魔物討伐 Part2
――ルナールさんはまだ寝室で寝てるし、俺の加護じゃ倒しきれない……キース先輩の弓ならともかく……! 何か使える加護は……!
迫り来る巨大な魔物の影。
心臓が痛いほど早鐘を打ち、冷や汗が顎のラインを伝って滴り落ちる。
絶体絶命のパニックの中、俺は藁にもすがる思いで、自分の前にあるステータス画面の端を必死にタップした。
すると、半透明の淡いブルーのウィンドウが、目の前にパッと広がった。
『加護一覧:【戦闘用攻撃】火系統/水系統/氷系統/風系統/土系統/雷系統/植物系統/光系統/闇系統
【戦闘用防御】魔力障壁/物理障壁/魔法障壁/魔術障壁
【状態異常】 バインド/スタン/スロー
【補助系】 エンチャント/ヘイスト』
ずらりと整然と並んだその文字の羅列を見た瞬間、俺の思考は秒でフリーズした。
これ、全属性がコンプリートされているどころか、防御もデバフもバフも、およそ冒険者が喉から手が出るほど欲しがるスキルが初期状態で網羅されている。
あのプラチナブロンドのサボり魔トップの顔が、フラッシュバックする。
――「リク、これは私からのちょっとしたプレゼントだ」――
中性的な口調で笑っていたあの女神は、意外にも優しかった。
いや、優しいのレベルを完全にぶっちぎっている。
――……アリア様、話が違います……っ!
心の中で最高女神に全力の突っ込みと何とも言えない感情がわいてきた。
けれど、これだけの手札があるなら、あのフルパワーの怪物相手でも戦える。
「とりあえず! キース先輩は触手の方お願いします! 俺は本体やるので援護もお願いします!」
「わかった。できる範囲で頑張ってみるよ」
俺の力強い指示に、キース先輩はいつものおっとりした笑みを浮かべたまま、しかしその琥珀色の瞳の奥に鋭い光を宿して頷いた。
先輩が静かに長弓を構え、弦を指先で引き絞る。
次の瞬間、先輩の口から、およそそののんびりした雰囲気からは想像もつかないほど冷徹で、透き通った声が紡がれた。
『ステラ・レグルス』
キース先輩の指から放たれた光の矢が、空間そのものを切り裂くような凄まじい衝撃波を伴って空中へと解き放たれた。
それは一筋の矢などという生優しいものではなく、まるで無数の流星雨が一斉に降り注ぐかのような、圧倒的な光の暴風だった。
ドババババババババッ!!!
鼓膜を震わせる轟音と共に、俺を幾重にも囲んでいた巨大な魔物の触手すべてが、その光の雨に打たれて一瞬で消し飛ばされた。
再生する暇すら与えない圧倒的な破壊力。
さらにはその余波の閃光が魔物の巨大な本体をも捉え、怪物の硬い皮膚をボロボロに引き裂いていく。
触手全部が消えた。本体にも、かなり深いダメージが入っているのが見て取れる。
――先輩、戦闘特化じゃないって言っておきながら、めちゃくちゃ強いのに……この場合、他の戦闘特化の天界騎士の戦闘力どうなってるんだ…?!
あまりの威力の凄まじさに、俺は再び心の中で絶叫した。
だが、今が絶好の好機であることは間違いない。
俺はアリア様から貰ったチートな加護をいつでも発動できるように意識を集中させ、クワをしっかりと握り直して、怯む魔物の本体へと果敢に踏み込んでいくのだった。
「ガルゥゥ……ッ!?」
すべての触手を一瞬にして消し飛ばされ、巨体を激しく震わせる魔物。
その顔面に、明らかな動揺と恐怖の色が浮かぶのを俺は見逃さなかった。
キースの放った一撃は、怪物の勢いを、完全に削ぎ落としてみせたのだ。
先輩の後衛援護は「できる範囲」のレベルを遥かに超越していたけれど、今はそこに突っ込んでいる時間すら惜しい。
「今だ……! アリア様の加護、使わせてもらいます!」
俺は一歩、強く地面を蹴り出した。
狙うは、ボロボロに傷ついてむき出しになった魔物の本体核心。
手元にあるのはただの農業用のクワだ。
けれど、このステータスウィンドウに並ぶ無数の加護があれば、これを一撃必殺の神殺しの武器へと変えることができる。
まずは距離を詰めるための移動速度向上、そして攻撃力の底上げ。
俺は走りながら、脳内のスキルボードに意識を集中させて念じた。
――補助系【ヘイスト】! さらに【エンチャント】!属性は……【雷系統】だ!
バチバチバチィッ!
その瞬間、俺の身体が驚くほど軽くなり、視界の景色がぐにゃりと後ろへ流れた。
それと同時に、握りしめていたクワの鉄刃に、バチバチと激しい黄金色の電光がまとわりつく。神聖な魔力と雷のエネルギーが融合し、ボロい農具がまるで伝説の霊刀のような輝きを放ち始めた。
「これで……終わりだぁぁぁっ!!」
驚異的なスピードで肉薄した俺は、魔物の懐へと深く飛び込み、雷をまとったクワを全力で振り下ろした。
ドガァァァァァンッッ!!!!
激しい雷鳴が畑一帯に轟き、凄まじい電撃が魔物の巨体を内側から焼き尽くしていく。
最高女神の加護による超高出力の雷撃は、全盛期を迎えていたボスクラスの魔物すら一瞬で塵へと変えるほどの威力だった。
光の粒子となって霧散していく魔物の残滓を見届けながら、俺は勢い余って地面に突っ込みそうになりつつ、なんとか踏みとどまって荒い息を吐き出す。
「はぁ、はぁ……倒した……」
「うん、お見事だよ、リク。初めての属性付与にしては、完璧な一撃だったね」
後ろを振り返ると、キース先輩はいつの間にか弓を消し、いつものトタンバケツを再び手にして、おっとりと微笑んでいた。
そのあまりの切り替えの早さに、俺の頭はまたしても追いつかなくなりそうになる。




