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縁遠い護衛騎士と悪縁寄せ令嬢の幸運なご縁  作者: すずき あい


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615.思われる人


「あの、オルトさんに相談が」

「おう、今日は待機番だからいつでもいいぞ」

「では午後からで」


朝の通達が終わってから、レンドルフがそっとオルトに耳打ちしてきた。今日のオルトの予定は待機番と言って、勤務時間は王城内に留まってはいなくてはならないが、何も起こらなければ特に何をしていても自由な半分休暇のようなものだ。ただし何か王城内で緊急事態が起こった時には駆け付けなければならないので、飲酒や外出は禁じられている。


「オスカー隊長。ちょっとレンドルフと密談があるので、午後から談話室借り切りますよ」

「ああ、了承した。レンドルフは夜番からの昼上がりだったな。あまり長引いて体調を崩さないようにな」

「気を付けます」


各部隊にはそれぞれ小さいが専用の談話室が設けられていて、その部隊に所属する者ならば自由に使っていい。もし個人的に使いたい場合は、隊長の許可を得れば占有することも可能だ。部外者を入れたりすることは出来ないが、騎士と一緒であれば申請をして王城内に務める身元の確かな者なら入室も出来る。


「じゃ、俺は談話室で待機してるから、レンドルフの方は終わったら来てくれ」

「よろしくお願いします」


待機番の時に必ず渡される通信用のバングルを手首に装着するとオルトはヒラリと手を振って、これから昼の警護に就く騎士に申し送りをしに行くレンドルフを見送った。そこですぐに終業になるのではなく、その後に夜番の報告書作成の義務がある為、勤務終わりは昼近くなる。騎士にしては珍しく書類作業が苦手ではないレンドルフは、もう少し早く終わるかもしれない。



「何なんです?密談って」

「話したら密談にならんだろうが」

「そうですけど…だって心配じゃないですか。レンドルフ先輩、最近様子がおかしかったから」


レンドルフが去った後、同じ部隊の最年少のショーキがオルトの顔を覗き込むようにして聞いて来た。リス系獣人の特徴でもある丸い目をクリクリさせて見上げて来る姿は、成人済みの騎士と言ってもすぐに信じてもらえない程幼く見える。


「何だ、気付いてたのか」

「そりゃあ気付きますよ!食べる量も減ってたし、前は休みの度に出掛けたのに今は全然だし」

「顔色も優れないようだったしな」

「オスカー隊長もしっかり見てますね」

「それが隊長の役割だろう」


隊長のオスカーも、レンドルフが去った方向に顔を向けながら心配そうな表情になっていた。


「カノジョさんのことでしょ?それなら僕に相談してくれてもいいのな」

「どうしてそう思った?」

「分かりやすいですよ!ほぼ毎日、どころか一日に何通も手紙のやり取りしてたのに、最近じゃ三日に一回くらいだし、休日だってずっと王城内にいるし。カノジョさんと何かあったに決まってるじゃないですか」


ショーキは不服げに口を尖らせながら、レンドルフの様子のおかしい事項を指折り数えてみせた。レンドルフは当人が必死に押し隠そうとしているおかげで、そこまで周囲にはおかしいとは思われていない。しかし同じ部隊で共に過ごす時間も長く、特にレンドルフに懐いているショーキにはすっかりバレていた。特にショーキは獣人特有の勘の鋭さや索敵魔法を操るので、本来はやり取りをしている当人達以外は見ることの出来ない伝書鳥を視認することが出来るのだ。レンドルフの側にいれば、それだけ伝書鳥が来ているのを目にする機会も多い。


「まあそうであっても、相談を受けたのは俺だからな。話せることはないぞ」

「僕だって悩み相談くらい受けられるのに…」

「お前、彼女いないだろ?」

「でも姉がいっぱいいます!むしろ知りたくなかった女性の本音を知り尽くしたベテランですよ!」

「苦労したんだな、お前…」


ショーキの家は、兄一人姉八人妹一人という女系一家である。そしてショーキ曰く「リスの皮を被った肉食系猛獣」と姉達は評されていて、その苦労の片鱗が垣間見えた。


「私も妻と娘がいるんだが」

「隊長まで…俺とベルは新婚で、恋人同士みたいなもんです。一番近い立場だから相談されたんですよ!」

「オルト先輩、去年結婚18年目、とか言ってませんでした?」

「私より長いな」

「いいんです!気持ちは何年経っても新婚で、恋人なんですから!」


よく分からない方向になって来たが、要するに皆レンドルフのことを気に掛けていると言うことに集約していた。


「ま、何かあったらレンドルフ本人が相談して来ると思いますよ。だからショーキも拗ねるなよ」

「拗ねてません!」


オルトは明らかに拗ねた表情になっているショーキの頭をワシャワシャと撫で回すと、談話室のある方とは反対側に去って行った。そちらには売店があるので、そこでレンドルフの為に何か甘い物でも買って行くのだろう。


「やっぱり僕じゃ頼りがいがないからですかね」

「後輩には情けない姿を見せたくない、というのもあるんじゃないか?」

「そう…だといいんですけど」


オスカーも内心では「もっと頼ってくれてもいいんだが…」と思わないでもなかったが、ショーキより長く生きている分隠すことには長けているし、今はその時ではないのだと納得するだけの経験値もあった。


まだ複雑そうな顔のままのショーキに、オスカーはポンと軽く背中を叩いて気分を切り換えさせる。


「さあ、今日は今年入った新人指導だ。連携の為の捕縛訓練もあるから、任せたぞ」

「はい!見習い達には絶対に尻尾も掴ませませんよ!」


素直に気持ちを切り換えたのか、パッと明るい笑顔になってショーキは胸を叩いてみせた。ショーキはリス系獣人だが、人族と同じ生活様式では大きな尻尾が邪魔になるので魔法で消してもらっている。なのでそもそも掴める尻尾はない。


「ははは、その意気だ」


今日のオスカーとショーキは、入団したばかりの新人の指導官を務めることになっている。その大半は基礎訓練だが、飽きて集中力がなくなる頃に少しばかり実戦訓練も行うことにしている。

今回は、ショーキを犯人に見立てた捕縛訓練を実施する予定だ。これは数人で一組になって、連携を取って犯人を追い込んで行き、最終的に捕縛する内容だ。まだ入団したばかりで互いのことも理解し合えていない時期なので、大抵は捕縛前に時間切れになって終わる。特に身軽なショーキはこの訓練での犯人役を得意としていて、見習いだけではなく正式な騎士になった者達でも苦戦するのだ。


「今年もまた癖の強い新人がいるらしいですね〜」

「いない年の方が珍しいくらいだからな。だが、一年見習い訓練を経て、その後の地方での実地研修を終えるとかなり変わるから、それに期待だ」

「あれは大分心を折られますからね…」


ショーキはその時のことを思い出したのか、フルリと身を震わせた。


この国の騎士は、国土の広さの割に非常に少ない。これはかつて神の怒りに触れたと言われる流行病を起因とした人口激減の影響だ。今は大分回復傾向にはあるが、それでもまだ人手が足りていない場所は多い。その為以前のようにすぐに現場に配置して実戦経験を詰ませるようなやり方では、ただ貴重な人材を消耗するだけだ。それを回避する為に、現在は騎士のなり手は約二年間みっちりと時間を掛けて育てる方針になっている。


貴族の通う学園の騎士科の卒業者は、ある程度基礎が出来上がっていると見なして王城騎士団で見習いとして一年程度の訓練を受ける。その後は王都以外の領地に派遣して、その地の専属騎士団の中で実地研修を行うのだ。人によって差はあるが、大抵数ヶ月から半年を一つの領地で過ごし、複数の領地で様々なやり方を体験してこちらも約一年で王都に戻って来る。こうして見習いの騎士は、最短二年程でようやく正規の騎士として認められるのだ。


平民の場合は、基礎が不足していることもあるので、基礎訓練に数年掛けることもある。ショーキはそのクチで、見習いが外れるのに五年掛かっている。逆にレンドルフはこの訓練を全て飛ばして、学園卒業後に入団してから僅かひと月で正騎士になった。これはすでに辺境で実戦を重ねていたので出来たことで、異例中の異例なのだ。



「今頃モノ…じゃなくてロットも心折れてないといいですね」

「確か、あとふた月くらいで戻って来るのだったな」


以前のモノこと、現在の名はロットになった彼は、かつて同じ隊に所属していた新人だった。特殊な事情でオルトが彼の世話係を請け負っていた繋がりから、今はオルトとベルの夫妻の養子となっている。そして現在は新人研修のやり直しを当人が希望して、実地研修の真っ最中だ。既に二カ所の領地を経験して、今は最終地としてレンドルフの故郷であるクロヴァス辺境領にいる。


「戻って来たらウチの隊に入ってくれないですかね?」

「どうだろうな。今はオルトと親子になっているから、難しいと思うぞ」

「ええ〜。レンドルフ先輩と二枚前衛で立ってくれると助かるのに〜」


再び口を尖らせたショーキに、オスカーはやれやれとばかりに苦笑していたが、実のところ内心はロットに戻って来て欲しいと思っている気持ちは一緒だ。


所属している第四騎士団は、魔獣討伐を主な任務としている。その為、編成される部隊は少人数であることが多い。だがそれでも大抵は五名から八名くらいなので、今は四名のオスカー率いるソルド隊は人手不足だ。それにレンドルフを除く三名が後衛タイプなので、もう一人攻撃力の高い前衛が欲しいところではあるのだ。


ロットが抜けた後、誰かを補充するのかとオスカーは思っていたがその気配がないことから、もしかしたらそのまま以前所属していたソルド(この)隊に戻される可能性はなくはない。ほのかな期待を抱きつつ、オスカーは今後部下になるかもしれない騎士の卵達の元へ足を向けたのだった。



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「オルトさん、大丈夫ですか?」

「おう、早かったな。ああ、昼飯を持って来たのか」


レンドルフが談話室に入って来ると、手に提げた紙袋からフワリと良い匂いが広がった。その見慣れた袋は、団員専用の食堂の持ち帰り用のものだ。


「すみません、ちょっと食堂は落ち着かなくて」

「俺も今からだから気にするな」


ちょうどオルトも持参して来た昼食をテーブルの上に広げたところだった。

オルトは妻ベルの為に色々な食材を購入しては、彼女の口に合う安全な食事を常に研究している。それでもなかなか上手く行くことは少なく、どんな味付けにしてもベルの口に合わない食材はオルトが自分用に調理しているのだ。その為、オルトは月の半分くらいは自分で作った弁当を持参している。


「オルトさん、スープはいりますか?」

「ああ、あの海藻のヤツか?頼む」


レンドルフが談話室に備え付けられている保温ポットから湯を注いで、ユリから分けてもらっている干した海藻を粉末にしたものを溶いた。これはスープに入れると複雑な旨味をプラスしてくれるものだが、こうして湯に溶くだけでも十分美味しい優れものだ。特に持って行く荷物が限られる遠征時にはなくてはならないものになっている。



レンドルフはオルトの前にカップを置いてからはす向かいの席に座り、食堂から持って来た容器の蓋を取ると複雑な香辛料の香りが広がった。その食欲をそそる匂いに、オルトは思わず鼻をヒクつかせる。


「今日はカレーか?」

「パンにソーセージとカレーソースが挟まっています。半分如何です?」

「お前のメシを奪うのは申し訳ないが…その香りには抗えないな。じゃあ、俺の作ったチキンサンドと交換でどうだ?」

「ありがとうございます、いただきます」


レンドルフの持って来た食堂メニューは、少し固めのパンの中心に切れ込みを入れて、そこに酢漬けのキャベツとソーセージを挟み、一緒にカレーソースも挟んであった。ソーセージはこんがりとした焼き色が付いていて、パリッとした薄皮を透かして中身の肉汁がたっぷり封じ込められているのが見える程だ。二切れあったうちの一つをオルトに渡し、代わりにオルトからチキンの挟まったサンドイッチを受け取る。


こちらは脂の乗ったもも肉を網焼きにして味付けはシンプルに塩だけだが、一緒に挟んだ細切りにしたタマネギと人参の歯応えと、少し柑橘の風味と香ばしい砕いたクルミのアクセントが効いていて非常に美味だった。



色々あって食欲が落ちていたレンドルフだったが、カレーソースの香りに後押しされ、オルトのチキンサンドの後を引く美味しさとクセになる食感を楽しんでいるうちに気が付けば完食していた。


「それで相談ってのは?彼女からいい返事を貰えなかったか?」

「あの、それは大丈夫でした。ただ…」


レンドルフはオルトから視線を逸らして少しの間逡巡していたが、やがて顔を上げて再び口を開いた。


「その…紹介者と会う際に、俺も同席して欲しい、と」



お読みいただきありがとうございます!


過去に出て来た登場人物が再登場したり、過去エピソードの話も出て来るので登場人物紹介ページを作った方がいいのだろうと思いつつ…登場時から立場などが変化する場合もあるのでどのタイミングで書くかとか、それ以前にやたら人数が多いので時間が掛かるとか、諸々の事情で実現しておりません。

こういうのはAIとかでやれないのかな〜?と思ってチラッと調べてみたけど、思ってたんと違う。紹介ページはもうちょっと検討してみます。


この先もお付き合いいただければ幸いです。

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