作戦会議
約束の時刻に間に合うように、わたしたちは宿を出た。もちろん、合流したばかりの四人も一緒。屋敷の番兵さんは、いきなり今までの二倍以上のパーティ人数になったことに多少驚きつつも通してくれた。
そして、現在。とある広い一室にて、わたしたちは向かい合っていた。大きな円卓は、わたしたち七人に二人加えてもまだあまりある。
しかし、部屋の中は微妙な空気で満ちている。わたしたち側は少し緊張感を持って。相手方はどこか顔を険しくして。
それは決して、あの魔物に敗北しただけが理由ではなく――
「しかし、いや、勇者殿のお仲間ということであれば……」
「何言ってるのよ、ぶっちゃけ怪しすぎるでしょ、こいつ!」
隊長さんとマリカお嬢様の訝しがる視線が一斉にある方向に向いていた。その先にいるのは、甲冑だ。
それが、ガシャン、ガシャンと音を立てる。居心地が悪かったのか、少しみじろいだ。周りの様子はしっかりと見えているらしい。
世の中には、そうした魔物もいるというけれど。彼は決してそうではない。
「恥ずかしがり屋なんです。見逃してもらえませんか?」
「目の前にこうして正体を隠した人間がいる。その正体を暴かずにいられましょうか? いえできな――」
刹那、マリカさんは動き出した。素早い身のこなしで、鎧に近づく。その兜を剥がしにかかろうとしたが――
「申し訳ないですが、奇麗なお嬢さん。この私めに免じて、勘弁していただけないだろうか?」
それをさっとマラートさんが止めた。ずいぶんとかっこつけた言い回しだこと……思わず、魔王の姿が脳裏に浮かぶ。
ともかく。見た目はかっこいい部類に入るから、そこまで怖気るようなあれではないけど。実際、マリカさんも一瞬驚いた表情をすると、ちょっと冷めた感じに自分の席に戻っていく。
……はあ。危ないところだった。わたしは胸の中で安堵する。同時に、やはり無理があったのではないか、と無茶な提案をしたキャサリンちゃんの方を睨む。
鎧の中身はもちろん勇者様――アルスさんだ。姫の姿のままだと不都合が多い。ということで、この街にいる間は甲冑の中に身を宿すことになったわけ。
聞いたところによれば、一度は経験があるようだし。特に誰からも反対やその他も意見がなかったから、賛成したわけだけれど。
ちなみに、その鎧の出所は宿屋の一介の片隅に飾られていたものだ。主人に無理を言って、貸してもらった。――本当のところは賄賂ですけれど。全く王女のわたしがそんなことをしないとならないだなんて……軽く自己嫌悪に陥る。
「さて、話を元に戻しますが……」
「元に戻すったって、勇者様ですらどうにもできなかったのよ? これ以上、打つ手があるわけ?」
「お言葉ですけど、その打つ手がこれです!」
ちょっとイラっとするほど自信満々な表情で、ザラちゃんは鎧に人差し指をビシっと突きつけた。
一応それ、あなたのお兄さんだと思うのだけれど。外の様子も見えるようだから、そんな風にしていいのかしら。少し不安に思う。
「いや、普通に頼りにならなそうですけれど、あれ」
呆れたような言葉がお嬢様の口から出てきた。わずかに隊長さんも首を動かすのも見える。
二人の反応は、至極当然だと思う。中身を知ってるからいいものの、そうでなければ、あれが抱かせるのは不信感だけでしょうし。
甲冑はまたしても、少し動いた。そして、隣にいる元見張り兵――タークくんに頭部を近づける。
何かを話しているのか、しきりにターク君は頷いていた。その声は少しも漏れ聞こえてこない。そうなると、事情を知らない二人も同様だろう。
「『俺に任せろ』って言ってます」
しばらく間があって、ターク君が声を出した。通訳のつもりらしい。
「なに? その中身、男なんだ」
「はい。『剣を扱わせたら右に出る者はいない』とも言ってます」
がしゃがしゃ。隣で甲冑が音を立てる。どうやらでっち上げられたらしい。
お嬢様はまだ納得がいかないご様子。腕を組んでむすっとした表情のまま、きつくアルスさんを睨みつけている。
「そういうことならば、期待できますな。でも勇者様がいれば、わざわざこの方の力を借りなくとも……」
「それはそれ。これはこれです。自分はどちらかと言えば、魔法が得意なので」
「まあいいでしょう。では、また明日、ということで」
ふん、と一つ大きくマリカさんは鼻を鳴らした。そして、乱暴に立ち上がると、そのまま扉へと大股で歩いていく。
「もし失敗したら――なんて、言うのは野暮かしらね?」
扉を開けたところでくるりとこちらを振り返ると、彼女は煽るような薄ら笑いを浮かべた。バタン、わざとらしく大きな音を立ててお嬢様は屋敷の中へと消えて行った。
*
天候は曇り、波は少し高い。それでも船は軽快に進んでいた。リッチマンさんが所有する中で、二番目に大きなものだ。昨日使ったものについては、まだ修繕中とのこと。
わたしは甲板に出て、手すりに持たれていた。ううん、正直不安しかなかったり。
「浮かない顔してるね、お姫ちゃん」
「お姫ちゃん?」
「うん。だって、あなたこの国の王女様なんでしょう?」
そう言うと、キャサリンちゃんはにこっとほほ笑んだ。その顔はとても魔族には思えない。
ウンディーネだという彼女は、その種族通りとても水辺が好きらしい。こうして、今も輝かしい表情で眼下の海を眺めている。
甲板にいるのは二人。他のみんなは、それぞれ割り当てられている部屋で休んでいるはずだった。特に、アルスさんは相変わらずの甲冑姿でとてもしんどそうだった。
「別に勇者様の力を疑ってるわけじゃないんだけど。そううまくいくかなって」
「だいじょうぶ、だいじょうぶ。ああ見えて、アーくんかなり強いし。それに、マーくんもいるし」
「でもあのワニの魔物とても大きいのよ? 魔法だって効かないし」
「魔法が効かないのはやだなぁ~。アタシの出番はなさそ~」
「キャサリンちゃんも魔法使えるんだ?」
「あったりまえよ! 水魔法はなんでもいけるわよぉ~」
えへん、と声を出しながら彼女は大きく胸を張った。その感じに、ふとソフィアさんと似たものを感じる。ブーメランを手にしてからあの人、やけに自信満々なのよね……。
呆れ半分、微笑ましさ半分で、わたしは唇を緩めた。ちょっとは気持ちが軽くなる。
そのまましばらく色々な話を彼女としていた。うん、意外と話が合うのよね、これが。種族を超えて、友情が芽生えた。そんな気分だ。
やがて――
「あらら、また来たのね、アナタ! 嬉しいわぁ~」
大きな水飛沫を上げて、水中から昨日見たワニの魔物が飛び出してきた。
明日の更新はお休みです。次回投稿は明後日となります。




