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TSホムンクルスは安息が欲しい  作者: アセチルCoA
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頼るべき同僚

「ところでイヴちゃんってもう戦闘訓練積んでるんですか?魔眼封じをしているところからすると何らかの魔眼は持っているんだとは思うんですけど……」

 

 アルシャに日常風景……レイとの関係性から好きな食べ物、お風呂の入り方に至るまで個人的な情報を根掘り葉掘り質問され、いや質問責めという方が正しいが、精神的な疲労からぐんなりと脱力していた頃そんな質問が飛び出した。


「戦闘訓練……初歩の初歩だけ教えてもらってからは進歩がなくてまだ全然……」


「レイ先輩とは一月過ごしていたんだよね。いったいどこまで教えてもらったの?」


「指先から魔力の糸を出すところまで……確か念糸って言うんだっけ……?」


 レイをちらりと見て正しいか確認するとこくりと頷いたのでどうやら記憶は間違っていないようだ。自分の記憶が確かであることにほっと一息をつきつつアルシャに向き合う。



「なるほどねー。その念糸の使い方についてはまだ教えてもらってないんだ?」


「う、うん……そこで一回倒れちゃったから……」


「倒れた!?大丈夫だった?体調を崩しちゃったとか?」


「あー、それはイヴが無理をしたのもあるけど……魔眼の過負荷がね……」


 レイは俺のために作って渡した眼帯を指し示しながらそうアルシャに説明する。あの時は寝不足だと勘違いしていたがレイが言うには脳への負荷がかかっていてそれなりに危ない状態だったらしい。俺自身もあまり身体に負担をかけないように反省している事案だ。そもそもこの身体になってからまだ一ヶ月。分かっていないことも多いのだから異変に気付いた時にはすでに手遅れになっているなんてことも考えられる。今の状況でも感情の変化が激しいという前の身体では考えられないことが起こっているのだから慎重に様子を見ることは間違っていないはずだ。


「魔眼っていっても色々あるじゃないですかー。えっと拘束に魅了、分析に焼却……珍しいものでは石化とかもありましたっけ。イヴちゃんはいったい何なんですか?そんな強い魔眼封じをかけているということは奪命とか?」


 アルシャは一つ一つ指を折って候補を上げていく。魔眼にもいろいろな種類があるようでアルシャは目線を空にやりながら頭の中から記憶をたどっているようだ。その口から出てくる言葉はだいたいがわかりやすい名前でどのような効果のものかがなんとなくイメージとして掴めるものばかりだ。


「ああ、うん……そうだね、説明しておかなきゃいけないけど言いふらしたりはしないでね。イヴの魔眼は幻精の眼(グリムアイ)……しかも完全に機能している物だ……」


「えっと……それ本当ですか……?それこそ私達の職務にすら関わってくる代物ですけど……」


「そうだね……現存する幻精の眼(グリムアイ)の数は公式には七つ、完全機能となるとイヴのを足して三つかな」


「とんでもない子だったんですね、イヴちゃん。レイ先輩が過保護を極めてるのもなんとなく理解しました、うん」


「そんなに凄い物なんですか?この眼……?滅びた神々が持っていたとかなんとかとは聞きましたけど」


「まあ……凄いものだよね。特異物としてなら神話級と伝承級の間、くらいの位置。準神話級に値するかな」


「けどこれ魔力の流れとかそういうものを見るだけじゃ……」


「それだけのことがとてつもなく強大になり得る力なんだ、イヴ。魔力の流れを見るということは魔術師がどんな魔術を扱うかを発動する前に見抜ける。これだけで対魔術師戦どころか対魔獣戦や対錬金生物戦において大きなアドバンテージになる。いやそれだけじゃない。今は知識や経験などが足りないが魔力の流れが生み出す効果を推測し考察できるようになればある種の擬似的な過去視/未来視すら可能になり得るんだ」


 その言葉を聞いて無意識に眼帯をさする。この眼帯を受け取る前に見えていた光景はあまりに不思議なものだった。今まで見てきた世界には足りなかった何か。今見えている世界が色あせて見えるほどの情報。その足りない何かを一言で表すなら『神秘』とでもいうのだろうか。


「それだけ貴重なものだから知ったらその身を狙ってくる悪いやつらもいるってことだよ、イヴちゃん。だから私が……あっと、レイ先輩もか。私達がしっかり守ってあげるからね」


「僕が保護者なんだが……イヴのことを勝手に取るのはやめてくれ。戦闘訓練も僕がするんだから」


「ぶー、けちー。同僚なんですから私にも少しくらいわけてくれてもいいじゃないですかー」


「そもそもアルシャの戦い方は特殊じゃないか。護衛は何人いても足りないということはないからやってもらうけどイヴの戦闘訓練は僕がやるからね。少なくとも基礎は必ずやる」


 レイはきっぱりと断言する。いや戦闘訓練は上達できれば誰でもいいといえばいいんだけどそこは信頼関係を築けているレイに教えてもらうのが道理というものか。アルシャも距離が妙に近いこと以外は良い人だと思うんだけどな……。レイ以外にアルシャがこの身を守ってくれるというのはなんかこそばゆさも感じながらもちょっと嬉しい。どことなくアルシャが頼もしく見えてきたような気がする。


「なんというシスコン……私の戦い方が特殊なのは否定しませんし、イヴちゃんにできることから始めるなら確かに魔術師として鍛え上げる方がよさそうだとは思いますけどね。前衛に出したくないんでしょう」


「まあその通りだね。僕が教えられるのが魔術師型というのもあるけど」


「つまり私はレイ先輩とイヴちゃんの二人ともを守らなければならない!?うへえ、肉体労働系は大変だあ」


「僕も前衛に出られるけどね。錬金術師だし」


「茶化しただけじゃないですか。そんな意地張ってイヴちゃんにアピールしなくても」


「あの……二人ともに守ってもらえるのは嬉しいんだけど……やっぱり自分でも自分の身は守れるようになりたい。この身が貴重だっていうなら、それだけの力があるんだっていうなら身にあった実力は付けたいと思う。誰かに頼りっぱなしじゃいけないと思うから……」


「イヴ……」


「イヴちゃん……」


「レイ……ダメかな?俺も強くなりたいんだ。自分の力でこの世界を生きていけるようになりたいんだよ」


「全然ダメなんかじゃないさ。この世界は人間に対して厳しい世界だ。特に今の時代は動乱の時代。人間同士、国同士が利権を独占しようと誰もかれもが争う時代だ。火竜機関(サラマンダーエンジン)の弊害による汚染化も激しく魔獣や魔物、そういったものが人々を傷つけることも一昔前と比べれば増加している。今の時代に自分の身を守れるだけの力をつけることは推奨されていると言ってもいい。特にイヴみたいな存在ならそれに見合った力が求められるだろう。だが焦ってはダメだ。一歩ずつ堅実に行こう。そのために僕とアルシャがいるのだから」


 手にぐっと力を入れる。この身体は貧弱だ。前の身体よりも体力は各段に落ちているし、感情の処理もままならない。だから誰かに頼る必要がある。だけど……それを脱するための力は欲しい。失ったはずの命を、偶然得た新たな生をまっとうするための力がいる。


「レイ、アルシャ……これからよろしく」


「ああ、君を一人前に育ててみせるさ。イヴ」


「そして私がそれまでしっかり守り通してみせるよ。イヴちゃん」

 三人で手を合わせ、笑いあう。また一人頼るべき仲間が増えたのだった。


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