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縁遠い護衛騎士と悪縁寄せ令嬢の幸運なご縁  作者: すずき あい


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閑話.比翼の鳥、連理の枝


ユリが帰った後、深い眠りについているタイキをバートンが部屋まで運ぶのを、すっかり大人しくなったテンリが両手を拘束された状態でソファ席で見送った。本来ならば駐屯部隊の本部まで連行して事情聴取をするべきなのだが、ミキタが彼女から事情を聞きたいと強く希望したのでこうなっている。


「ホントーに休まなくていいのかよ」

「いいっつってんだろ。クドクドと煩いねえ」


まだ顔色が白いままのミキタに、ステノスは眉を下げる。さすがに蒸留酒をグラスに注ぎかけたのはクリューに取り上げられていて、ミキタの目の前には薬草茶が置かれていた。


「こっちの気持ちが休まらないから、いっそアンタだけ鍋持ってさっさと帰れ」

「ちょっとミキタさん?お宅の息子さん酷くないですかー」

「別に帰っても構わないけどね」

「そう言う訳にはいかんでしょうよ〜。一応オイラはこの街の保安を取り仕切る立場よ?」


ステノスが座っている席から最も離れた場所で威嚇を隠そうともしないミスキに言われて、ステノスはますます眉を下げて情けない顔になった。ミスキの方も決して軽くない怪我をしていたので、部屋で休んでいて欲しいところだが、やはり席を外す気はないようだった。



「さて、と。そんじゃ、何であんなことをしたのか話して貰うぜ。ま、別に嘘吐いてもいいけどな。どうせ俺の報告と事実に相違がありゃ、嫌でも喋らされる」


ステノスはテーブルを挟んでテンリの正面に椅子をクルリと逆向きに向けて跨がって座り、背もたれに腕を乗せた。その言葉の言外に自白剤の使用を匂わせたが、まだこの国のあらゆることに疎いテンリにどこまで通じたかは分からなかった。


テンリはやはりステノスの言葉の裏を理解していないのか、妙に静かな表情でステノスをジッと見つめていた。少々長い沈黙が訪れて、ステノスはもう一度催促しようと口を開きかけたとき、テンリがようやく口をきいた。


「貴殿は、山鳥(やまどり)殿か?」


予想もしなかった問いかけが来て、一瞬だがステノスの目が泳いだ。


「なぁに言ってんだ。オイラはステノス・エニシダってんだ。山鳥なんて旨そうな名前じゃねぇよ」

「「「嘘だ」」」


ヘラリと笑ったステノスに、別方向から同時にキッパリと否定する声が上がる。


「大分ふやけてたるんだが、その顔は間違いない」

「アンタは嘘を吐くときカメムシみたいな顔になるんだよ」

「既に顔が胡散臭い」

「みんな酷くない!?」


テンリ、ミキタ、ミスキに口々に言われて、ステノスは半ば悲鳴のような声を上げた。


「…話が進まんな」

「そう!そうだよ!特にそこの親子!ちったぁ黙ってくれ!」

「「ちっ」」


全く尋問が進まないので、バートンがボソリと呟いた。別にバートンは助け舟を出した訳ではないのだが、ステノスはここぞとばかりに尻馬に乗って、ひとまずミキタとミスキに黙るようにピシリと言い放った。言われた二人も自覚はあったのか口を閉じたものの、眉間に深い皺を刻んで全く同時に舌打ちをした。それを受けて、妙なところでそっくり親子だ、とステノスはそう言いたいのを飲み込んだ。



「で、だ。お前さんの言った『山鳥殿』だが、それは俺じゃない」

「しかし、貴殿の太刀の拵え。それは尾長(おのながの)太政大臣(おおきのおとど)殿の懐刀と同じものの筈」

「待て待て。ミズホ(あっち)の呼び名で言うな。久々だから頭がついて行かねえ」


テンリの口から次々とミズホ国特有の単語が出て来て、ステノスは手を上げて降参のポーズを取った。ステノスもミズホ国の出身ではあるが、国を出てこの大陸に渡って来てから人生の半分以上の時が過ぎている。今では夢でもこの大陸の共通言語で話している。


「…どれが名前だか何だか全然分からないんだけど〜。ミキティは分かる?」

「いや、さっぱりだ」


クリューが首を90度近くになるまで傾げて傍にいたミキタに訪ねたが、ミキタも頭を振るだけだった。


「あ〜…俺はみなしご…戦災孤児ってヤツでな。まあ、親の顔なんざ知らねえが、偉いさんのバカ息子がバラまいたタネだったらしくて、高貴なご嫡男に顔が似てたのを見込まれてお仕えすることになったクチだ。で、貴族の嫡男に似た孤児なんざ、使い道は一つだ」

「影武者、ってこと?」

「ご名答。だから大殿…まあ、『山鳥殿』に顔が似てんのも当然てワケだ」

「じゃあオノナノナノナノ…?」

尾長(おのながの)太政大臣(おおきのおとど)、な」


こめかみに指を当てて眉間に皺を寄せるクリューに、ステノスは苦笑しながら丁寧に言い直した。かつては幾度となく呼び、自らも名乗ったことのある名は、久々に舌に乗せると気が抜けるほど遠く薄れた味がした。


尾長(おのなが)ってのが家名だ。で、太政大臣が役職名。こっちで言うところの………」

「ところの…?」

「まあ、取り敢えずそこそこ偉い」

「なんなの、それ」

「難しいんだよ!あっちとこっちじゃ全く違うんだって」


本来ならばこの国では宰相にあたる立場だが、かつてステノスが主人として敬愛した男は皇族の血を引き、実際は公然の秘密として皇王の異父兄であった為に、皇王が成人の儀を終えるまでは摂政を務めていたのだ。その後も政治に疎い皇王の代わりに実権を握っていたので、どちらかと言うと関白に近い。しかしオベリス王国ではその地位の役職が存在していないので、非常に説明し辛いのだった。


「じゃあその人は『オノナガヤマドリ』?って言うの?」

「あー…それはそれで説明が面倒なんだが…二つ名みてぇなもんだ。ほら、クリューちゃんだってなんかあっただろ、物騒なヤツ」

「「脆弱の殺戮魔女」」

「ちょっとぉ!そんな昔の!」


今度はバートンとミキタの声が重なった。それはもっと若い頃、ミキタが頭目をしていた傭兵団時代に付けられたクリューの二つ名だった。体力がなくすぐに息切れがするのだが、それに反して広範囲の攻撃魔法で対象を一掃することが由来だ。


ミズホ国で「山鳥」と呼ばれる鳥は尾が長いのが特徴であるため為、「尾長」と言えば「山鳥」と示すものという連想から呼ばれるようになったものだ。ただそもそもそう呼ばれるようになった切っ掛けが、「煮ても焼いても食えないヤツ」と揶揄された彼が「羽根から骨まで余すところなく使えるものです」と嫌味を含めて自ら名乗ったことから始まっている。


ステノスはそこまで説明する必要ないと、敢えて「二つ名」と端折ることにした。


「んで、この刀の方は、大殿の愛刀とおんなじ鍛冶師が打ったのを貰っただけだ。これでオイラが『山鳥殿』とは別人て分かってもらえたか?」


(ま、刀の方は国を出る時に駄賃として勝手に貰って来たんだがな)


腕は良いのに妙な刀ばかりを作る鍛冶師で、ステノスとは酒飲み仲間だった。国を出る時に保管してあった一振りを勝手に持ち出したのだが、未だに追いかけて奪い返しに来ないところから、ステノスは自分の為に誂えてくれたのだと思っている。ミズホ国は遠く離れた海の向こうの国だが、本気で取り返そうと思えば地の果てまで追いかけて来るような性格なのは嫌と言う程知っているのだ。

国を出て落ち着いたところでようやく銘を確認したのだが、「ナカタのカタナ」というふざけた銘が刻まれていて、ステノスは脱力して崩れ落ちたのは今となっては良い思い出だ…ということにしている。



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「そんでお前さんは、大方『片翼の儀』でも受けて、この国に『翼』を探しに来たんだろ」

「そうだ」


ステノスは探るように片眉を上げてテンリに尋ねたが、彼女はあっさりと認めた。その態度にステノスは些か鼻白んだ表情になった。


「はぁ〜い。その『片翼の儀』ってなんですかぁ?」


またしても聞き慣れない単語を耳にして、クリューが片手を上に上げて質問をする。ステノスは口の中で「ちっとも話が進みゃしねえ」とブツクサと文句を言っていたが、無視して進めると後が怖い。彼は大きく溜息を吐いて、半身をクリューのいる方向に向き直る。


「こっちで言う獣人の番ってヤツを決める儀式だ。あっちは高位の家は獣人の始祖が多いんだよ。狭い島国で長いこと権力争いしてて、力が強いヤツじゃねえと生き残れなかったから獣人の血を大事にしてたんだが…必ずしも番ってヤツぁ血を強化する者だとは限らねえ」


獣人の血を引いている家門では、血の強化や家同士の結びつきの為に定められた婚姻が、番を見つけたことで破談になることはよくあると言われている。だが、番が最下層の平民であったり、非常に非力な種族であった場合、なかなか厳しいことになる。そんな番でもどこかに利があるのならば認められることはあるが、それもかなり稀な場合だ。

だからそうなる前に、彼の国では相応しい者を定めて番にする。本来は自然に、或いは運命で定められたと言われる番の存在を捩じ曲げて、最も都合の良い者を後天的に番認定させるのだ。勿論、その相手も慎重に見定められる為、むしろその方が揉め事も少なくて済むとすら言われている。


オベリス王(この)国じゃ、番を認識しないようにする方策を取ったが、ミズホ国はそれと対極。だが、根っこのところは同じだ。要は力のある獣人の番騒動でイタい目を見た」



オベリス王国の建国王に仕えた五英雄の中にも、獣人がいたと言われている。その強大な力があってこそ、周囲の小国を一夜で掌握したという伝説があるくらいだ。そのため建国当初は人族と獣人族などの亜人種も共同生活を営んでいた。だが、やはり圧倒的な力の差から諍いが絶えず、やがて獣人が既婚の人族を番認定して、相手の伴侶を殺害したことが決定打になって、獣人の排斥の気運が高まった。力は獣人族の方が強いが、数では圧倒的に人族が勝った。

やがてオベリス王国から獣人の姿が殆ど見られなくなった。しかし当時はまだ周辺国は大いに荒れており、オベリス王国を追放されてもまともに生きて行くことが難しかった。そこで仕方なく息を潜めるように国境の付近で小さなコミュニティを作って暮らしていたのだが、番を認識しなくなる薬が開発され、それを投与した獣人は再びオベリス王国に戻ることを許されたのだ。


そうして長い年月が流れ、人族と交わり血の薄くなった獣人族は、今では番を認識しなくなる薬を用いずとも暮らして行けるようになっている。時折先祖返りとばかりに過剰反応する者もいるが、人族が起こす執着と大差ないとして、同じような扱いになっていた。



「こっちにも比翼貝ってあんだろ?同じ貝じゃねえとぴったり合わさらねえ。おそらく名前はミズホ国の『比翼の鳥、連理の枝』っていう運命的な伴侶、番を表す言葉から来てるんだろ」


ステノスは懐から比翼貝の傷薬を取り出して、テーブルの上にコロリと転がした。これは同じ貝ならば非常に密閉率の高い器になるため、その中に傷薬を入れて携帯する為の容れ物としてごく一般的に使われている。「医療の」「薬の」という名を冠するアスクレティ大公家の始祖は、ミズホ国出身の薬師だとも言われているので、比翼貝という名付けをしたのはおそらく大公家からだろう。


「だから『片翼の儀』ってのは、もう片方の(つがい)に合わせて比翼になる儀式だ。そんでこの別嬪さんは、わざわざこの国まであの坊主を探しに来たってワケだ」

「まさか会ったこともないタイキを訪ねてミズホ国から来たってのかい…?」

「国にいる高貴な一族から託宣を賜って、私が伴侶に相応しいと選ばれた」

「アンタはそれで良かったのかい?」

「伴侶の片翼に選ばれることはこの上もない栄誉だ」


ミキタの問いに迷うことなく答えるテンリに、ミキタは何か苦いものを飲み込んだような顔になった。どちらかと言うと、テンリの考え方はこの国の貴族の政略に近い。ミキタも頭ではそれが分かっているが、自分の息子にその話が降り掛かるとは思っていなかったのだ。


「ご母堂」

「へ?あたしかい?」

「その、本当に先程のご子息は未成年、なのだろうか」

「あ、ああ。生後間もない赤子を死んだ亭主が拾って来たのは15年前だ」

「実子ではない?」

「そうだよ。別に隠してないから当人も周りもみんな知ってる。ああ、当然過ぎてアンタの耳には入らなかったか」


ミキタの二番目の夫であったランガはAランクのソロ冒険者で、どこかのダンジョンに潜った際に捨てられていた赤子を発見し、連れ帰って来たのがタイキだ。タイキは産まれて間もない赤子の時から人族とは違う特徴を備えていたので、異種族との混血であることは明らかで、おそらくそれが原因で捨てられた可能性が高いと思われた。

ランガの強い希望とミキタも放っておけないと判断し、タイキを引き取ることを決めた。が、その僅か三日後に、ランガは千年樹ダンジョンの最奥で遺体で発見された。


それから数年後、タイキの成長速度がミキタ達の知る亜人種とは全く当て嵌まらなかった為、タイキの将来を考えて何の種族かを神殿で鑑定してもらったところ、まさかの竜種だと判明してちょっとした騒ぎになった。

当初はそれをひた隠しにしようとしていたが、どこからか話を聞きつけたアスクレティ大公家から後ろ盾の申し出と共に、公表しておいた方が極秘裏に誘拐されることを防げるというアドバイスを貰った。それに従って、今はタイキが拾い子であることと竜種の血統であることを隠していないのだ。


「アンタはその、伴侶ってやつをどう聞いてたんだい?少なくとも未成年ではないと思ってたみたいだし」

「国から連れ去られたのは、30年前だと聞いている」

「それじゃタイキとは人違いだろ」

「それはない。そうでなければ、私が暴走を沈められる筈がない」


一瞬、ひょっとしたらテンリの言う伴侶は、タイキの父親ではないかとミキタは考えた。この国の成人は男女とも18歳と定められていて、未成年の妊娠や出産は両親や血縁者に対して厳しい処罰がなされるが、他国であればその限りではない。例えば隣国ガリヤネ国は、男性が14歳、女性が12歳と言われている。だからこそタイキの年齢を鑑みれば、ガリヤネ国ならば父親の年齢でもおかしくない。


しかしミキタの言葉にテンリは首を振った。


「片翼に選ばれるのは、暴走を沈められて、且つ仇成す者を代わりに排除出来る能力のある神子のみ」

「じゃが、そもそもユリちゃんが仇成す者というのは有り得ん」

「そぉよね〜。ユリちゃんとはもう五年以上の付き合いだし〜」


テンリは確信を持っているようだったが、バートンやクリューはそれに首を傾げる。それにはミキタ達も同意見のようだ。


「こりゃいつまで経っても平行線だな。あの坊主に聞きゃあ早いんだが」

「誰が会わせるか」

「あのなあ、こいつは仕事なの。お・仕・事」


ステノスがワシャワシャと頭を掻きながら天井を見上げたが、相変わらずの塩対応のミスキが真っ先に返答した。そんな頑なにステノスを拒否するミスキに、ミキタはやれやれとばかりに溜息を吐いた。このままでは埒が開かないままだ。


「タイキの様子だと、明日の朝まで目を覚まさないだろうさ。もうユリちゃんは帰ったし、今日のところはこれで解散するしかないね」

「おい、いいのかよ」

「いいも何も、話聞けないんだからここでやいやい言っても仕方ないだろ。それにタイキのことだから、明日にはケロッとしてるだろうよ。暴走なんざちっちゃい頃からしょっちゅうだったからね。ただ今回はちょっと洒落にならなかったから、起きたら説教しないと」


片方の口の端を上げてニヤリと笑うミキタは、昔の傭兵団頭目だった頃の面影がそのまま残っていた。その勇ましさに惚れ込んで最初の夫の座を奪取したステノスは、思わず当時の気持ちを思い出して一瞬見惚れていた。


「仕方ねえな。今日はアンタも帰んな。事情聴取は後日だ」


ステノスは「よっこいしょ」と呟きながら立ち上がって、テンリの両手を拘束していた魔道具を外した。


「いいのか?」

「構わねえよ。あの坊主が番ってんなら、お前さんが逃げることはねえだろうしな。さっさとムラサキんとこに戻るんだな」

「ここにいてはいけないか」

「当たり前だろ。じゃ、鍋を持ち帰るついでに送ってくわ」


名残惜しそうに上を見上げていたテンリだったが、さすがに居座ることは無理だと悟ったようだ。シチューの入った大鍋と料理の詰められた容器入りの手提げを抱えたステノスにせっつかれるように、店を出て行ったのだった。



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「オフクロ、塩撒くか?」

「いいよ。撒いたってすぐに効果は出ないだろうし。勿体無いよ」


ステノスが扉の向こうに出るやいなや、ミスキは自然に閉まるのを待たずに勢いよく扉を引いた。いっそ挟んでやろうという気概に満ちた閉め方だったが、ステノスは体型に見合わぬ軽やかな動きでヌルリとそれを避けて出て行った。

塩を撒くというのは、以前ミキタが「腹の立つ客が帰った後に去った方向に塩を撒いておくと相手が高血圧になって寿命が縮むというミズホ国の伝統的な呪法」とステノスも聞いてからたまに実行していて、ミスキもそれを知っているのだ。


「それよりも、今日はもうこれで解散だ。アンタ達も付き合わせて悪かったね」

「いいのよぉ〜。それよりも二人とも大丈夫?」

「一晩寝れば大丈夫だよ。ただこのことはタイキには…」

「わしらからは言わんよ。ただ、お前さんからちゃんと説明してやるんだな」

「……ああ」


幼い頃、力を制御出来ずにいたタイキは癇癪を起こす度に鱗を逆立てて、周囲の人に遠巻きにされていた。それを真っ先に宥めに行くのはミキタやミスキ、そして今は一人立ちしている次男のユウキなどで、その鱗で怪我をすることが一番多かった。

タイキとてわざとやっている訳でもなかったので、激しく落ち込んだり、時には酷く反発したりを繰り返してどうにか自分で制御出来るようになっていた。先程のように我を忘れた状態になったのは、ここ数年では全くなかったのだ。


暴走した上に母と兄を傷付けたと知れば、おそらく相当ショックを受けるだろう。


「ミキティ…」

「大丈夫。ちゃんと、伝えるよ」


少しだけ辛そうなのを堪えているような翳りのあるミキタの様子に、クリューがそっと寄り添って背に手を当てる。ミキタは一度目を閉じて大きく息を吸ってから、パシリと自分の拳を手の平に当てた。


「そんで、何であんなことをしたのか、ギュウギュウに絞めて問いただしてやんなきゃね!」


そう宣言するようにニカリと笑ったミキタには、一切の翳りはなくなっていたのだった。



お読みいただきありがとうございます!


ステノスとミキタの二番目の夫ランガは、同じ主人「山鳥殿」に仕えていて、色々と因縁のある間柄です。その話も一応考えてはいますが、過去編などで扱うには本編とはほぼ関係がないので、書くとしたら独立した中編になるかと。(とは言え、今のところ予定はありませんが)


ランガについて触れられているのは「38.【過去編】二人目の」、塩を撒く下りは「36.【過去編】タイキの行方」にあります。


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