おむすびをきみに 3
「町外れにある古い工場にユウマが出た」
エンリルから電話で知らせを受けたアルルは現場に急行。途中でエンリルと合流した。
「カラスの報告によると、ユウマはスケボーに乗っているらしい。おそらくスケボー選手の夢から生まれたんだろうね」
「どの夢から生まれたって関係ない。わたしたちの使命は、人を襲う前にユウマを狩ること。夢の種類は関係ないわ」
「そうだね」
工場に着くと、あたりにだれもいないことを確認した。
「だいじょうぶ、だれもいないわ」
「わかった。〈フラスコ〉はぼくが張る」
パチン。
エンリルが指を鳴らして〈フラスコ〉を張った。
たとえまわりに人間がいなくても、ユウマを逃がさないために〈フラスコ〉は張らなければならない。
割れた窓から工場の中に入ると、ユウマが宝石でできたスケボーに乗って走りまわっていた。
「出会ってすぐだけど……さよなら」
アルルはユウマに日傘を向けると、傘の先端から金色の光弾を発射した。
だがユウマはそれを回避。
スケボーに乗ったまま、すごいスピードでこちらに突進してきた。
(速い!)
たおれるように横へ跳ぶ。
そのすぐそばをユウマが猛スピードで駆けていった。
跳ぶのがあと1秒でも遅れていたら、ぶつかった衝撃でアルルのからだが吹き飛ばされていただろう。
「アルル、力を合わせるよ」
「いわれなくても」
うす暗い工場が銀色の光に照らされた。エンリルが銀色のライオンに変身したのだ。
アルルを背中に乗せると、エンリルはユウマめがけて走りだした。
ユウマがあやつるスケボーはそうとう速いが、ライオンのエンリルはそれ以上に速い。
あっというまに追いつくと、
「グルオォォ!」
するどいツメで攻撃。
肩を叩かれたユウマがスケボーから落ちて、床を転げまわった。
「アルル、いまだ!」
エンリルから飛びおりると、アルルは日傘を光の剣に変えて、ユウマの胸に突き刺した。
「悪夢はおわりよ。今度こそ、さよなら」
仰向けの状態で、ユウマがアルルに腕をのばした。
なにかを求め、そしてつたえるように震える腕。
けど、それはすぐに本物の泥に変わり、ドロドロと溶けていった。
シュウゥゥ シュウゥゥ
溶けた泥が音を立てて蒸発している。
泥が完全に蒸発するまで、アルルはその場を動かなかった。
「お疲れさま」
人のすがたにもどったエンリルがアルルの肩に手を置いた。
「中学生ぐらいの女の子だったね」
「ええ」
「『黄金の意志団』が送ってきた代表選手や強化選手のリストには載っていなかった。たぶん、スケボーをはじめてまだ1~2年ぐらいの子なんだよ」
泥の跡を見ながら、エンリルがいった。
人間には見えないが、ユウマには顔がある。ユウマを生みだした人物の顔だ。
その人がどんなに正義感にあふれ、またどんなにやさしい心の持ち主だったとしても、それらがユウマに受け継がれることはない。
ユウマは本能のままに人を襲う。
だからこそ、たおさなければならないのだ。
たとえトドメの瞬間に、ユウマが人間の顔で苦しんでも……。
「1~2年でユウマがあれだけ強くなるなら、たいした努力家ね」
「うん。きっと本気でプロをめざしてるんだよ」
ユウマのエネルギー源は人間の努力。
自分を生みだした人間が夢を叶えるために努力するほど、その努力がエネルギーとなって、ユウマは強くなるのだ。
「なにはともあれ、狩りはおわった。アルル、お疲れさま」
エンリルがねぎらいの言葉をかけた。
「ぼくは町のパトロールを続けるけど、アルルはどうする?」
「わたしは『ハーヴェ』にもどるわ。チカに、ちゃんこ鍋の感想を聞きたいしね」
「へえ、ちゃんこ鍋か。いいね。ぼくもあとで食べようかな」
「鍋は二人前よ。あなたの分の夕食はないわ」
「へ?」
エンリルが目を丸くして、すっとんきょうな声をあげた。
「じゃ、じゃあ夕食がないなら、代わりにディナーを――」
「いい方を変えてもダメ。夕食は自分でつくるか、お惣菜を買いなさい」
「そんな……」
「いいことを教えてあげる。スーパー・トクヤスは8時になると、お惣菜すべてに半額のシールを貼るの。それを狙っていくといいわ」
アルルはドレスについたほこりを払うと、
「それじゃあ、パトロールがんばってね」
イジワルな笑みをエンリルに送るのだった。
(つづく)
更新は毎日おこなう予定です。




