仕事決め
「さて、早速だが君にはやりたい仕事を決めてもらうとしよう。自分の意思で何をやりたいか決めて良いからね。さあ、好きなものを選びたまえ!」
女神がそう言って指をパチンと鳴らすと瞬間転移したように机の上に紙が出てきた。
そこには、いくつかの職種がずらりと並んでいる。
【転生窓口受付 / 業務 / 雑用 / フリー / 各神の部屋の掃除担当 / 神専属の従者 / 転生ゲート安全チェック係】
「女神様的にお勧めなものってありますか? 俺、別に手伝いが出来れば何でも良いので。」
特に強いこだわりや野心があるわけではない。
おこがましくも神様たちの役に立てるなら、職種なんて二の次だった。
それに、適性のない仕事を選んで初日からクビになるよりは、内部事情に詳しい当人に委ねてしまった方が安全だという打算もあった。
「そうだねぇ……私個人のお勧めとしては、一番楽できるのはこの【転生ゲートの安全チェック係】で、逆に一番大変で、私からみても骨が折れるのが【フリー】かな。」
「【フリー】……ですか?」
「一言で分かりやすく言うなら、『色々な神様の便利屋』さ。」
女神は肩をすくめ、ひらひらと手を振りながら、二つの仕事の格差について解説してくれた。
女神様曰く、【転生ゲート安全チェック係】は、転生者が通るゲートに異常がないか、時々モニターを確認するだけの完全なデスクワークらしい。
不具合など滅多に起きないため、実質は座って寝ているだけで給料がもらえる天国のような仕事だ。
「神界の神々はみんな個性的でアクティブだからねぇ。四六時中、彼らの連絡網として走り回されたり、専門外の仕事を強引に手伝わされたり……要するに、すべての神にとって都合のいい『何でも屋』さ。派閥の違う神々の板挟みになることもある、無茶振りのオンパレード。だからこの広い神界でもやっているのは、たったの2人だけだよ」
「2人……ですか」
もっと詳しく聞いたところ、待遇は手厚いらしいが、神々の溢れるエネルギーに文字通り「振り回される」という意味では、とんでもなくハードな職種なのは間違いなさそうだ。
――普通の人なら、迷わずに天国のような【安全チェック係】を選ぶんだろうな…
だが、俺は手元の紙をじっと見つめ、それから顔を上げて微笑んだ。
「――よし。じゃあ、俺その『フリー』にします」
「オッケ――って本当に良いのかい?!」
女神が驚いたように綺麗な瞳を丸くした。
「はい。さっきも言いましたけど、俺、誰かの手伝いができれば本当に何でも良いんです。それに……」
――生前の俺は、どこにでもいる普通の学生だった。
特別な才能があったわけでもなく、学校でも目立つ存在ではなかった。
けれど、文化祭の準備で裏方として走り回ったり、部活で誰かのサポートをしたりして、「ありがとう」と言ってもらえる瞬間だけは、自分の存在が認められた気がして嬉しかったのを覚えている。
2人しかいないということは、それだけ現場が人手を求めているということ。
自分だからこそ、そんな風に誰かの役に立てる場所があるなら、少し泥臭く走り回るくらいがちょうどいい気がした。
「その残されたお二人の手助けにもなれるなら、それが一番かなって。」
「――ふふん、なるほど。君は随分と変わった子だね。でも、そういうお人好し、神様たちはみんな大好きだからね。これから大忙しになる覚悟はしておいた方が良いかもよ?」
「……はい!」
女神は嬉しそうに目を細めると、いたずらな笑みを浮かべて机の上の紙を指先でトントンと叩いた。




