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勇者様、うんこ・おしっこ・ちんちんは世界を救うのに必要ですか?  作者: えいえい
第一編 橋の町

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第2話 城砕きの双角

 グラヴォルが吠えた。


 その口元から白い息が漏れる。


 勇者が一歩、足を止めた。


 獣の喉の奥で赤い光が膨れ上がる。


「……まずい!」


 聖女が叫ぶ。


「勇者様、離れてください!」


 次の瞬間、魔物の口から炎が噴き出した。


 橋の幅いっぱいに広がる火柱。


 熱風が町側まで吹きつけ、聖女はとっさに顔をかばった。


 勇者の姿が炎に隠れる。


「勇者様ぁっ!」


 声を張り上げた、その直後。


 火柱の上から黒い影が飛び出した。


 勇者だった。


 炎が迫った瞬間に欄干を蹴り、真上へ跳び上がっていたのだ。


 宙で身体をひねると、そのまま魔物の頭上へ落下していく。


 グラヴォルが顔を上げた。


「遅い!」


 勇者の蹴りが、魔物の額へ突き刺さる。


 轟音。


 灰色の巨体が石橋に叩きつけられた。


 衝撃で石畳が割れ、橋の端から大きな破片が川へ落ちていく。


 聖女は思わず身を乗り出した。


 こんな戦いが続けば、橋そのものが壊れてしまう。


 だが、その心配をする間もなく、グラヴォルが跳ね起きた。


 反撃の速さは尋常ではない。


 勇者の着地を狙って、巨大な前脚を振り下ろす。


 勇者が身体をひねった。


 爪が肩のすぐ横を通り過ぎる。


 そのまま転がって距離を取ろうとしたが、魔物は逃がさなかった。


 石橋を一蹴り。


 獣の巨体が、勇者の目前まで迫る。


 間に合わない。


 聖女がそう思った瞬間、勇者は右腕を振りかぶった。


 しかし、今度は投げなかった。


 それを見たグラヴォルが、わずかに身を沈める。


 何度も顔面にうんこを投げつけられたせいだろう。勇者の投球姿勢を見て、反射的に頭を下げたのだ。


 その隙に勇者が横へ跳ぶ。


 魔物の角が空を切った。


「もう覚えたか。賢いな」


 勇者は着地すると、わずかに口元を緩めた。


「だったら、少し変えてみるか」


 右手を構える。


 再び、グラヴォルの頭が下がった。


 勇者は投げるふりをしたまま、左手を突き出す。


 そこから勢いよく噴き出したのは、おしっこだった。


「グオッ!?」


 魔物の顔面を水流が襲う。


 思わず目を閉じた獣の横を、勇者が駆け抜けた。


 聖女は額に手を当てた。


 女神様。


 確かに素晴らしい戦い方です。


 ですが、もう少しだけ、ほかの方法はなかったのでしょうか。


     ◇


「聖女様!」


 兵士の声に、聖女は振り返った。


 橋の入口で、一人の男が倒れている。


 先ほど避難を誘導していた兵士だった。


 グラヴォルが欄干を砕いた際に、飛んできた石片が脚に当たったらしい。


 聖女はすぐに駆け寄った。


「動かないでください!」


「す、すみません……!」


「謝らなくていいんです。今、治しますから」


 法衣の裾が血で汚れる。


 それでも構わず膝をつき、負傷した脚へ手をかざした。


 淡い光が広がる。


 傷が塞がっていくのを確かめながら、聖女は何度も橋の方へ目を向けてしまった。


 勇者の姿が見えない。


 いや、正確には速すぎて見失ってしまうのだ。


 時折、石畳が割れる音と魔物の咆哮が響く。


 そのたびに胸が締めつけられる。


 ようやく治療が終わったとき、兵士が聖女の腕を掴んだ。


「聖女様……!」


「はい?」


「あいつの身体は、とんでもなく硬いんです。剣も槍も通らねえ。あの勇者様でも、まともに殴り合えば……」


「分かっています」


 聖女は静かに答えた。


 だからこそ、勇者はあの奇妙なスキルを使っているのだろう。


 硬い相手を力任せに殴るより、目や鼻を狙って動きを封じる。


 戦い方としては合理的だった。


 ただ、使っているものに少々問題があるだけで。


 そのとき、橋の上でひときわ大きな音が響いた。


 グラヴォルが跳躍したのだ。


 巨体が石橋から大きく浮かび上がり、勇者の頭上へ覆いかぶさる。


 勇者が地面へ身を沈めた。


 獣の腹が、すぐ上を通り過ぎる。


 そして、勇者は何かに気づいたようだった。


 起き上がると、グラヴォルの後ろ姿をじっと見つめている。


 妙に真剣な顔だ。


「……勇者様?」


 聖女は嫌な予感がした。


 なぜだろう。


 あの人があんな顔をしているときは、大抵ろくでもないことが起きる。


 勇者がゆっくりと右手を持ち上げた。


「なるほど。いいものを見せてもらった」


 そして、微笑んだ。


「これならいけそうだ」


 右の手のひらから、何かが現れる。


 灰色の皮膚に覆われた、太く長い物体。


 聖女は首を傾げた。


 見覚えのない形だ。


 最初は、魔物の尻尾かと思った。


 しかし、次の瞬間。


 それが何なのか理解してしまった。


「…………」


 聖女は無言で顔を背けた。


 見なかったことにしたい。


 今すぐ、すべてを忘れてしまいたい。


 けれど、スキルそのものを否定するわけにはいかない。


 それは女神様から授けられた祝福なのだから。


 勇者が満足そうに、右手から生えたものを眺めている。


「さすがグラヴォル。頑丈そうだな」


 それは、グラヴォルのちんちんだった。


 どうやら先ほど、魔物が頭上を跳び越えた際に見えたらしい。


 勇者のスキルは、実際に目にしたちんちんを手のひらから生み出すことができる。


 聖女もそれは知っていた。


 知ってはいたが、まさか実戦で使うとは。


「さて」


 勇者が右手を構えた。


「そろそろ決めるか」


 聖女は小さく息を吐いた。


 女神様。


 勇者様は、とても立派な方です。


 どうか、そのことだけは間違いありませんように。


     ◇


 グラヴォルが突進した。


 二本の角が、勇者の胸元を狙う。


 勇者は逃げなかった。


 右手を大きく振りかぶる。


 その先には、魔物のちんちん。


 聖女は思わず目を閉じそうになった。


 しかし。


 バシィッ!


 凄まじい音が響く。


 勇者の一撃が、グラヴォルの鼻先を打ち抜いた。


「ギャウッ!?」


 魔物の頭が横へ弾かれる。


 その巨体が、石橋の端まで押し戻された。


 なんという威力。


 聖女は目を見開いた。


 勇者の怪力に加え、グラヴォル自身の頑丈な皮膚を持つちんちん。


 その組み合わせは、予想以上の効果を発揮していた。


 ただし。


「……っ!」


 勇者が顔をしかめる。


 ちんちんには痛覚がある。


 いくら頑丈でも、強烈な衝撃を受ければ痛みが走るのだ。


 それでも勇者は、右手を構え直した。


「……なかなかいいな」


 額に汗を浮かべながら、薄く笑う。


「少し痛いが、十分使える」


 グラヴォルが吠えた。


 怒り狂った獣が、石橋を蹴る。


 その巨体が凄まじい速度で迫った。


 勇者は地面を蹴って跳躍する。


 獣の頭上を越え、空中で身体を反転させた。


 そして、落下する勢いに乗せて右腕を振り下ろす。


 バシィッ!


 再び、ちんちんが魔物の頭を打つ。


「グガアアッ!」


 グラヴォルが悲鳴を上げた。


 石畳に頭を叩きつけられ、巨体が大きくよろめく。


 しかし、まだ倒れない。


 獣は足を踏ん張り、身体をひねった。


 巨大な尻尾が、勇者へ襲いかかる。


「……っ!」


 勇者は咄嗟に右手のちんちんを引っ込めた。


 次の瞬間、尻尾が目前を薙ぎ払う。


 勇者は後ろへ跳んだ。


 間一髪。


 尾の先端が鎧をかすめ、金属の表面に深い傷を刻む。


「おっと。危ないな」


 勇者が着地する。


 グラヴォルはすでに向きを変えていた。


 そして再び、頭を低く構える。


 突進の姿勢。


 聖女は息を呑んだ。


 あの巨体が、また来る。


 しかも今度は、これまで以上の勢いだった。


「勇者様っ!」


 叫んだときには、もう遅かった。


 グラヴォルが石橋を蹴る。


 その巨体が、まるで砲弾のように飛び出した。


 勇者は動かない。


 真正面から、魔物を見据えている。


「……なるほど」


 勇者は小さくつぶやいた。


「最後は力勝負か」

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