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突然訪問 Part1

 特製爆弾カボチャの煮付けをみんなでハフハフと平らげ、お腹も心も満たされた翌朝のこと。

 昨日あれだけ大暴れしたルナール先輩は、よほど満腹になったのか寝室でまだ爆睡しており、静かな部屋には規則正しい寝息だけが響いている。

 俺――並木リクは、おっとりした頼れる先輩のキース先輩と2人で、のんびりと朝ご飯を食べようとしていた。味噌汁の温かい湯気が立ち上り、箸をつけようとした、まさにその瞬間のことだった。

 バァン! と、この平屋の事務所にはおよそ似合わない、やたらと勢いのいい音を立てて玄関のドアが開け放たれた。


「お邪魔するよ!」


 眩い朝光を背負って立っていたのは、歩くたびに神聖な光の粒子を振りまく最高女神アリアだった。

 あまりに突然すぎるトップの御来光に、キース先輩は本音を漏らした。


「げ」

「『げ』とはなんだね。『げ』とは。折角この私が来てあげたのに、その態度はないんじゃないかい?」


 アリアは美しい眉を大げさにひそめ、子供のように唇を尖らせて抗議してくる。

 その両手には、神界の高級スパで使われる最高級のマッサージオイルのボトルが、なぜか誇らしげに握られていた。

不敵な笑みを浮かべるアリアは、完全にこの平屋を私物化する気満々だ。


「まぁまぁ……先輩もアリア様も……」


 俺が慌てて間に入ると、キース先輩はトーストを齧りながら、怪訝そうに俺とアリア様を交互に見つめた。


「アリアってその呼び方、君そんなにこの女神と仲良かったっけ?」

「この女神って……一応、加護とかお世話になっているので。この前、ウィンドウ見たらアリア様から『女神様じゃなくてアリア様と呼んでくれてもいいからマッサージしに来てくれないか?』とかいう謎のメッセージ来てたんですよ」


 俺が苦笑いしながら説明すると、キース先輩は納得したようにポンと手を打った。

だが、次の瞬間には、先輩の目がスウッと冷ややかに細められる。


「ああ……って《《女神》》とあろう者が転生者に何こき使わせてるんですか」


 キース先輩の正論すぎるツッコミが、鋭くアリア様に突き刺さる。

アリア様は「うぐっ」と言葉に詰まり、泳いだ視線を必死に俺へと向けた。


「な、何言ってるのキース君! 私はリク君と心の距離を縮めたくて、ちょっとした『お願い』をね? それに、私のこの神聖な魔力を授けたのだから……!」


 アリア様は完璧な営業スマイルを浮かべ、オイルのボトルを掲げてみせた。

あわよくば、この騒ぎに乗じて俺に抱きつこう、マッサージという名目で合法的に戯れようという下心が透けて見えている。


「アリア様ーーっ! また勝手に人間の所に行って、執務をサボっているんですかーーっ!?」


その瞬間、アリアの背後から、薄い壁がビリビリと震えるほどの凄まじい大音声が降ってきた。

 怒髪天を衝く勢いで部屋に飛び込んできたのは、乱れ一つないメイド服を着た、小柄な少女だった。

 見た目は14歳前後の少女で、頭部にはモコモコとした羊のような耳が対で生えており、背中には小さな白い羽がパタパタと羽ばたいている。

 キメラのようにも見えるが背中に羽が生えているから天使族だろうか。


「ミュー!? な、な、なんで此処にいるのさ!?」


さっきまでの傲慢な態度が嘘のように、アリア様は短い悲鳴を上げて飛び上がった。

 ミュカは感情の起伏を一切感じさせない冷徹な琥珀色の瞳をジロリと据わらせ、アリア様の前に一歩踏み出す。


「いやいや、それはこっちの台詞ですよ。アリア様、武道の神様から『アリアを見つけて連れてこい。連れてこないとどうなるか……わかるよな……?』って言われたんです! 私の身の保障の為にも戻ってきてください!」


 小柄な少女の手元のペンが、タブレットの画面を親の仇のように激しく叩いた。

武道の神様の怒りのとばっちりを受け、さらにはアリア様がオイルまみれにした衣服の洗濯処理までさせられたらたまったものではない。

 アリア様の心境としては、『私は良かれと思って、みんなを元気にしたいだけなのに! どうしてミューちゃんはいつもそんなに怒るのよー!』という理不尽な怒りと悲しみでいっぱいだった。


――相変わらず、最高女神の威厳が残ってないなぁ……


 俺は二人の完璧な漫才を遠い目で眺めながら、呆れを通り越して感心していた。キース先輩も、すでに慣れっこなのか「やれやれ」と肩をすくめている。

 最高女神と専属助手の、いつもの「命がいくつあっても足りない」やり取りを横目に、俺たちは静かに、三日目の仕事の準備を始めるのだった。

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