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大根まみれ Part2

「うわっ、きゃああああっ!?」


大根の濁流に押し流され、すっ飛んできた小柄な女の子が俺の胸元に飛び込んでくる。

反射的にその細い身体を抱きすくめたものの、背後から迫る白い大洪水に抗えるはずもなかった。


「大根ッ!」「自由ヲ我ガ手ニーッ!」


そんな奇怪なコールをあげる大根たちに押し出されるようにして、俺たちは開いたばかりの玄関のドアから、勢いよく外の地面へと転がり出た。


「ぶはっ……!?」


受け身も取れずに、そのまま草原の上をごろごろと転がる。

頭の上からパラパラと降ってきたのは、ちぎれた大根のみずみずしい緑の葉っぱだった。

しばらくしてようやく濁流の勢いが収まり、俺は恐る恐る目を開けた。


「いたた……。大丈夫ですか?」


腕の中にすっぽりと収まっていた女の子に声をかける。

彼女は、頭に大根の葉っぱをちょこんと乗せたまま、目をまたたく。

年は俺と同じか、少し下くらい。

特徴的な黒髪のインナーカラーには鮮やかな白が混じっており、動きやすそうな作業着を着ているが、その背中には白く美しい、小さな羽が生えている。

どこか幻想的でありながらも、活発そうな印象を与える女の子だった。


「あ、うん……! 私は大丈夫! っていうか、ごめんね!? タイミング悪くドア開けさせちゃって!」

「いえ、俺の方こそ、ノックもせずに開けちゃってすみません。……それにしても、これは……?」


俺が視線を向けた先では、何百本という手足の生えた大根たちが、神界の美しい青空の下の草原で、一斉にダッシュで逃走を図っていた。

その光景はシュールという他ない。


「あちゃー、やっぱり逃げられちゃったかぁ……これ、農業の神様が『品種改良に失敗して自我を持っちゃったから処分しといて』ってフリーに押し付けてきた、暴走マンドレイク大根なんだよね……」


女の子はガシガシと頭を掻きながら、ため息をついた。

どうやらこれが、女神様の言っていた「神々の無茶振り」の実態らしい。


「一歩遅かったか」


その時、平屋の奥から、もう一人の人影が姿を現した。

きっちりとスーツを着こなした知的な雰囲気の青年だ。

ただし、そのスーツの至る所に大根の泥がべっとりとついているのが、彼の激闘を物語っていた。


「……君が、今日から新しく配属された三人目の『フリー』だね。挨拶は後だ。あの大根どもが神殿街に侵入すれば、神界の美観を損ねたとして我々が神罰を受けることになる。直ちに捕獲するよ。」


青年は冷徹な声で言い放つと、懐から捕獲用と思われる魔法の縄を取り出した。

隣にいる羽の生えた女の子は


「ええ〜、もう体力残ってないよ〜」


とへたり込んでいる。

目の前には、四方八方に逃げていく喋る大根たち。

生前の俺なら、こんな面倒なトラブルからは一目散に逃げ出していただろう。

だけど、これが自分の選んだ仕事だ。

それに、目の前で困っている先輩たちを放っておくなんて、お人好しの俺にはできそうにない。


「――よし! 先輩、俺も手伝います! どうやって捕まえればいいですか?」


俺は頭の上の葉っぱをパッと払い落とし、満面の笑みで立ち上がった。

先輩二人が、驚いたように目を見開く。


「うんうん、やる気があるのは良いことだよー! 私はもう一歩も動けないから、新人の君に丸投げしちゃいたい!」


黒髪に白のインナーカラーが映える羽の生えた女の子が、芝生の上に寝転がったまま、ちぎれた大根の葉をフリフリと振って応援してくる。

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