3話【三度目の電話】
――2026年7月7日(青年・少女)
二人の時間が初めて重なる。
病院の外出許可。
少女は願いを込めて電話をする。
「今、病院の前に居ます」
『もうすぐ着きますよ』
少し息の上がった青年の声。
初めて会う二人。
初めて見る顔。
電話ではいろいろな話をした相手なのに、緊張する。
「初めまして」
声が重なる。
二人は笑う。
お互いの声を聞き、電話の相手だと実感する。
「……奇跡……」
青年の声が漏れる。
感極まりそうになるのをぐっと抑える。
「えっ?」
聞き返す少女。
「何でもないです。行きましょうか」
「はい」
午前は水族館。
迷子にならないように手を握った。
昼食。
午後は七夕祭り。
屋台。
神社で短冊を書く。
少女は
【来年も生きていたい】
と願いを書く。
青年は
【来年も笑っていてほしい】
と願いを書く。
短冊を結ぶ二人。
ふと、目が合う。
赤らむ顔。
夕日に伸びた影が重なる。
夜の花火。
目を輝かせる少女。
その横顔を目に焼き付ける青年。
――病院の入口。
両親が出迎えていた。
「今日は楽しかったです」
満面の笑みの少女。
「僕も……です」
青年は勘づいている。
もう会えないことを。
……二人の時間軸が、今度は離れていく。
次の彼女からの電話は――
彼女が2027年で……
僕は2028年……なんだ……
もう……会えない。
だが、口には出さない。
笑顔を作る青年。
最後に、一つだけお願いをした。
「一緒に、写真撮りませんか?」
少女は嬉しそうに頷いた。
二人は寄り添い、七夕飾りを背に笑った。
カシャ。
シャッター音とフラッシュの光が二人を優しく包んだ。
去り際――
青年は肩掛け鞄を少女の両親に渡す。
「治療費に使ってください」
「……こんな大金」
中身を見て両親と少女は驚く。
青年は二年間。
少女から聞いた未来をもとに、株や為替への投資で資金を増やしていた。
全ては――
この日のために。
「僕は……彼女に救われました」
「どうか、彼女の治療費に使ってください」
震える声で尋ねる父親。
「……本当に、良いんですか?」
「彼女を治してください」
両親に頭を下げる青年。
「ありがとうございます」
口元を押さえる母親。
少女は涙を流す。
「ありがとう」
見つめ合う二人。
「君に救ってもらった命だから」
青年は照れ臭そうに頭を掻いた。
……これで十分だ。
電話ができれば。
声が聞ければ。
それで良い――
別れる二人。
二人の時間軸は離れていく。
ダッ!
駆け出す少女。
「待って!」
青年が振り返る。
そっと、涙が伝う頬に口づけをした。
「何で……泣いてるの……?」
「……何でもないよ」
「またね」
照れながら、小さく手を振る少女。
青年は言葉に詰まる。
無理やり笑顔を作る。
せめて、小さく手を振り返した。




