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異世界に召喚された超大国  作者: T24
第一章 超大国、消失
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第六話超大国の首都

西暦二一六八年六月二十三日。


アストリア連邦共和国東部。


セント・アイリス中央駅。


ローゼリア王国の外交使節団一行は、巨大な駅舎を前に立ち尽くしていた。


「……これが駅、ですか」


エドモンド・フォン・ラウゼン伯爵が、ゆっくりと周囲を見回した。


天井は高く、巨大なガラス張りの空間に無数の人々が行き交っている。


壁面には巨大な表示板。


その下には複数の乗降口が並び、次々と列車が到着していた。


どこを見ても人、人、人。


だが、混乱はない。


誰もが案内表示に従い、規則正しく移動している。


「王都の市場より人が多いのでは……?」


護衛騎士の一人が呟いた。


「市場どころか、王都の大通りでもここまでの人数は見たことがない」


別の騎士が返した。


宮廷魔導士セシリアは、周囲を注意深く観察していた。


「それより……」


彼女は天井を見上げた。


「これほど大きな建物なのに、照明にも空調にも魔力反応がありません」


すでに何度聞いたか分からない言葉だった。


魔力反応がない。


アストリアへ来てから、ローゼリアの人々はそればかり口にしている。


彼らの世界では、大規模な設備を動かすには魔法が必要だった。


灯りをつける。


水を汲み上げる。


重い物を持ち上げる。


遠くへ音声を届ける。


高度な都市では、その多くが魔導器によって補助されている。


しかし、アストリアでは違う。


魔力が存在しなくとも、それ以上のことを当たり前のように実現していた。


「皆様」


一行の先頭に立つアストリア国務省外交官、ダニエル・フォスターが声をかけた。


「列車の準備が整いました」


「おお」


エドモンドが頷く。


「いよいよですな」


「はい。首都まで約六時間半ほどを予定しています」


「……六時間半」


その数字を聞いても、使節団の誰もすぐには反応しなかった。


二千キロメートル。


ローゼリア王国の感覚なら、馬車で何週間もかかる距離である。


それを半日もかからず移動する。


昨日説明を受けていても、いまだに実感が湧かなかった。


◇◇◇


使節団が案内されたのは、外交用に確保された高速鉄道の一等車両だった。


「これが……列車?」


エドモンドは窓際の座席へ腰を下ろした。


内部は明るく、清潔で、揺れもほとんど感じない。


座席は柔らかく、個別の照明や情報端末まで備えられている。


「馬車とは、全く違いますね……」


セシリアが座席の背もたれを触っている。


「これほど快適な乗り物が、一般の民にも使われているのですか?」


「はい」


フォスターが答えた。


「もちろん、座席の種類などによって料金は異なりますが、高速鉄道そのものは一般市民も利用します」


「一般市民が……」


エドモンドは苦笑した。


ローゼリア王国で、この内装を持つ馬車を作れば王族専用になる。


それが、この国では公共交通機関なのだ。


やがて。


電子音が鳴った。


『まもなく発車いたします』


当然、ローゼリア側にはそのままでは意味が分からない。


だが、セシリアの言語理解魔法と、すでにある程度学習を進めたアストリア側の翻訳装置によって、大まかな内容は理解できた。


列車が、静かに動き始めた。


「……動いた」


騎士の一人が窓に張り付く。


「音がほとんどしないぞ」


列車は徐々に速度を上げていった。


駅の建物が後方へ流れていく。


市街地。


高層建築。


巨大な道路。


そして。


「速い……!」


誰かが叫んだ。


列車はさらに加速する。


窓の外の景色が、目で追うことすら難しい速度で流れていった。


「現在、時速二百四十キロメートルほどです」


フォスターが説明する。


「……今で?」


エドモンドが聞き返した。


「はい。ここからさらに速度を上げます」


「さらに?」


数分後。


車内表示が三百二十キロを示した。


「……馬なら」


護衛騎士の一人が呟く。


「馬なら、全力で走っても……」


「比較する意味がない」


隣の騎士が答えた。


それ以上、誰も言葉を続けなかった。


◇◇◇


高速鉄道は、広大な平原を走っていた。


エドモンドは窓の外を眺めていた。


そこに広がっていたのは、見渡す限りの農地だった。


「……これほどの畑が」


地平線まで続く穀倉地帯。


だが、驚くべきなのはその広さだけではなかった。


巨大な農業機械が、無人で畑を走っている。


その上空では、小型の飛行機械が規則正しく旋回していた。


「フォスター殿」


「はい」


「あれは何をしているのですか?」


エドモンドが指差す。


「あれは農業用無人機です。作物の状態を監視したり、必要に応じて肥料や農薬を散布したりします」


「……人が乗っていない?」


「はい。自動制御されています」


エドモンドは黙った。


「では、あちらの大きな機械も?」


「多くは自動運転です。人間が監督していますが、作業自体は機械が行います」


セシリアが驚いたように尋ねた。


「これほど広い土地を、少人数で管理しているのですか?」


「そうですね」


フォスターは少し考えた。


「農業従事者の数そのものは、全人口に対してかなり少ないです」


「……それで四億八千万人を?」


「はい」


セシリアは絶句した。


ローゼリア王国では、人口の大半が農業に関係する仕事をしている。


それでも、凶作になれば食料不足が発生する。


だがアストリアでは、人間の代わりに機械が働く。


広大な土地を管理し。


大量の食料を生産し。


それを都市へ運ぶ。


「……文明の差とは」


エドモンドが小さく呟いた。


「単に兵器の強さではないのだな」


その言葉を聞いたフォスターは、何も答えなかった。


ただ、静かに窓の外を見た。


◇◇◇


列車がさらに西へ進む。


やがて農地が減り、遠方に巨大な建造物群が見えてきた。


「……あれは都市ですか?」


「工業都市です」


フォスターが答える。


巨大な工場。


数え切れないほどの倉庫。


線路。


自動輸送車両。


遠方には、いくつもの核融合発電施設が並んでいる。


「ここでは航空機、車両、産業機械、電子部品などを生産しています」


「航空機まで?」


「ええ」


エドモンドは何かに気づいた。


「まさか……」


工場の一角。


巨大な建物の扉が開いている。


その内部に、人型の影が見えた。


「……鋼鉄の巨人」


セシリアが呟いた。


M-28ガーディアン。


建物の内部には、複数の機体が並んでいた。


さらに奥には、装甲車両や主力戦車も見える。


「ここは軍需工場ですか?」


エドモンドが尋ねる。


「一部区画はそうです」


「……あの巨人を、ここで?」


「生産しています」


「一日に何体ほど?」


フォスターは一瞬だけ迷った。


軍事機密に触れない範囲で答える。


「平時ですので、生産数は限定されています。ですが、複数の企業が製造に関わっています」


「複数?」


「はい。この工場だけで作っているわけではありません」


「……そうですか」


エドモンドは静かに座席へ戻った。


その表情は、少し疲れていた。


驚くことに疲れてしまったのだ。


◇◇◇


午後一時二十五分。


列車は巨大な軍事基地の近くを通過していた。


当然、線路そのものは基地内部には入らない。


しかし、遠方からでもその規模は十分に分かった。


最初に見えたのは航空機だった。


長大な滑走路。


多数の格納庫。


そして、整然と並ぶ戦闘機。


「あれが……航空機?」


セシリアが窓に顔を近づけた。


「軍用です」


フォスターが答えた。


その瞬間。


滑走路の一角から、一機のF-48レイヴンが離陸した。


爆音。


機体は急激に加速し、瞬く間に空へ舞い上がる。


「は、速い!」


護衛騎士が声を上げた。


戦闘機は上昇し、そのまま雲の向こうへ消えていった。


「……今のものが、一機で飛竜より速いのですか?」


セシリアが尋ねる。


「おそらく、かなり」


「どれほど?」


「最高速度については軍事情報なので詳しくは言えません。ただし、音より速く飛行できます」


「音より……?」


セシリアは意味を理解するまで数秒を要した。


「……音より速い?」


「はい」


彼女は窓の外を見た。


すでに戦闘機の姿はない。


「……飛竜騎士団では」


エドモンドが呟いた。


「接近することすらできないのでは?」


フォスターは、回答を避けた。


だが、その沈黙だけで十分だった。


続いて。


基地の別区画が見えた。


「……あれは」


今度こそ、使節団全員が完全に言葉を失った。


数十機の人型機動兵器。


その隣には多数の戦車。


さらに装甲車。


輸送車。


自走砲。


空には無人航空機。


そのすべてが、巨大な軍事基地の中に整然と配置されていた。


「……辺境伯の報告は」


エドモンドが小さく言う。


「誇張ではなかったのだな」


一万体以上。


あの時は信じられなかった。


しかし。


この光景を見れば、その数字すら現実的に思えてくる。


◇◇◇


午後三時四十八分。


「皆様」


フォスターが窓の外を示した。


「間もなく首都圏へ入ります」


エドモンドは顔を上げた。


最初に見えたのは、都市ではなかった。


道路だった。


何本もの巨大な幹線道路。


そこを、無数の車両が流れている。


さらに。


線路。


物流施設。


発電設備。


住宅都市。


工業地帯。


そして、それらが延々と続いていく。


「……まだ首都ではないのですか?」


「首都圏です」


「首都圏?」


「ノヴァ・キャピタルを中心とする周辺都市群です」


「……都市が連なっている?」


「そう考えていただいて構いません」


さらに列車が進む。


やがて。


遠方に巨大な都市が現れた。


最初は霞んでいた。


だが、近づくにつれて輪郭が明瞭になる。


高層建築。


超高層建築。


巨大な塔。


広大な公園。


何層にも分かれた道路網。


巨大な鉄道駅。


そして。


都市の中心にそびえる、巨大な政府地区。


「……これが」


エドモンドは立ち上がった。


「ノヴァ・キャピタル……」


フォスターが頷く。


「アストリア連邦共和国の首都です」


人口、一千八百万人。


政治、金融、研究、文化。


そして国家行政の中心。


地球でも最大級の都市の一つ。


ローゼリア王国の王都アルフィリアとは、比較すること自体が無意味な規模だった。


「……セント・アイリス以上だ」


セシリアが呟いた。


「当然です」


フォスターが笑う。


「こちらが首都ですから」


エドモンドは、しばらく何も言えなかった。


◇◇◇


午後四時十分。


ノヴァ・キャピタル中央駅。


列車が停車する。


扉が開いた。


その瞬間。


「……」


ローゼリア使節団は、また足を止めた。


駅だけで一つの都市のようだった。


数十のホーム。


巨大な吹き抜け。


無数の人々。


電子表示板。


店舗。


案内用の自律端末。


警備用の小型無人機まで飛行している。


「伯爵閣下」


フォスターが声をかけた。


「お車を用意しています」


「……分かりました」


エドモンドは、もう驚くことを諦めたようだった。


◇◇◇


一行を乗せた車列が、市街地を進む。


高層ビル群を抜け。


巨大な公園を横切り。


そして。


政府地区へ入った。


遠方に、巨大な建物が見える。


白を基調とした堂々たる建築。


だが、王宮のような装飾過多ではない。


幾何学的で、洗練され、威厳がある。


「……あれが?」


「連邦大統領府です」


フォスターが答えた。


エドモンドは息を整えた。


この先にいるのは、四億八千万の国民を代表する国家元首。


アストリア連邦共和国大統領。


アレクサンダー・グラント。


ローゼリア王国の運命を左右する可能性のある人物だった。


◇◇◇


午後五時。


連邦大統領府。


迎賓会議室。


「ローゼリア王国外交使節団代表、エドモンド・フォン・ラウゼン伯爵閣下」


名前を呼ばれ。


エドモンドは室内へ入った。


その正面に、一人の男が立っている。


アレクサンダー・グラント。


映像で見るより、落ち着いた印象だった。


王冠もない。


豪華なマントもない。


だが。


室内にいる誰よりも、その人物が中心だと分かる。


グラントが一歩前へ出た。


「遠路、ようこそお越しくださいました」


通訳を介して、言葉が伝わる。


エドモンドは深く頭を下げた。


「アストリア連邦共和国大統領閣下にお目にかかれましたこと、光栄に存じます」


「どうぞ、楽になさってください」


握手。


短い挨拶を交わし、双方が席についた。


大統領の隣には国務長官キャサリン・ウォーカー。


国防長官リチャード・ハリス。


国家安全保障担当補佐官ロバート・ヘイズ。


さらに複数の高官。


ローゼリア側から見れば、アストリアの最高首脳部が並んでいる。


「まず」


グラントが口を開いた。


「我が国へ友好の意思を示していただいたことに感謝します」


エドモンドは頷いた。


「我がローゼリア王国も、アストリア連邦共和国との友好を強く望んでおります」


「それは何よりです」


「我が国王アルフレッド三世からも、正式な親書を預かっております」


親書が差し出される。


通訳官と専門官が受け取り、内容を確認する。


グラントは静かに目を通した。


そこには。


友好。


通商。


外交関係の樹立。


そして。


ガルディア王国による軍事的圧力への懸念。


それらが記されていた。


「……なるほど」


大統領は親書を閉じた。


「率直に申し上げます」


エドモンドの表情が引き締まる。


「我が国はローゼリア王国との正式な外交関係樹立に前向きです」


「……おお」


「まずは大使級の外交関係を結び、通商や人的交流について協議したいと考えています」


エドモンドは安堵した。


「ありがたきお言葉」


「ただし」


グラントは続けた。


「軍事的な問題については、慎重に判断する必要があります」


「承知しております」


「我々は、この世界へ来てからまだ数日しか経っていません」


「はい」


「特定の国家の主張だけを基に、他国を敵と認定することはできません」


エドモンドは深く頷いた。


「もっともでございます」


「ですが」


グラントの声が少し低くなった。


「侵略そのものを容認するつもりもありません」


エドモンドが顔を上げた。


「我が国は現在、ガルディア王国軍の動向を独自に確認しています」


「……独自に?」


「はい」


国防長官ハリスが端末を操作した。


スクリーンに映像が表示された。


上空から撮影された軍勢。


大量の兵士。


馬。


物資集積所。


陣地。


そして。


街道を移動する部隊。


エドモンドは目を見開いた。


「これは……」


「ガルディア王国国境付近です」


ハリスが説明した。


「現在確認できている兵力は約四万二千。後方部隊を含めれば五万人規模に達すると予測しています」


エドモンドはスクリーンを凝視した。


「……なぜ」


声が震える。


「なぜ、これほど詳しく……」


「上空から観測しています」


「偵察航空機ですか?」


「それもあります」


ハリスは答えた。


「今回は主に、軌道上の偵察衛星です」


「きどう……?」


「宇宙から地上を観測する装置です」


エドモンドは固まった。


「……宇宙?」


「はい」


一瞬。


意味を理解できなかった。


そして。


理解した。


「空より……上?」


「そうです」


「……そこに、人の作ったものが?」


「多数あります」


エドモンドは完全に沈黙した。


この国は海を支配するだけではない。


空を支配するだけでもない。


さらにその上。


天空の彼方にまで、人工物を置いている。


「……では」


エドモンドは恐る恐る尋ねた。


「ガルディア王国軍の動きは、すべて見えているのですか?」


ハリスは答えた。


「すべて、とまでは言いません」


少し間を置き。


「ですが、大規模な軍事行動を隠すことは難しいでしょう」


その言葉を聞いて。


エドモンドは、初めて本当の意味で理解した。


アストリア連邦共和国という国家の恐ろしさを。


強い兵器を持っているのではない。


戦争の仕組みそのものが違うのだ。


◇◇◇


同時刻。


連邦国防総省。


情報分析室。


「更新データが入った」


分析官が声を上げた。


巨大スクリーンに、新たな衛星画像が表示される。


「ガルディア側の補給部隊が前進開始」


「規模は?」


「輸送車両……いや、荷車約千二百。護衛兵約三千」


「橋梁部隊らしき集団も移動中」


「攻城兵器は?」


「確認。大型投石機、魔導砲と思われる装備多数」


主任分析官が眉をひそめた。


「侵攻準備は最終段階だな」


「同感です」


別の分析官が答える。


その時。


新たな情報が届いた。


「ガルディア王国軍第一軍、国境から約二十キロ地点へ移動開始」


室内の空気が変わった。


「開戦は?」


「早ければ四十八時間以内」


主任分析官は端末を操作した。


「国防長官へ上げろ」


「了解」


◇◇◇


大統領府。


会談は続いていた。


「大統領閣下」


エドモンドが口を開く。


「我が国が危険な状況にあることは、ご理解いただけたかと存じます」


「ええ」


グラントは頷いた。


「もし、ガルディアが侵攻を開始した場合……」


エドモンドは一度、言葉を止めた。


「貴国に軍事介入を願うことは可能でしょうか」


会議室が静かになった。


エドモンド自身、それが非常に重い要請だと理解している。


出会って数日の国家へ。


自国の戦争への介入を求める。


本来ならば、あまりにも性急だ。


だが。


ローゼリアには時間がなかった。


グラントはすぐには答えなかった。


「伯爵」


「はい」


「我が国は、戦争を望んでいません」


「承知しております」


「そして、可能であれば外交的に解決したいと考えています」


「はい」


「ですが」


グラントは静かに続けた。


「ガルディア王国が一方的な侵略を開始し、多数の民間人が危険にさらされる場合」


エドモンドの表情が変わる。


「我が国としても、何らかの対応を検討することになるでしょう」


「……!」


「ただし、具体的な内容については、現時点ではお約束できません」


エドモンドは深く頭を下げた。


「それで十分でございます」


本当に、それで十分だった。


少なくとも。


アストリアはローゼリアを完全に見捨てるつもりではない。


その可能性があるだけでも大きい。


◇◇◇


その時。


国防長官ハリスの端末に、緊急通知が届いた。


彼は画面を確認し、わずかに表情を変えた。


グラントが気づく。


「何だ?」


「大統領」


ハリスは立ち上がった。


「ガルディア王国軍に大規模な動きが確認されました」


エドモンドの顔色が変わる。


「……何ですと?」


ハリスはスクリーンを切り替えた。


衛星画像。


そこには。


大量の兵士が隊列を組み。


ローゼリア王国との国境へ向かって進軍している様子が映っていた。


「第一軍、推定三万」


さらに画面が切り替わる。


「第二軍、推定二万」


別の部隊。


「計五万前後」


ハリスは淡々と報告した。


「さらに兵站部隊、攻城部隊も前進を開始しました」


エドモンドは椅子から立ち上がった。


「……侵攻が」


「まだ国境は越えていません」


ハリスは答えた。


「ですが、この配置から見て、単なる演習とは考えにくい」


グラントの表情が険しくなる。


「国務長官」


「はい」


「ガルディア王国と直接連絡する手段は?」


「まだありません。ですがローゼリア経由で使節を送ることは可能です」


「準備しろ」


「すぐに」


エドモンドが驚いた。


「大統領閣下……?」


グラントは彼を見る。


「まずは警告します」


「警告?」


「戦争を始める前に、話し合う機会を与える」


そして。


大統領は静かに続けた。


「それでも侵略するというのであれば」


一瞬。


会議室が静まり返った。


「その時は、その時です」


◇◇◇


同日、夜。


ノヴァ・キャピタル。


ローゼリア使節団宿泊施設。


エドモンドは、一人で窓際に立っていた。


眼下には。


どこまでも続く光の海。


道路。


列車。


空を飛ぶ航空機。


遠方にそびえる超高層ビル。


そして。


そのさらに上。


夜空を横切る一筋の光。


「……あれは?」


背後にいたセシリアが尋ねる。


アストリア側の案内官が空を見た。


「あれですか?」


「はい」


「あれは軌道ステーションです。今ちょうど、この地域の上空を通過しているんでしょう」


セシリアは言葉を失った。


エドモンドは静かに空を見上げた。


軌道ステーション。


つまり。


人間が作った施設が、空の遥か彼方に存在する。


「……我々は」


エドモンドが呟いた。


「とんでもない国と友好を結ぼうとしているのだな」


セシリアが静かに頷いた。


「ええ」


少し間を置き。


彼女は尋ねた。


「伯爵閣下」


「何だ?」


「もし、ガルディアが本当に侵攻してきたら……」


エドモンドは黙っていた。


やがて。


ゆっくりと答えた。


「ガルディア王国は」


窓の外を見る。


「まだ、自分たちが何を相手にしようとしているのか理解していない」


◇◇◇


同時刻。


ガルディア王国。


ローゼリア国境東部。


ガルディア王国軍第一軍。


五万の軍勢のうち、主力となる三万が巨大な野営地を形成していた。


無数の天幕。


松明。


馬。


荷車。


魔導砲。


そして。


数十騎の飛竜。


陣地中央。


巨大な指揮天幕では、第一軍総司令官バルガス将軍が地図を広げていた。


「明朝、国境を越える」


周囲の将軍たちが頷く。


「第一軍は中央街道より進軍」


「第二軍は北方から侵入」


「三日以内に辺境都市を攻略し、一週間以内に王都への道を開く」


「はっ!」


バルガスは満足そうに頷いた。


「ローゼリアなど敵ではない」


一人の若い士官が、おずおずと口を開いた。


「閣下」


「何だ?」


「例の……アストリアという国家についてですが」


バルガスは眉をひそめた。


「またその話か」


「はい。偵察員から、ローゼリア使節団がその国を訪問したとの情報が……」


「だから何だ?」


「未知の兵器を多数保有しているという噂もございます」


バルガスは鼻で笑った。


「噂だ」


「しかし――」


「鋼鉄の巨人が一万体?」


将軍は笑った。


「そんな馬鹿げた話を本気で信じているのか?」


周囲から笑い声が漏れた。


「列強国ですら、そのような数の魔導巨兵を保有しておらん」


「ですが……」


「ローゼリア側の虚報だ」


バルガスは地図を叩いた。


「戦争に勝てぬから、恐ろしい同盟国がいると吹聴しているだけだ」


誰も、それ以上反論しなかった。


「予定どおり進軍する」


バルガスは宣言した。


「明日には、ローゼリア領へ入る」


その時。


誰も知らなかった。


遥か上空。


雲よりも高く。


肉眼では到底見えない宇宙空間から。


一基のアストリア偵察衛星が。


彼らの陣地を。


静かに。


完全に捉えていた。


野営地の位置。


兵力。


補給路。


指揮所。


飛竜の待機場所。


魔導砲の配置。


そのすべてが。


ほぼリアルタイムで。


アストリア連邦軍の指揮所へ送られていた。


ガルディア軍は。


戦争が始まる前から。


既に。


丸裸だった。


---


**第一章 第六話「超大国の首都」 完**

**次回 第七話「最後通告」**


アストリアはガルディア王国へ正式な外交使節を送り、ローゼリア国境からの撤兵を要求する。


だが、自国を地域最強と信じるガルディア首脳部は、その要求を軽視。


そしてついに――五万の軍勢がローゼリア国境を越える。


それはアストリア連邦共和国にとって、異世界転移後初となる本格的な軍事危機。


しかし、ローゼリアを震撼させる五万の大軍に対し、アストリア軍が最初に投入を検討した戦力は――あまりにも少なかった。

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