カボチャ収穫
ゴロゴロと迫り来る黄色い自爆特攻兵器の大群。
このまま正面突破すれば、ルナールさんの魔法の直撃を食らうか、カボチャの魔術で消し飛ぶかの二択だ。
――何か手は……! そうだ。ここに来る前、女神様から貰った加護があるんだ、何か使えそうな物は……!
必死に頭をフル回転させ、バッジからウィンドウを開き、加護の一覧を探す。
この修羅場で生き残るためのスキル。
――見つけた!
「キース先輩、ルナさん! 俺が【気配遮断】で敵の裏に回ります! カボチャたちが全部こっちを向いているうちに、ルナールさんの広範囲魔法で一気に焼き切ってください!」
「おや、あの女神からの加護かい。おもしろいね、やってごらん」
「了解ーっ! 新人君、信じて背中を任せるよ!」
俺は大きく息を吸い込み、【気配遮断】を発動した。
途端に、自分の存在感が周囲の景色にふっと溶け込んでいくような奇妙な感覚に包まれる。
女神のあのドヤ顔を思い出すと少し複雑だが、最高女神の加護の隠密性能は一級品だ。
「……よし、行くぞ!」
俺はカボチャの群れの視線を逸らすように、大きく迂回して畑の泥の上を全力で疾走し始めた。
カボチャたちは完全に俺を見失い、ルナさんが構える光の大剣の魔力に引き寄せられるように直進していく。
俺はその真後ろ――完璧な死角へと回り込むことに成功した。
「今だ! 加護の応用、もう一つ……【鑑定】!」
加護によって脳内に直接流れ込んできたのは、三十個以上の爆破カボチャたちの『一番脆い接続部分の座標』、つまりすべての弱点データだった。
「ルナールさん、今です! 正面からじゃなくて、上空三十メートルからカボチャたちの『ヘタの根元』に向けて光を降らせてください! そこが一番ニトロ成分が薄い安全地帯です!」
「さすが新人君! まかせて!」
ルナさんが琥珀色の空へ向かって高く跳躍する。
白銀の光の大剣が、まるで太陽のように眩しく輝いた。
「いっくよー!『神天無双流・乱舞アロー』ーーっ!!」
ルナさんが大剣を振り下ろした瞬間、無数の光の矢が雨のように降り注いだ。
俺が【鑑定】で看破した座標へと正確に突き刺さる光の矢。
カボチャたちが大爆発を起こすよりも早く、その鋭い光が三十個以上の信管を一瞬で綺麗に切り離していく。
「シューーー……プスン……」
畑中に響き渡っていた不穏な導火線の音が、一斉にマヌケな音を立てて消滅した。
真っ赤に怒り狂っていたカボチャたちは、爆発する術を失い、ただの巨大な黄色い野菜となってゴロゴロと地面に転がった。
「見事な誘導だね、リク。」
キースが影のような速度で畑を駆け抜け、魔力封印ネットをバサバサと投げ広げてカボチャたちを次々と大籠に収穫していく。
その手際は昨日にも増して神がかっていた。
「ふぅ……。終わった、本当に終わったんだな……」
俺はその場に座り込み、泥だらけの顔を仰向けにして琥珀色の空を見上げた。
一度はゲートの不具合で途方に暮れたけれど、女神様がくれた加護のおかげで、こうして便利屋の先輩たちの手助けができた。
お人好しで選んだフリーの道だけど、少し泥臭く走り回った甲斐もあったかもしれない。
「新人君、お疲れ様ー! 大成功だね!」
「お疲れ様、リク。これで今日の分の依頼は完了だ。さあ、事務所に戻ろうか」
キースが、背中の大籠にぎっしりと詰まった爆破カボチャを叩きながら、いつもの爽やかな笑みを浮かべた。
「食材もこれだけ大量にあれば、今夜は贅沢ができるね。ルナの言っていた『カボチャの煮付け』にするか……。それとも、中身のニトロ成分をじっくり煮詰めて、とても辛くて刺激的な特性スープにでもしようか」
キースは顎に手を当て、台所のシェフさながらの爽やかな笑顔で、恐ろしすぎる二択を提示してきた。 おでんの次は、爆弾スープか煮付けか。
どちらにせよ、地球の一般家庭では絶対に食卓に上らないデンジャラスなメニューである。
「私、『かぼちゃの煮付け』がいいー!!」
ルナールさんは大籠にぎっしり詰まったカボチャを見つめながら、元気いっぱいに挙手した。
アメジストの瞳には、ニトロ成分への恐怖など一ミリも浮かんでいない。
彼女にとってあの時限爆弾どもは、すでに甘辛い醤油ベースのタレでホクホクに煮込まれた極上のディナーにしか見えていないようだ。
「食べたら胃袋が爆発したりするかもね。まあ、でも保証は一応しとくよ。それにマンドレイク大根の余りが大量にあるから胃薬はいくらでも作れるから大丈夫だ。」
まるで「明日の天気は晴れだね」とでも言うような軽さで付け足した。
最高位の天使二人の胃袋ならまだしも、中身がただの人間である俺の胃袋が爆破カボチャのニトロに耐えられるとは到底思えない。
しかもその保証は「一応」という、これ以上なく不確かな強度しか持ち合わせていなかった。
――行先が不安でしかない……
俺はチリチリと微かに煙の上がる防刃手袋を見つめながら、深く、深いため息を漏らした。
神界での生活はまだ始まったばかり。
家出お嬢様の暴食に付き合わされ、サイコパスな先輩の労働に巻き込まれる俺の保留期間は、間違いなく胃薬が何本あっても足りない日々になるだろう。
大籠を背負って軽快に歩き出す二人を追いかけながら、俺は琥珀色からゆっくりと夜の藍色へと移り変わる神界の空を、ただただ遠い目で見上げるしかなかった。




