楽しいピクニック Part3
「か、髪の毛が、俺の髪の毛が三本くらい光の粒子になって消滅した……っ!」
「あはは、ごめんごめん! でも当たってないからセーフセーフ!」
地面にへたり込み、煙の上がる右手と前髪を押さえてガタガタと震える俺に、ルナールは大剣を光の塵へと戻しながら、テヘペロと可愛らしく舌を出した。
全く反省の色が見えない。
最高階級の天使の 当たってないからセーフ は、一介の地球人にとっては普通に心臓麻痺レベルの臨死体験である。
「素晴らしい連携だ。」
すかさずキース先輩が幽霊のような素早さで影から滑り込んできた。
真っ二つになったカボチャに、流れるような手つきでネットをバサリと被せる。
「そのネットは?」
「魔力封印ネットだ。魔法や魔術の発動を完全に遮るんだ。これがないと、籠の中でカボチャが二度目の爆発を起こしかねないからね」
涼しい顔で作業を続けるキース先輩の言葉に、俺はふと疑問を覚えた。
――この神界には魔法と魔術、どっちもあるのか……?
「ちなみになんですけど、魔法と魔術の違いって何ですか? 僕が転生する前にいた地球では、どちらも同じような意味で使われることが多かったんですけど」
俺が泥を拭いながら尋ねると、キース先輩は背中の特大籠へカボチャを「よいしょ」と軽々と放り込んだ。
一連の動作の滑らかさは、まさに熟練の職人技の域に達している。
「ふむ、地球では混同されているのか。いい機会だ、簡単に説明しておこう。この世界において『魔術』とは、自然界の法則や魔力を計算・構築して放つ【科学的・技術的】なものを指す。対して『魔法』とは、神々や天使、あるいは一部の超常的な存在が、世界の理そのものを書き換えて起こす【奇跡】のことさ。ルナが先ほど放ったのは、純粋な天界の力……つまり魔法の領域だね」
「なるほど、技術(魔術)か、奇跡(魔法)か……」
――この神界には、魔法と魔術、そのどちらもが明確な境界線を持って存在しているのか。
というか女神様から貰った加護は何の分類に入るのだろう……
前世の知識がアップデートされていく感覚に、俺は妙な感心を覚えた。
「つまりね、リク。今から僕たちの目の前に押し寄せてくる大量の爆破カボチャたちは、自然発生した『魔術』で爆発しようとしている。そして――」
キース先輩が、トカトカ農園の奥へと視線を戻す。
「それを僕たちが防ぎ損ねたら、この農園ごと木っ端微塵になるという物理的な現実が待っているということさ」
「理屈はよく分かりましたけど、現実が残酷すぎませんかね……」
すると、トカトカ農園の奥から「シュー、シュー、シュー!」と、何十重、何百重にも重なった不穏きわまりない導火線の音が地鳴りのように響いてきた。
二十個、いや三十個以上の巨大な爆破カボチャたちが、一斉にジャック・オー・ランタンのような邪悪な目を真っ赤に光らせ、頭のヘタから盛大に火花を散らしながら、ゴロゴロと地響きを立ててこちらへ大行進してくるところだった。
それはのどかな農園の風景ではなかった。
完全に、黄色い生体時限爆弾による、恐怖の突撃パレードだった。
「……先輩、褒めてくれるのは嬉しいですけど……これ、あと何玉あるんですか……?」
泥だらけの顔で問いかける俺に、キース先輩はいつものニコニコとした顔を崩さないまま、すっと畑の奥へと視線を向けた。
その目元が、わずかに引きつっている。
「新人君、感動してる暇はないよ! ほら、あっちからお友達が怒涛の勢いで押し寄せてきてる!」
ルナールが遠足のバスを見つけた子供のように、楽しげに畑の向こうを指差した。
彼女の指の先を見た瞬間、俺の心臓が今度こそ完全に停止するかと思った。
「さあリク、ここからが本番だ。君の体力が尽きる前に、あのすべてのカボチャの信管を引き抜いておくれ」
「一人はみんなのために死ぬってことですか……?」
神界二日目。
新人の俺の虚しい努力は、カボチャたちの不気味な笑い声と、チリチリと迫る大量の爆発音の中へと、哀れにも虚しくかき消されていくのだった。




