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転生したら三国乱世だった件  作者: レモンティー


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第百一章:孔明は曹操との最終決戦に臨んだ

夜明けの将たちの協議で孔明は、敵軍の中央を攻めるという張飛の案を退けた。

曹操は正面の強襲を待ち構えている。

だから主力は動かさず、先に敵の情報と時間を奪うという。

ところが、敵の火薬避けの土塁は予想より厚かった。

こちらの試射は土を跳ね上げただけで、張飛の先鋒が立ち往生した。

俺が用意した火薬の量を増やせば、味方の進路まで崩しかねない。

張飛は戻ってきた兵の肩を支えながら言った。

「お前の道具が悪い日もある。だから俺たちがいる」

俺は攻撃の続行を進言しかけ、口を閉じた。

孔明は予定していた突撃を中止し、負傷者の後送を先に命じた。

勝つための一日を失った。

だが、失わずに済んだ命があった。

俺は張飛の陽動陣に足を運び、紙の上の計算と現実がどれほど違うかを確かめた。

夜営の炊事係は最初、こちらの軍服を見るだけで身を固くした。

戦のたびに兵が来て、物を持っていくのを見てきたのだろう。

俺は兵に槍を下げさせ、まず水を頼んだ。

相手の返事を待つ間、誰も急かさなかった。


やがて少しずつ話を聞かせてもらえた。

どの道が雨でぬかるむか、どこに壊れた橋があるか、村では何が足りないか。

どれも将軍の地図には書かれていないことばかりだ。

俺は聞いたことを全部書き留め、孔明のもとへ持ち帰った。

孔明は一行ずつ読み、「これこそ軍を動かす地図です」と言った。

俺は嬉しいというより、見落とさずに済んだことに安堵した。

龐統は敵陣へ届く商人の話を利用し、劉備軍の兵糧が尽きかけているという偽情報を流した。

ただし商人には危険な任務を強制しない。

報酬と帰路を保証したうえで協力を募った。

炊事場では炒り麦の携行食を試すことになった。

料理人は俺の説明を聞いて眉をひそめた。

「言うのは簡単だが、千人分となれば別だぞ」

その通りだった。

少人数でうまくいっても、大鍋では火が均一に回らず、器が足りず、運ぶ途中で冷める。

俺は作り方を押し付けるのをやめ、料理人の手順を横で見た。

鍋を動かす順番、薪を足す時刻、出来上がったものを先に誰へ届けるか。

そこには長年の経験があった。

試作の一回目は失敗し、二回目は塩気が強すぎた。

三回目でようやく兵が笑顔を見せた。

「これなら毎日でも食える」

俺はその言葉を信じすぎず、翌日の残り具合も記録した。

食の改善とは一度うまい物を出すことではなく、続けられる仕組みを作ることだ。

最初の試食では麦粉が喉に張りつき、若い兵がむせた。

俺はすぐに水の量を増やし、乾いたまま口に入れないよう説明した。

何でも便利にすればよいわけではない。

使う者が間違えない形にしなければ、工夫は危険になる。

炊事係の老人が「うまい物は、作り方より食わせ方が難しい」と笑った。

俺は新しい携行食を作った。

麦を炒って砕き、豆と混ぜ、湯で戻せるようにする。

兵は火を使えない夜でも食べられる。

味が単調にならないよう塩漬けの菜と乾燥した香草を小袋に分けた。

出陣の前夜、趙雲が俺の作業台に濡れた革袋を置いた。

「夜明けまでに三千騎へ配りたい。だが雨に当たると麦が固まる」

袋の口を解くと、麦粉は一塊になっていた。

俺は焙った麦を粗く砕き、油紙の内袋と布の外袋に分けるよう提案した。

水が要る者には豆の煮汁を濃くして別の陶器に入れる。

趙雲は一口味わい、「腹にたまる。だが走りながらは食えない」と率直に言った。

そこで出陣前と騎乗後の二度に分けて食べることにした。

兵の食事は献立ではなく、動き方から考えねばならない。

夜が明けると、龐統が俺に敵の炊煙の数を尋ねた。

「斥候は兵数を数える。私は鍋を数えたい」

俺は昨日までの煙の位置を地図に記し、今朝だけ消えた三か所を指した。

孔明はそこから、曹操軍が左翼の兵を夜間に動かしたと見抜く。

張飛は「だったら今すぐ殴りに行く」と笑ったが、孔明は首を横に振った。

「敵が動いた理由を、敵自身にもう一度説明させましょう」

空の荷車をわざと街道へ送り、敵の斥候がそれを追うか確かめる。

大軍との戦いは、最初の一歩から始まっていた。

敵陣では散開する敵前衛が問題になっていた。

曹操の将も無能ではない。

こちらが変われば向こうも学ぶし、昨日通じた策が明日も通じるとは限らない。

だから龐統は相手の失敗を笑わなかった。

「人は負ければ考える。考える相手には、同じ答えを見せてはなりません」

孔明も同意した。

二人は意見が一致しているようで、考え始める場所が違う。

孔明は地形と兵の配置から考え、龐統は敵将が何を信じたいかから考える。

俺は二人の議論を聞きながら、必要な物資と運べる時刻だけを答えた。

できないことはできないと言う。

それが軍師の策を現実にする、俺の役目だった。

関羽の軍は静かに移動し、張飛は大声で陣を築く。

敵は張飛が主力だと思い込み、兵を集中させた。

孔明の合図で関羽が横から現れると、敵の前衛は陣形を崩した。

火薬の轟音は追撃を止める合図としてのみ使われた。

関羽の迂回隊から伝令が来ない。


夕刻までに戻るはずの三人が消えた。

孔明は予定どおり進めると言ったが、俺は街道の宿場が昨日の雨で流されたと聞いていた。

「兵を動かす前に確かめたい」

俺の進言で斥候を回すと、橋の向こうに敵の伏兵がいた。

関羽への合図は間に合ったが、斥候の一人が負傷した。

孔明は俺に礼を言わず、その兵の肩を自分で支えた。

策が当たっても、傷は消えない。

関羽の伝令が泥だらけで戻ってきた。

俺はまず温かな汁を渡したが、彼は報告を終えるまで飲もうとしない。

孔明はその姿を見て、伝令の交代を増やすよう命じた。

「忠義に頼り切る仕組みは、長く続きません」

伝令の休息を当番表に組み込み、次の交代要員を起こしに行った。

敵の斥候を捕らえたのは馬超だった。

若い兵は震えながら「西の道は通れぬ」と繰り返す。

馬超は刀を抜かず、靴についた赤土を見た。

「西から来たのではない。北の粘土だ」

孔明は作戦用の板に置いた石を一つ動かした。

曹操は西の谷に我々を誘い、北の浅瀬から騎兵を回すつもりなのだ。

俺は荷車の行先札を書き換え、兵糧の半分を別の倉へ移す。

作戦が変わるたび、誰かが黙って荷を担ぎ直す。

その手を見落としたくなかった。

曹操は一日の終わりに戦況図を見て、前衛が敗れたことよりも、自分が戦う場所を選べなくなったことを悟った。

「孔明か」と呟く。

孔明は勝利の報告を受けても笑わず、翌日の食料を俺に尋ねた。

張飛は夜襲の合図を待ちきれず、炊事場で焼いた餅を三枚重ねて頬張っていた。

「腹が減っては槍が振れん!」

四枚目を伸ばした手を孔明が扇で止める。

「将軍、明朝の分です」

龐統は横から「敵の兵糧を奪えば五枚目もありますよ」と囁いた。

張飛は真顔で「ならば明日は必ず勝つ」と答え、皆が笑った。

だが俺は餅の残りを数え、夜襲に出る兵の分を先に包んだ。

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