大根収穫 Part1
「この数を力押しで捕まえるのは、僕、一人では限界があるのも事実。新人くん、君の心意気は買うけど、何か具体策はあるのかな?」
冷徹な、しかしどこか焦りを含んだ声で俺に問いかける。
目の前の広大な野原では、何百本もの『喋るマンドレイク大根』が、短い手足をバタバタと動かしながら逃走中だ。
緑の葉っぱを激しく揺らし、白い胴体をくねらせて走るその姿は、遠目から見ると奇妙な白い芋虫の大群のようにも見える。
時折「自由!」「オデンオ断リ!」などと不穏な叫び声が風に乗って聞こえてくる。
生前の俺は、何かずば抜けて才能があったりはしない、ただの地味な学生だった。
けれど、実家の酒屋を手伝ったり、文化祭の模擬店で裏方をやったりしていた経験から、一つだけ『野菜の習性』についてピンとくるものがあった。
「先輩、あの大根たち、品種改良の失敗作なんですよね? ベースが普通の大根なら……乾燥と直射日光には弱いはずです!」
神界の太陽は、人間界よりも心なしか眩しく、ジリジリと肌を焼くようなエネルギーを感じる。
遮る雲一つなく、容赦のない日差しが野原全体を照らしつけていた。
現に、逃げ回っている大根たちの白い肌が、気のせいか少しずつカサカサと乾き始めているように見えた。
「確かに、マンドラゴラ化しているとはいえ、本質は植物だね。水分が干上がれば動きは鈍るが……それがどうかしたの?」
「あそこを見てください!」
俺が指さしたのは、野原の端、神殿街へと続く道の途中にある、ぽつんと開いた大きな水溜まりだった。
神界の綺麗な水が湧き出ているのか、そこだけ周囲の草が青々と茂っており、まるで砂漠のオアシスのように瑞々しい輝きを放っている。
「あいつら、本能的に水分を求めて、あの水場に集まるはずです。闇雲に追いかけるより、あそこに罠を張って待ち伏せしましょう!」
俺の提案に、先輩は一瞬だけ驚いたように目を見開いた。
神々の無理難題を魔法や力業で解決することに慣れきっていた彼らにとって、観察から導き出された生存戦略は、逆に新鮮だったのかもしれない。
そして、フッと口元を緩める。
「……なるほど、悪くないね。ルナ、起きて。仕事だよ。」
「えぇー、しょうがないなぁ。新人の初手柄のためだし、ひと肌脱ぎますか!」
――女の子は、ルナという名前なのか
パッと立ち上がり、背中の小さな羽をパタパタと羽ばたかせる。
「作戦はつまりこうだね。ルナが空中からマンドレイク大根たちの進路を誘導し、水場へ追い込んで、僕と新人君が水場の周囲で待ち伏せして一網打尽にする。」
先輩は手元にある魔導の縄を器用に編み直しながら、素早く役割を整理した。
即座に作戦を理解し、指揮を執るあたり、さすがは数少ない『フリー』を生き抜いてきた仕事人間だ。
「よし、ルナ。配置についてくれ。新人くんは僕と一緒にあの水溜まりの影へ。……彼らが喉の渇きに耐えかねて飛び込んでくる瞬間を狙うよ」
「了解です!」
俺は落ちていた平屋の玄関から押し出されていた木箱を拾い上げ、胸に抱えた。
ルナが「いっくよー!」と声を上げると、小さな羽からは想像もつかないほどのスピードでふわりと浮き上がり、逃げる大根たちの前方を塞ぐように空を駆けていく。
「ほーら、そっちは行き止まりだよー!」
風の魔術で突風を吹かせると、案の定、大根たちはパニックを起こしたように進路を変えた。
カサカサに乾き始めた身体を必死に震わせ、彼らが目指すのはただ一つ。
俺たちが待ち伏せる、あの瑞々しい水溜まりだ。地面を揺らすような、無数の「ペタペタペタペタ!」という足音が、徐々にこちらへと近づいてくる。
「来るよ、新人くん。息を潜めて」
水辺の茂みに身を隠した先輩の、静かな、だけどどこか楽しげな声が耳に届いた。




