↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/18

【1話】あやしい隣人 1

この作品は、2024年に『夢の狩人』というタイトルで書いたものに加筆・編集をし、タイトルを一部変更したものです。


また作者の別の作品『ゴクドウの花子さん(ギャル)』のプロトタイプとなった作品のひとつでもあります。


連載期間は約3週間(予定)。最後まで読んでいただければ、幸(さいわ)いです。


【6月5日追記】

行間を空け、文章の体裁を整えました。




「はぁ……」


 図書室の前にくると、自然とためいきが出た。


(夢って、持たなくちゃいけないものなのかな?)


 空気を引きずるみたいに、土(つち)屋(や)チカは重い足取りで図書室に入った。


(だいたい、きょうの晩ごはんだってわかんないのに、将来のことなんて、わかるわけないじゃん)


 チカの通うのぞみ第2小学校は、毎年1月になると、6年生が自分の夢を発表する〈将来の夢〉という超メンドーな行事がある。


 夢のないチカが放課後の図書室をおとずれたのは、どんな職業があるのかを本で調べるためだったのだ。


 職業コーナーの本だなには『こども仕事シリーズ』という分厚い図鑑が、特大ボリュームのサンドウィッチみたいに、ぎっしりと詰まっている。


 さっそくチカは図鑑のタイトルを目で追ってみた。




【アイドル】

(わたし、歌も踊りもヘタだし、アイドルはムリかな)


【医師】

(う〜ん、カッコいいけど、むずかしい勉強とかしたくないしなぁ)


【植木職人】

(植物のこととかわかんないし、これは全力スルー)




 こんな調子で、やりたいことは見つからなかった。


(あーあ、いろいろ考えたら、おなか空いちゃった)


 おなかに手を当てると、グウウゥと助けを求めるみたいな音が鳴った。


 そのとき、


「よう、土(つち)屋(や)」


 だれかが、うしろからチカに声をかけた。


「うわぁっ!」


 あわててチカはうしろをふりかえった。


 鷹(たか)のように力強い目と、天にのぼる竜のように美しいかたちのまゆ。


 そして大人っぽい落ち着いた雰囲気。


 声をかけたのはおなじクラスの美(み)空(そら)ショウだった。


 ショウがのぞみ第2小に転校してきたのは去年の4月。


 教室に入ってきた彼を一(ひと)目(め)みたときから、ショウはずっとチカのあこがれの王子さまだった。まさか、その王子さまにおなかの音を聞かれたんじゃ……。


「い、いまの聞いた?」


「聞いたって、なにを?」


 ショウがけげんな顔をした。


 セーフ! 


 どうやら、おなかの音は聞かれていないようだ。


「もしかして〈将来の夢〉のこと、調べにきたの?」


「う、うん。わたし、スマホ持ってないから」


「おれもだよ。こういうとき、スマホないやつって、つらいよな」


 ショウが肩をすくめて、苦笑いをした。


「土(つち)屋(や)は将来、どんな職業に就(つ)きたいの?」


「え? ええと、わたしは――」


 チラリと本だなを見ると、


「料理人かな」


 ぐうぜん目にとまった【料理人】の図鑑を抜き取った。


 チカは料理が好きだ。


 ただし、好きなのは「食べる」ほうであって「つくる」ほうではない。


 だから、図鑑の表紙を見ている今この瞬間も、料理人へのあこがれは湧(わ)いてこない。


「料理人か。へえ、カッコいいじゃん」


 ショウにほめられると、首筋のあたりがくすぐったくなった。


「あ、あのさ、ショウくんの夢、よかったら、わたしに教えてくれないかな?」


「おれの夢?」


「う、うん。ショウくん、勉強もスポーツも得意でしょ。なんでもできる人って、いったいどんな夢を持つのかなって」


 1秒でも長くショウくんと話していたい。


 だから勇気を出して訊(き)いてみた。


「…………」


「ショウくん?」


「ん、なんでもない。ちょっと考えごとしてただけだ」


 ショウが本だなに手をのばした。


「おれの夢は――」


 とある図鑑に触れる直前、ショウの指先が止まった。


「これだよ」


 すばやく手を右へ動かして、ショウは【薬剤師】の図鑑を抜き取った。


「おれ、将来は薬剤師になろうと思ってるんだ」


 ショウは図鑑の表紙をチカに見せると、


「じゃ、また明日な」


 その場から逃げるようにして、カウンターへ向かった。


(ショウくん、ほんとに薬剤師になりたいのかな?)


 薬剤師の図鑑を抜き取る前、ショウはべつの図鑑を取ろうとしていたようにチカには見えた。


 チカは、もう一度本だなに目をやった。


 抜き取られた薬剤師のとなりにある図鑑のタイトル。


 それは【野球選手】だった。



 ★  ★  ★  ★  ★



 そのあとすぐにチカは学校を出た。


 チカは『ハーヴェ』というマンションの2階に住んでいる。


 階段をあがって廊下に出ると、チカの住む203号室の前にふたりの外国人が立っていた。


 顔立ちが日本人とちがうので、ちゃんとした年齢はわからないけど、ひとりは16歳ぐらいの銀髪のお兄さん。


 もうひとりはチカとおなじ12歳ぐらいの金髪の女の子だ。


 ふたりを見た瞬間、チカは打たれたクギみたいにその場から動けなくなった。


 金と銀というド派手な色の髪もそうだが、それ以上に、ふたりの服装のインパクトが強すぎて、脚(あし)が動かなくなってしまったのだ。


 お兄さんが着ているのはパリッとした黒いタキシード。


 女の子のほうは、フリルつきのヘッドドレスと、これまたフリルがたっぷりついた黒スカートのゴスロリドレス。


 お嬢さまとその執(しつ)事(じ)がアニメの世界から飛び出してきたみたいだ。


「もしかして、土(つち)屋(や)さんですか?」


 チカに気づいて、銀髪(ぎんぱつ)執(しつ)事(じ)がこちらにやってきた。


「そ、そうですけど……」


 防犯ブザーを強く握った。


 近くで見るとアイドル顔負けのイケメンだけど、油断はできない。


「わ、わたしになにか用ですか? うち、セールスはおことわりですよ」


「そんなにおびえなくても、だいじょうぶ。ぼくの名前は前(まえ)田(だ)太(た)郎(ろう)。きょう、202号室に引っ越してきた者です」


 見た目と名前にギャップのありすぎる太郎が202号室を指さした。


 きのうまで空いていた部屋のドアに「前田」という新品のプレートがつけられている。


「お近づきのしるしにと思って持ってきました。手(て)土産(みやげ)のタラバガニです」


 そういって、太郎は持っていた箱をチカにわたした。


 縦20センチ、横30センチの箱には、




 海洋生物フィギュアシリーズ01 タラバガニ




 デカデカと商品名が書かれている。


 太郎がくれたのは本物ではなく、タラバガニのフィギュアだったのだ。


「ほら、花(はな)子(こ)も自己紹介を」


 太郎がゴスロリお嬢さまの背中に手をやった。


 これまた見た目と名前にギャップのありすぎる花子お嬢さまは、持っていた日傘を太郎にわたすと、


「前(まえ)田(だ)花(はな)子(こ)よ。よろしく」


 チカに手をさしだした。


 人の顔をジロジロ見るのはよくないことだ。


 けど人形みたいに整ったきれいな顔と、右が赤、左が青という左右で色のちがう目がめずらしくて、チカは花子の顔から目をそらすことができなかった。


「なに? わたしの顔になにかついてるの?」


「そういうわけじゃ……」


「じゃあ、どうして、そんなにジロジロ見てるの?」


「それは――」


 あなたの顔がすごくきれいだから。


 素直にそういおうとしたとき、どこからか飛んできたカラスが廊下の塀にとまった。


「カァカァカァ」


 こちらに顔を向けて鳴くカラスは、3人に何かをつたえているみたいだ。


「そうか。教えてくれてありがとう」


 太郎が礼をいうと、カラスはおじぎをして、飛び去った。


「カラスがおじぎした……」


「すみません、土(つち)屋(や)さん。はずせない用事ができたので失礼します。近いうちにお茶会でも開いて、ゆっくりとお話しましょう」


 太郎がニコッとほほえんだ。


「行くよ、花子」


「ええ」


 ふたりは足早に階段のほうへ走っていった。


「わたし、夢でも見てるのかな……」


 チカはゆっくりとほっぺたをつねってみた。


「ふふ(うう)……ひはひ(いたい)」


 銀髪のイケメン執事と金髪のゴスロリ美少女がとなりに引っ越してきたことも、まったくうれしくない手(て)土産(みやげ)をもらったことも、どうやら、すべて現実のことらしい。



(つづく)


更新は毎日19時におこなう予定です。


本日、大相撲11月場所(九州場所)が千秋楽を迎えました。


毎日、手に汗握る取組を見せてくれた力士の皆さま、おつかれさまでした!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。