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【2話】あやしい隣人 2


 うれしくない手土産(てみやげ)をもらってから1時間後——。


「ただいま~」


 チカがリビングで〈将来の夢〉の作文を書いていると、姉のミホが帰ってきた。


 帰ってくるなり、ミホ姉はソファにごろり。


 仰(あお)向(む)けになって、スマホをいじりはじめた。


「ねえ、チカ。となりの部屋に前(まえ)田(だ)ってプレートがついてたけど、もしかして、あたらしい入居者が引っ越してきたの」


「うん。そうみたい」


「会った?」


「会ったよ」


「どんな人だった?」


 見た目と名前のミスマッチ感とか、独特すぎる手(て)土産(みやげ)のセンスとか、話そうと思えばいくらでも話せそうだけど、


「うーん、変わった人たちかな」


 メンドーなので、その一言でかたづけることにした。


「なにそれ。あ、そうそう晩ごはん、ちゃんと買ってあるからね」


 床に置いたレジ袋から、ミホ姉がオムライスをふたつ取りだした。


 両親とも会社につとめている土(つち)屋(や)家は、家族そろって食事をとる機会があまりない。


 たまにパパかママのどちらかが早く帰ってきて料理をつくることもあるけど、だいたいはチカかミホ姉が、学校帰りにお弁当を買って、それを夕食にするのだ。


「あのさ、お姉ちゃん」


「なに? デザートなら冷蔵庫にアイスがあるでしょ」


「ちがうよ。あのさ、お姉ちゃんって夢ある?」


「あるよ」


「へぇ、あるんだ」


「あるに決まってんじゃん。わたしの夢はハクトくんと結婚すること!」


 ミホ姉がスマホをチカに見せた。


 待ち受け画面の男の子は黒岩(くろいわ)ハクト。


 ミホ姉が推(お)しているアイドルだ。


「あーあ。訊(き)いた、わたしがバカだった」


「あ、もしかして、それって〈将来の夢〉?」


 ミホ姉はチカのそばへ行くと、原稿用紙をのぞきこんだ。


 高校1年生の彼女も、4年前まではチカとおなじ、のぞみ第2小に通っていたのだ。


「なつかしい~。わたし、なりたいものなんてなかったけど、そのとき、たまたまケーキ食べてて、パティシエール(お菓子職人)になりたいって書いたんだっけ」


「いや、さすがにそれはテキトーすぎでしょ」


「いいのいいの。だいたい夢なんて、ぜったい叶えなきゃいけないものじゃないでしょ」


 ミホ姉は原稿用紙を指でつまんで、パタパタさせた。


「サッカー選手をめざしてた子が、銀行員になっても捕(つか)まるわけじゃないんだしさ。夢なんてテキトーに調べて、テキトーに書いちゃえばいいんだって。ま、ハクトくんとの結婚はガチで叶えたいけどね」


 そういって、ミホ姉はオムライスを電子レンジに入れた。


「ほら、ごはん食べるんだから、テーブルの上かたづけてよ」


「はーい」


「てか、あんた、タブレット使わないの? 図鑑なんか見るより、学校が貸してくれた学習用のタブレットで調べたほうがラクできるじゃん」


「ちょっと前に、家に持って帰ってた学習用のタブレットを空き巣に盗まれた子がいてね。それで、いまはタブレットを学校の外に持ちだしちゃいけないことになってるの」


「ふぅーん。だからそんな古い方法で調べてるんだ」


「そゆこと」


 そのあとふたりで温まったオムライスを食べた。


「ん~、さいこぅ~」


 バターをたっぷり使ったふわふわ玉子に、具材ゴロゴロの大盛りチキンライス。


 それらを口に入れるたびに、心が「おいしい」というしあわせで満たされてゆく。


 そのしあわせを噛みしめながら、チカは、


(やっぱり、わたし、料理はつくるより食べるほうが好きだな)


 あらためて、そう思うのだった。



(つづく)



更新は毎日おこなう予定です。



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