調理 Part3
キースに防刃手袋を嵌められ、俺は玄関の木箱の前に立たされていた。
覚悟を決めてパチンと頑丈な金具の鍵を外した瞬間、バカンッ! と凄まじい勢いで蓋が跳ね上がる。
「ギィヤアアアアアアアアア!!」
中から飛び出してきたのは、赤ん坊のような、干からびた老人のような、とにかく不気味な顔が刻まれた巨大な『大根マンドレイク』だった。
根っこの手足をタコのように激しくのたうち回らせ、事務所の壁を蹴って脱出を図ろうとする。
「ルナ、部屋が汚れるのであまり暴れさせないでください! さあリク、早く頭を!」
二人の先輩の怒号が飛び交う。
俺は頭を空っぽにして、泥まみれのマンドレイクの脳天めがけて決死のダイブを敢行した。
「捕まえたっ!!」
顔の部分をラグビーボールのように抱え込む。
マンドレイクの根っこが俺の腕に鞭のようにベシベシと巻き付き、信じられない筋力で締め上げてきた。
防刃手袋がなければ腕の骨が折れていたかもしれない。
さらに、至近距離で「ギィギィ」と鼓膜を突き破らんばかりの超音波ような悲鳴を浴びせられ、俺の視界がチカチカと明滅する。
「見事なホールドだ、リク! そのまま動かさないでくれ!」
キースが、いつの間にか用意していた『特大おろし金』を手に、
恐ろしいほどの高速ステップで接近してきた。
その目は、獲物を狙う冷徹なスナイパーのそれだ。キースは満面の笑みを浮かべたまま、俺が押さえているマンドレイクの頭部をおろし金に叩きつけ、凄まじい速度でおろし始めた。
シャリシャリシャリシャリ……!
「ギィ!? ギギギ、ギィィィィィィィッ!?」
自分の頭がものすごい勢いで削られていく恐怖からか、マンドレイクの悲鳴が一段と高くなる。
生きたまま頭をすり下ろされるマンドレイクと、それを押さえる俺、そして無心でおろし金を往復させるキース先輩。
リビングは完全に、深夜のB級ホラー映画のワンシーンと化していた。
「わあー! おろし立ての生霊草が、大根臭と一緒に部屋中に広がっていくね! すごい!」
唯一、ルナだけが遠巻きにパチパチと拍手をして、ライブ会場にいるかのように楽しんでいる。
このお嬢様、やっぱり最高階級の天使なだけあって、生命の倫理観が地球人と違いすぎる。
「ふぅ……これでよし、見事なみぞれの完成だ」
キースがふきんで額の汗を拭った。
俺の腕の中には、頭部を完全に綺麗にすり下ろされ、大根おろしの山と化したマンドレイクの『胴体(下半身)』だけが残されていた。
魂が抜けたようにピクピクと小さく震えている。
「あ、あの……キース先輩。頭はみぞれになりましたけど、この残った胴体は……?」
「ああ、それはルナの要望通り、ぶつ切りにしておでんの具にするよ」
キース先輩は何の躊躇もなく出刃包丁を振り下ろし、マンドレイクの胴体をトントンとリズミカルに輪切りにしていった。
こうして、事務所のテーブルの中央には、土鍋でぐつぐつと煮え立つ『特製マンドレイクのみぞれおでん鍋』が置かれていた。




