が整然と進む姿は見事だった。

敵であっても、その訓練を侮る気にはなれない。

龐統は「相手を愚か者として描けば、こちらの勝利も軽くなる」と言った。

俺は心の中でその言葉を繰り返した。

勝利は、強い相手の努力を知ってこそ重くなる。

黄忠は敵の盾列を見て「矢で盾を破る必要はない」と言った。

狙ったのは旗手の足元だった。

矢が土に刺さるたび旗手が半歩ずれ、隊列の目印が乱れる。

曹操軍はすぐ予備の旗を出したが、そこへ魏延が浅い沢を渡って側面に姿を見せた。

火薬を恐れなくなった敵にも、同時に二つの方向を守る足はない。

俺は盾隊の運び手が倒れたときのため、予備の担ぎ棒を用意した。

新兵器の勝利ではない。

敵の訓練を尊重し、その隙間を探した勝利だった。

「対策をした相手を嘲るな」と孔明は言った。

「曹操殿は学んだ。次は我々が学ぶ番です」

俺はその言葉を聞き、戦の技術よりも、学び続ける組織の強さを考えた。

火薬庫の番をしていた老兵が、俺に黒く焦げた袖を見せた。

「怖いのは敵じゃない。慣れだ」

試験のとき俺が安全線を一歩越えたのを、彼は見ていた。

俺は全員の前で謝り、点火役と退避確認役を別にした。

夜が明けると、老兵は何も言わず新しい線の外に立った。

その沈黙が、叱責より重かった。

敵の盾に使われた厚い木板は、火薬に耐えても水を吸えば重くなる。

俺は兵に無理な突撃を命じた自分を恥じた。

孔明は「策の失敗を隠す者に次の策はない」と言い、退いた兵の証言を一人ずつ聞いた。

負傷した兵の包帯を替えながら、俺もその場に座った。

その日の夕食では、戦に出た者と留守を守った者が同じ鍋を囲んだ。

俺は誰が何を成し遂げたかを尋ねる代わりに、今日いちばん困ったことを聞いて回った。

答えは立派な軍略ではなかった。

破れた靴、濡れた薪、家族へ出せなかった手紙。

どれも明日の戦に関わることだった。

俺は一つずつ聞き、すぐ直せないものは直せないと告げた。

皆の顔を覚えておこうと思った。

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