大根収穫 Part2
ルナ先輩の鮮やかな空中誘導によって、カサカサに乾き始めたマンドレイク大根の群れは、完全に進路を一つに絞っていた。
目指すは、俺とキース先輩が身を隠す、瑞々しい湧き水の水溜まりだ。
「オデンニサレルッ!」「オミズッ!」
先頭の大根が、狂喜乱舞の声を上げて水場へと飛び込もうとした、その瞬間――
「……はい、そこまで。これ以上は残業代が出ないからね」
俺の隣で、先輩が右手の細い人差し指をスッと突き出した。
あどけなさの残る14〜15歳ほどの少年の指先。
しかし、そこから放たれた魔力は、およそ子供のそれとは思えないほど濃密で、冷徹だった。
「空間固定」
パキィィィン! と、空間そのものが凍りついたような硬質な音が響く。
驚いたことに、水溜まりの手前数センチの空間が、目に見えない透明な壁で遮断されたかのように完全に静止した。
勢いよく飛び込んできた大根たちが、次々とその「見えない壁」にぶつかり、空中でピタッと動きを止められていく。
「ルナ、そっちの残りは任せたよ。」
首をすくめて袖口をトントンと整える。
「お安い御用だよーっ! 聖風よ、一堂に集え! スクラップ・ウィンド!」
上空からルナが叫ぶと、彼女の羽が大きくなり、猛烈な旋風が巻き起こった。
散り散りになっていた残りの大根たちが、その風の檻に強引に巻き込まれ、先輩が固定した空間へと一箇所にギュウギュウに押し集められていく。
「すごい……! これが魔術……!」
俺が圧倒されていると、キース先輩が冷淡な、だけどどこか楽しげな声をかけてきた。
「見惚れている暇はないよ、新人くん。僕の魔法の持続時間はあと30秒だ。……それとも、君はあの大根たちとここで一晩中ダンスでも踊るつもりなのかな?」
「――あ、はいっ! 任せてください!」
一箇所に固まり、身動きが取れなくなっている大根たちに向かって、俺は抱えていた頑丈な木箱を構えて全力でダッシュした。
酒蔵でコンテナを何百回と運んだ、生前の泥臭い経験がここで活きる。
「おでんにはしないけど……一回、箱に入ってもらいます!」
動きの止まった大根たちを、キャベツの収穫さながらの圧倒的な手際で、ガシガシと木箱の中へと詰め込んでいく。
隙間なく、だけど傷つけないように効率よく敷き詰めるコツは、実家のコンテナ整理と全く同じだ。
「よいしょ……これで最後!」
バタン! と木箱の蓋を閉め、鍵をかける。
その瞬間、キース先輩の空間固定が解け、ルナ先輩がふわりと地面に降り立った。
「ふぅ……! 完璧じゃん新人君! 手際良すぎ!」
ルナが嬉そうにリクの背中をバシバシと叩く。
先輩もフッと口元を緩めた。
「……うん、上出来なんじゃないかな」
こうして、俺の神界での初仕事――「暴走マンドレイク大根の捕縛」は、先輩たちの圧倒的な力と、俺のほんの少しの生活の知恵によって、見事に大成功で幕を閉じたのだった。




