俺はもう誰にも奪わせない
「あ、おはよう。鈴」
「......おはようございます......かけるくん......」
あれ?
鈴の口元がキラリと光った。
その正体は......
「鈴って八重歯だったんだ。可愛いな」
「っ!!」
あ、また顔を青くしている。
コンプレックスだったかな......まずい......
「ご、ごめん。そんなに気にしてると思わなくて......デリカシー無かったよな、ごめん」
「ち、違うんです......大丈夫ですから......」
本人は大丈夫と言っているが、八重歯を指摘されただけで顔面蒼白になる理由など、コンプレックスくらいのものだろう。
このまま関係がギクシャクしてしまうのは困るので、せめて何かお詫びしたい。
「そうは言っても、やっぱり今のは配慮が足りない発言だった。せめて、なにか鈴の為にさせてくれ」
「わ、私のためっ!? う~~~ん......」
そう言って、唇に人差し指を当てて考えこんでしまった。
なんと可愛い仕草だろうか。鈴の様な美少女がこれをやると、あざとさが消え、なんとも自然な仕草になる。
“俺殺しの鈴”の異名を授けたいくらいだ。
「あ、今度、で、ででで、で、デートとか行きたかったりしまして、いえ、ダメなら他にも沢山候補はあり____」
「よし。じゃ、いこう」
他ならぬ鈴の頼みだ。ダメな訳が無い。
デートか......人生初だな。どこに行けば良いんだろう。
東京ニャンキーランドとかで良いのかな?
ニャンキーランドならデート初心者でも楽しめそうだし、他にカップルも多いから参考にしやすいだろう。
ま、第一は鈴の意見だ。
「鈴は行きたい所とかあるの?」
「私は......その......にゃ、ニャンキーランド行ってみたい、です」
にゃ、と言うところで少し恥ずかしそうにする鈴を、動画に撮って永遠に保存しておきたかった......
取り敢えず、お互いの意思は確認できた。
いざ行かん! ニャンキーランドへ!
とはいえ、事前の準備無しにデートの成功はあり得ない。筈だ。
その場その場で最適解を選ぶイケメンは爆発すると良いと思う。割りと本気で。
ということで、入場チケットを購入しようと思う。それをしなければ何も始まらない。
「あ~......一ヶ月待ちか......鈴、どうする?」
「一ヶ......」
あまりの人気に鈴も崩れ落ちている。
「翔くん......やっぱり、近くの遊園地に行きましょう!」
「分かった。ニャンキーランドはまた今度な」
近くの遊園地と言うと......まるしかく園か。
そこまで大きくは無い。アトラクションも多くない。人気も高くない。
別な遊園地を探そうとしたのだが......
「翔くん......ここ、行きたいです。ダメですか?」
「......アトラクション少ないぞ? それでも良いなら......」
「私、落ち着いた所の方が良いです」
可愛く止められた。
気、遣われているのかな......
だって、落ち着いた所の方が良いなら遊園地なんて提案しないだろ?
まあ、ちゃんとした遊園地は今度また行こう。
後でニャンキーランドのチケットの予約もしておかないと。
それからの数日は、鈴とのデートへの興奮で落ち着く事ができないかと思った......が。
鈴へのいじめは日々激化していた。
さすがに先生に相談しようと言ったのだが、
「自分で解決出来なかったら相談します。私たちはもう自分で判断をする力を持っているのですから」
と断られてしまい、もう少し様子を見る事になった。
俺が側にいる限り、鈴は傷つけさせない。
その信念の下、時に鈴の筆箱に入っていた画鋲を撤去し、時にドアに挟まれかけた指を守り、時に頭の上から落ちてきた金属バットをキャッチした。
そして、その時がやって来た。
イライラした犯人が尻尾を出す瞬間が。
あれは本当に危なかった。
御城に捕まってしまい、鈴と分断された瞬間の犯行だった。
中木が、階段前で鈴の背中を押したのだ。
御城を押し退けた瞬間に起こった事なので、俺に見えたのは、鈴の体が浮き、鈴を押した形で止まっている中木の姿だったが、状況証拠は揃っていた。
打ち所が悪かったら最悪鈴は......
縁起でもない妄想を振り払う様に俺は力強く床を蹴り、一瞬で加速する。
回りの生徒が、当たっても居ないのに思わずたたらを踏む程の気迫だ。
その勢いのまま階段から飛び出し____捕まえた!!
しかし慣性は止まらない。鈴と体を反転させて、衝撃に備える。
「っっっっっ!!」
踊り場の壁にぶつかり、肺の中の空気が全て出ていく感覚があった。でも、鈴は無事だ。怖いのか目を閉じていたが、傷一つ無い。
良かった。間に合った......
安堵感を覚えると同時に、ふつふつと。グラグラと怒りが沸き上がってきた。
鈴をゆっくり床に降ろし、十一段の階段を二歩で駆け上がる。
「中木」
「ち、違うんス! 今のは本当に違____」
「一瞬でも疑って悪かった。今鈴を危険な目に晒したのは____
____お前だ大倉ァ!!」
体を反転させた瞬間、コンマ何秒だけ見えた。クラスでもいつもヘラヘラしているこいつが、中木の後ろでなにかを押した体制になって、明らかに俺を見てギラッと笑ったのが!!
「へぇ? なんのこと? 俺、なにかしちゃいました?」
「巫山戯るなよ......? シラを切るつもりなら相応の報いを受けさせるっ!!」
鈴を危険に陥れただけでは無く、無実の人に罪を着せる行為。決して許してはいけないッ!
「あれ、なんの報い? 俺とばっちりじゃん? な? 皆?」
「そうだぞ! 今明らかに中木さんが押してただろ!!」「変な言い掛かりつけんじゃねぇ!!」「そうだそうだ!」
「なら____関根に訊いてみようか」
お読み頂きありがとうございます。
あと3話ですね......




