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『天使を殺す契約をした』 ~たとえ神を敵にしても~【金曜朝7時更新】  作者: 準


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化け物の証明

◆ベルスニア共和国・東側――古びたビル前(地表)

 紫雷の爆音が止み、上空の空気が静まり返る。

 ジルがイーオンを倒し、肩を回しながらエレナたちの元へ歩み寄る。


 グランビルは膝をついたまま、ベルツを警戒するように見上げていた。


 ジルが、皆の輪に加わる。

「お待たせ〜。そっちはもう片付いたみたいね」


「おかえりなさいませ、ジルさん」

 ベルツは一礼すると、少し離れた壁に寄りかかっているイーオンへ優しく視線を向けた。

「お話がありますので」

「そちらの女性の方も。どうぞこちらへ」


 イーオンが顔を背ける。

「……ここで聞いてるわよ」


 ベルツは困ったように微笑むが、その瞳はまったく笑っていない。

「いえ、どうぞこちらへ。――聞こえませんでしたか?」

 ほんの僅か、ベルツの黒い魔力が圧となって膨らむ。


 イーオンはゾクッと背筋を凍らせる。

「……はいはい、行けばいいんでしょ」

 苦笑しながら、諦めて足を引きずり皆の元へ歩み寄った。


 ベルツは二人を見渡し、静かに口を開く。

「では――改めて二人に尋問を続けましょう」


 イーオンが苦笑する。

「戦闘の後に尋問って……あんたら、本当に容赦ないわね」


 ジルが肩を回しながら言う。

「口が動くなら十分よ」


 イーオンはジルを見て、わずかに肩を震わせた。


 グランビルが呆れたように言う。

「雷より速い悪魔なんて聞いたことねぇよ……」


 ベルツは軽く咳払いし、話を戻す。

「まず――ヴァンパイア組織について伺います」


 イーオンとグランビルが同時に顔を上げた。


「霧血のヴァンパイア」

 ベルツが名を口にする。


 グランビルが頷く。

「そうだ。街を支配してるヴァンパイア組織だ」


「霧血のヴァンパイア――始祖から数えて、何代目ですか?」

 ベルツが尋ねた。


 イーオンが首を振りながら答える。

「そこまでは知らないわ」

「ただ――一〇〇年以上は生きてる」


 ベルツは静かに頷く。

「重要なのは年数ではなく、始祖から数えて何代目か……です」


 エレナが続ける。

「何代目かは、会ってみないと分からないか」


 ミナが不安そうにベルツを見る。


 ベルツは静かに言う。

「ミナ様を救うためにも、ヴァンパイアに会うのは避けられないでしょう」

「ですが、まずはアベル様の救出優先でよろしいですね?ミナ様」


 ミナが頷く。

「ええ、アベル君を助けましょう」


 そのとき――。

 グランビルが口を開いた。

「ヴァンパイア組織にも悪魔がいる」


 ミナが息を呑む。

「悪魔……?」


「組織の幹部よ」

 イーオンが続ける。

「めちゃくちゃ強い。力で押し切ってくるタイプ」


 グランビルも頷く。

「俺たちじゃ勝てねぇ。あいつは別格だ」


 ベルツが静かに尋ねる。

「その悪魔のお名前は?」


 イーオンとグランビルが同時に言った。

「「カイロ」」


 その瞬間――。

 ジルの表情が変わった。

「……カイロ?」


 エレナがジルを見る。

「知り合い?」


「うん」

 ジルは懐かしそうに笑った。

「前にアタシをベルスニアの組織に誘ってきたのがカイロよ」


 ベルツが少し笑う。

「カイロさんが幹部なら、ヴァンパイア組織とは話し合いで済みそうですね」


 ミナが驚いたようにベルツを見る。

「ベルツさんもカイロさん知ってるの?」


「ええ」

 ベルツは穏やかに答える。

「何度かお会いしたことがあります」


 イーオンが目を見開く。

「……あの化け物悪魔の知り合いだったの……」

「そりゃ二人とも強いわけよね……」


 ベルツは笑う。

「知り合いというか――」

「カイロさんはジルさんの部下でしたよね?」


「「えーーー?」」

 ミナとエレナが同時に声を上げる。


 ジルが少し懐かしそうな顔をする。

「昔ね」

「アタシの部隊の小隊長だったのよ」

「一番頼りにしてた部隊のね」

「弟分みたいなものよ」


 グランビルが唖然とする。

「……あのカイロより強い悪魔だったのか……」


 ベルツは小さく笑った。

「カイロさんも、昔のジルさんと同じで――」

「加減というものを知りませんでしたから」


 エレナが苦笑する。

「また、そのタイプの悪魔……」


 イーオンがジルとベルツを見て、呆れたように言う。

「そんな化け物悪魔が二人も揃ってるとか……」


 ベルツは静かに締めくくる。

「では――」

「ヴァンパイア組織は後回しですね」

「まずはアベル様を救いに行きましょう」


 エレナは強く頷いた。

「行こう……アベルを助けに!」

だが――。


「待て」

 グランビルが、低い声で呼び止めた。


 エレナたちが振り返る。


 グランビルは、ゆっくりと立ち上がろうとして――。

 しかし、足に力が入らず、再び片膝をついた。

「……くそっ」

 悔しそうに拳を握る。


 その隣で、イーオンも地面に座り込んだまま、静かに息を吐いた。

「……もういいわ」


 ジルが振り返る。

「何が?」


 イーオンは苦笑した。

「私たちの負けよ」


 その言葉に、グランビルが顔を上げる。

「……イーオン」


「事実でしょう?」

 イーオンはジルを見る。

「私は、あれだけ雷を撃って……」

「それでも、あなたには届かなかった」


 そして――。

 ベルツへ視線を移す。

「グランビルも同じ」

「重力魔法を完全に崩された」


 グランビルは苦々しそうに笑った。

「……認めるしかねぇな」

 拳を開く。

「俺の重力は、魔導士の中でもかなり強い」

「それを、あいつは真正面から潰しやがった」

 グランビルは、重力魔法が崩された瞬間の感覚を思い出し、背筋が冷えた。


 ベルツは何も言わず、静かに二人を見つめている。


 グランビルは続けた。

「しかも――」

 ジルを見る。

「もう一人は、俺たちより遥かに強い」


「……ちょっと、褒めすぎじゃない?」

 ジルが笑う。


「事実だろ」

 グランビルはため息をついた。

「お前ら二人……」

「化け物って言葉でも足りねぇよ」


 イーオンも苦笑する。

「同感ね」

 そして、両手をゆっくり上げた。

「だから――投降するわ」


 エレナが目を見開く。

「投降……?」


「ええ」

 イーオンはジルを見ながら答えた。

「寝返るつもりはないわ」

「私たちは、魔道士組織側の人間だから」


 グランビルも頷く。

「だが、負けた以上、これ以上戦う意味はねぇ」

 そして――。

 グランビルも両手を上げた。

「俺たちの負けだ」

 一瞬、静寂が落ちる。


 ベルツが二人を見つめる。

「……よろしいでしょう」

 魔力の剣を消す。


「あなた方を拘束します」

「ですが、必要な情報を話していただけるなら、無用な傷は負わせません」


 グランビルが苦笑した。

「最初から、そのつもりだったんだろ?」


「ええ」

 ベルツは穏やかに微笑む。

「私は、争いを好みませんから」


「……説得力ねぇな」

 グランビルがベルツの足元に残る亀裂を見る。


 イーオンも、焼け焦げた地面を見た。

「本当ね」


 そして――。

 二人は改めて、ベルツとジルを見る。

 自分たちが相手にしていたのは――。

 ただ強い悪魔ではない。

 桁違いの力を持つ、二人の悪魔だった。


 イーオンが小さく息を吐く。

「……勝てるわけなかったのね」


 ジルがニヤリと笑う。

「今さら気づいた?」


「ええ」

 イーオンも苦笑した。

「身に染みて分かったわ」


 グランビルも肩を落とす。

「俺もだよ」


 ベルツが静かに二人へ告げる。

「では――」

「アベル様を救出するため、あなた方からもう少し詳しく話を伺いましょう」


「……ああ」

 グランビルが答えた。


「分かったわ」

 イーオンも同調した。

 二人は抵抗しなかった。

 寝返ったわけではない。

 ただ――。

 自分たちの敗北を認めたのだ。


 ベルツは手際よく二人を縛り上げて拘束した。

「ジルさん、エレナ様、ミナ様。――行きましょう」

 ベルツが静かに振り返る。


 その瞳には――

 アベルを守れなかった自責と、決して表には出さない冷たい怒りが宿っていた。


 普段の穏やかな表情は、そこにはない。


 ただ一つ。


 アベルを必ず取り戻すという、揺るぎない意志だけがあった。


「うん……! 絶対にアベルを助け出す!」

 エレナが力強く頷き、剣の柄を握りしめる。


「アベルさん……待っててね」

 ミナも胸の前で手を握り、覚悟の決まった目で頷いた。


 ジルはニヤリと不敵に笑い、焦げた袖を無造作に捲り上げる。

「暴れ足りないと思ってたところよ」


 一行は迷いなく歩き出す。

 目指すは、暗黒炎の男が潜む――北側の廃工場。


 アベルを傷つけ、仲間を囮に使おうとする敵のもとへ。


 ――決戦の舞台は、暗黒の罠が待ち受ける敵アジトへ。



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