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【8話】おむすびをきみに 3


「町外れにある古い工場にユウマが出た」


 エンリルから電話で知らせを受けたアルルは現場に急行。


 途中でエンリルと合流した。


「カラスの報告によると、ユウマはスケボーに乗っているらしい。おそらくスケボー選手の夢から生まれたんだろうね」


「どの夢から生まれたって関係ない。わたしたちの使命は、人を襲う前にユウマを狩ること。夢の種類は関係ないわ」


「そうだね」


 工場に着くと、あたりにだれもいないことを確認した。


「だいじょうぶ、だれもいないわ」


「わかった。〈フラスコ〉はぼくが張る」


 パチン。


 エンリルが指を鳴らして〈フラスコ〉を張った。


 たとえまわりに人間がいなくても、ユウマを逃がさないために〈フラスコ〉は張らなければならない。


 割れた窓から工場の中に入ると、ユウマが宝石でできたスケボーに乗って走りまわっていた。


「出会ってすぐだけど、さよなら」


 アルルはユウマに日傘を向けると、傘の先端から金色の光弾を発射した。


 だがユウマはそれを回避。


 スケボーに乗ったまま、すごいスピードでこちらに突進してきた。


(速い!)


 たおれるように横へ跳ぶ。


 そのすぐそばをユウマが猛スピードで駆けていった。


 跳ぶのがあと1秒でも遅れていたら、ぶつかった衝撃でアルルのからだが吹き飛ばされていただろう。


「アルル、力を合わせるよ」


「いわれなくても」


 うす暗い工場が銀色の光に照らされた。


 エンリルが銀色のライオンに変身したのだ。


 アルルを背中に乗せると、エンリルはユウマめがけて走りだした。


 ユウマがあやつるスケボーはそうとう速いが、ライオンのエンリルはそれ以上に速い。


 あっというまに追いつくと、


「グルオォォ!」


 するどいツメで攻撃。


 肩を叩かれたユウマがスケボーから落ちて、床を転げまわった。


「アルル、いまだ!」


 エンリルから飛びおりると、アルルは日傘を光の剣に変えて、ユウマの胸に突き刺した。


「悪夢はおわりよ。今度こそ、さよなら」


 仰(あお)向(む)けの状態で、ユウマがアルルに腕をのばした。


 なにかを求め、そしてつたえるように震える腕。


 けど、それはすぐに本物の泥に変わり、ドロドロと溶けていった。




 シュウゥゥ シュウゥゥ




 溶けた泥が音を立てて蒸発している。


 泥が完全に蒸発するまで、アルルはその場を動かなかった。


「お疲れさま」


 人のすがたにもどったエンリルがアルルの肩に手を置いた。


「中学生ぐらいの女の子だったね」


「ええ」


「『黄金(おうごん)の意志(いし)団(だん)』が送ってきた代表選手や強化選手のリストには載(の)っていなかった。たぶん、スケボーをはじめてまだ1~2年ぐらいの子なんだよ」


 泥の跡(あと)を見ながら、エンリルがいった。


 人間には見えないが、ユウマには顔がある。


 ユウマを生みだした人物の顔だ。


 その人がどんなに正義感にあふれ、またどんなにやさしい心の持ち主だったとしても、それらがユウマに受け継がれることはない。


 ユウマは本能のままに人を襲う。


 だからこそ、たおさなければならないのだ。


 たとえトドメの瞬間に、ユウマが人間の顔で苦しんでも……。


「1~2年でユウマがあれだけ強くなるなら、たいした努力家ね」


「うん。きっと本気でプロをめざしてるんだよ」


 ユウマのエネルギー源は人間の努力。


 自分を生みだした人間が夢を叶えるためにがんばるほど、その努力がエネルギーとなって、ユウマは強くなるのだ。


「なにはともあれ、狩りはおわった。アルル、お疲れさま」


 エンリルがねぎらいの言葉をかけた。


「ぼくは町のパトロールを続けるけど、アルルはどうする?」


「わたしは『ハーヴェ』にもどるわ。チカに、ちゃんこ鍋の感想を聞きたいしね」


「へえ、ちゃんこ鍋か。いいね。ぼくもあとで食べようかな」


「鍋は二人前よ。あなたの分の夕食はないわ」


「へ?」


 エンリルが目を丸くして、すっとんきょうな声をあげた。


「じゃ、じゃあ夕食がないなら、代わりにディナーを――」


「いい方を変えてもダメ。夕食は自分でつくるか、お惣菜(そうざい)を買いなさい」


「そんな……」


「いいことを教えてあげる。スーパー・トクヤスは8時になると、お惣菜(そうざい)すべてに半額のシールを貼るの。それを狙っていくといいわ」


 アルルはドレスについたほこりを払うと、


「それじゃあ、パトロールがんばってね」


 イジワルな笑みをエンリルに送るのだった。



(つづく)



更新は毎日おこなう予定です。

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