↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『天使を殺す契約をした』 ~たとえ神を敵にしても~【金曜朝7時更新】  作者: 準


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/36

姉妹の約束

 来週からは、月曜、金曜の朝7時にアップしていけるように調整中です。

よろしくお願いします。

◆ミナの精神世界

 光がミナの胸へ吸い込まれた瞬間――。

 世界が、静かに裏返った。

 そこは現実とはまるで違う場所。

 赤黒い霧がゆっくりと渦を巻き、影は水面のように揺らめいている。

 空も、大地もない。

 ただ、血と影だけが漂う――半変異の世界。


 その中心で、一人の少女が小さく膝を抱えていた。

 ミナだった。

 身体を震わせ、小さく呼吸を繰り返している。

「……あつい……」

「……こわい……」

「リーナ……どこ……?」

 声は今にも消え入りそうに震えていた。


 そのとき――。

 暗い世界へ、一筋の光が差し込む。

 金色の光。

 白い羽根が一枚、ふわりと舞い落ちる。

 羽根が霧へ触れた瞬間、赤黒い霧が静かに道を開いた。

 やがて光は一人の女性の姿を形作る。

 純白の翼。

 穏やかな微笑み。

 慈愛に満ちた瞳。


 セラフィナだった。

 精神世界の中でも、その姿は神々しい。

 柔らかな光だけが、この世界の闇を優しく照らしていた。


 ミナはゆっくりと顔を上げる。

「……だれ……?」


 セラフィナは優しく微笑んだ。

「初めまして、ミナさん」

「私はセラフィナ」

「あなたを連れて行くために来たのではありません」

 一歩近づく。

「あなたを守るために来ました」


 その言葉を聞いた瞬間、ミナの身体へ赤黒い霧が絡みつく。

「……あっ……!」

 胸を押さえ、苦しそうに息を漏らす。

「……あつい……」

「……こわい……」

「……たすけて……」


 セラフィナは慌てることなく、そっとミナの肩へ手を添えた。

 その瞬間――。

 赤黒い霧が、音もなく後退していく。

 まるで光を恐れるように。

「もう大丈夫ですよ」

「あなたは、一人ではありません」


 ミナは涙で滲む瞳を向ける。

「……ほんとう……?」


「ええ」

 セラフィナは静かに頷いた。

「外では、あなたを助けようと、たくさんの人が動いています」

「リーナさん」

「エレナさん」

「アベルさん」

「ベルツさん」

「ジルさん」


「そして――私も」

 セラフィナは胸へ手を添える。

「これからは、あなたの中で共に歩みます」


 ミナは目を丸くした。

「……わたしの……なか……?」


「はい」

「あなたの心が折れないように」

「あなたの魂が壊れないように」

「影血の飢えが、あなたを飲み込まないように」

「私は、この場所であなたを支え続けます」


 ミナの瞳に、かすかな光が宿る。

「……ずっと……?」


 セラフィナは優しく微笑んだ。

「ずっとです」

「あなたが泣く日も」

「笑う日も」

「迷う日も」

「苦しむ日も」

「私は、あなたの隣にいます」


 ミナの瞳から、一粒の涙がこぼれ落ちた。

「……ありがとう……」


 セラフィナはそっとミナの頭を撫でる。

「眠っていてください」

「ここは、私が守ります」

 ミナは安心したように目を閉じた。

 赤黒い霧は少しずつ薄れ、荒れ狂っていた影も静かさを取り戻していく。

 セラフィナはミナの隣へ腰を下ろし、その小さな手をそっと包み込んだ。

「さあ、帰りましょう」

「あなたを待っている人たちのところへ」


 ミナは小さく微笑む。

「……リーナ……」


 その呟きとともに、赤と黒に染まっていた世界へ、柔らかな金色の光が静かに広がっていった。


◆悪魔界・アザエル城――執務室

 静まり返った部屋。

 ソファへ横たえられたミナの指先が、小さく震えた。


 エレナが息を呑む。

「……ミナさん?」


 リーナも身を乗り出す。

「お姉ちゃん……?」


 ゆっくりと、ミナの瞼が震える。

 長い眠りから覚めるように、ゆっくり、ゆっくりと目が開いた。

「……あれ……?」

 ぼんやりと天井を見上げる。

 見慣れない天井。

 見慣れない部屋。

 ミナはゆっくり身体を起こした。

「ここ……どこ……?」


 その瞬間だった。

『慌てなくて大丈夫ですよ』

 優しい女性の声が、ミナの頭の中へ静かに響く。


 ミナはびくりと肩を震わせた。

「えっ……?」

 周囲を見回す。

 だが、誰も話していない。

『私はあなたの中にいます』

 優しく包み込むような声。

『驚かせてしまいましたね』


 ミナは胸へ手を当てた。

「……だれ?」


『私はセラフィナ』

『少しの間、あなたを守る者です』

 ミナは戸惑いながらも、不思議と恐怖は感じなかった。

 その声には、どこか懐かしい温もりがあったからだ。


 その様子を見たリーナが慌てる。

「お姉ちゃん!?」

「大丈夫!?」


 ミナは我に返り、リーナを見る。

「……リーナ?」

「よかったぁ!」


 リーナは涙ぐみながらミナへ抱きついた。

「目が覚めたぁ……!」

「ずっと心配したんだから!」


 ミナはまだ状況を理解できず、戸惑いながら妹の頭をそっと撫でる。

「ご、ごめんね……」


『優しい妹さんですね』

 また頭の中で声がする。


 ミナは少しだけ視線を泳がせる。

「……う、うん」


 その返事を聞き、アベルが首を傾げた。

「え?」

「誰と話してるんだ?」


 ミナは慌てて口を押さえた。

「えっ!?」


『ふふっ』

『私の声は、あなたにしか聞こえていません』

『安心してください』


 ミナは小さく頷く。

「そ、そうなんですね……」


 アベルはますます不思議そうな顔をする。

「??」


 ジルは腕を組み、苦笑した。

「どうやら、セラフィナ様がちゃんと中にいるみたいね」


 ベルツも静かに頷く。

「精神同調は成功したようです」


 アザエルは満足そうに紅茶を飲みながら笑う。

「うんうん」

「今のところ大成功だな」


 ミナは自分の胸へそっと手を当てる。

 まだ少しだけ熱は残っている。

 けれど、先ほどまで身体を焼いていたような苦しさは、嘘のように消えていた。


『完全に治ったわけではありません』

『ですが、以前よりずっと楽なはずです』


 ミナは小さく微笑む。

「……ありがとうございます」


『どういたしまして』

『これから、よろしくお願いしますね』


 ミナは誰にも気付かれないよう、小さく頷いた。

 そして、ゆっくりと立ち上がる。その顔色はまだ少し青白いものの、先ほどまでの苦しそうな表情は消えていた。


 アベルは安心したように笑う。

「そういえば、ミナさんって何歳なんですか?」


 突然の質問に、ミナは少し驚きながら答えた。

「……一六歳です」


「えっ!」

 アベルは思わず目を丸くする。

「僕と同い年だったんだ!」


 ミナは小さく笑った。

「そうなんですね」


 アベルは今度はリーナを見る。

「リーナちゃんは?」


「一一歳!」

 胸を張って答えるリーナに、部屋の空気が少し和らぐ。


 その様子を見ていたアザエルが、ふと思い出したように口を開いた。

「なあ」

「そのリーナちゃんだが──」

 一同がアザエルを見る。

「悪魔界へ置いていったらどうだ?」

 エレナたちが一斉に固まる。

「これからヴァンパイア探しだろ?」

「その途中で魔獣とも戦うし、ジルの訓練もあるだろうし」

「一一歳の子どもを連れて歩くには危険すぎるだろ」


 アベルが目を丸くする。

「えっ?」

「悪魔界にですか?」


 ミナは静かに頷いた。

「……私たち」

「もう人間界に両親はいません」

「ずっと、二人だけで暮らしてきました」

 その言葉に、部屋が少し静かになる。


 エレナはじっとアザエルを見つめた。

「アザエルさん……」

「まさかリーナちゃんを食べるつもりじゃ……」


「食べるか!!」

 即座にアザエルのツッコミが返ってきた。


 ジルが吹き出した。

「アンタ、本当に失礼ねぇ」


 アザエルは肩を落とす。

「悪魔だからって何でも食うと思うな」

「私はグルメなんだ」


「そこじゃないですよ!」

 アベルが思わず突っ込む。


 笑いが広がる中、リーナはミナの服をぎゅっと掴んだ。

「……やだ」

「お姉ちゃんと一緒に行く」


 ミナは困ったように笑う。


 ベルツも静かに口を開く。

「リーナさん」

「今回の旅は命の危険が伴います」


 ジルも珍しく真面目な表情だった。

「アタシも今回はベルツに賛成」

「アンタはまだ小さい」

「だからこそ、生き残ることを優先しなさい」


 リーナは今にも泣きそうな顔で首を横に振る。

「でも……」


 ミナはそっとしゃがみ込み、リーナと目線を合わせた。

「リーナ」

「お願い」

「私は、人間に戻るために行かなきゃいけない」

「でも、あなたまで危ない目には遭わせたくないの」


 リーナの瞳から涙がこぼれる。

「……やだ」

「また一人になるもん」


 ミナは優しく抱きしめた。

「一人じゃないよ」

「ここにはアザエルさんもいる」

 一拍置き、微笑む。

「だから待っていて」

「必ず迎えに来るから」


 リーナは唇を噛み締める。

「……約束?」


「うん」

「約束」

 小さな指同士が絡み合う。


 指切りを終えたリーナは、小さく頷いた。

「……待ってる」


 アザエルは満足そうに腕を組む。

「よし」

「その間、サミュエルくん」

「私の世話と、リーナちゃんの面倒を頼む」


 サミュエルは真っ直ぐ頷いた。

「はい」

「ミナさんへの罪滅ぼしにはなりませんが……」

「責任を持って、お世話いたします」


 エレナがじっと見つめる。

「サミュエルさん」


「はい?」


「リーナちゃんの血を吸うつもりじゃ?」


「吸いませんよ!」

 即答だった。

「僕を何だと思ってるんですか!」


 アベルが苦笑する。

「信用ないなぁ……」

 その場に笑いが広がった。


 ベルツはふと思い出したようにサミュエルを見る。

「一つ確認があります」


「はい」


「別血統のヴァンパイアと出会ったとして」

「始祖から四代目以内かどうかは、どのように判断するのですか?」


 サミュエルは少し考えてから答えた。

「……見た目では分かりません」

「始祖に近いほど魔力は濃いですが、何代目かまでは判断できないんです」


 ジルが腕を組む。

「え?」

「じゃあ本人に聞くしかないの?」

「自己申告?」


 サミュエルは苦笑した。

「それも難しいですね」

「そもそも、自分が何代目か知らないヴァンパイアも珍しくありません」


 ベルツが静かに目を細める。

「なるほど……」


「あ、でも」

 サミュエルは続けた。

「始祖に近い者ほど、自己再生能力は明らかに高いです」

「長く生きれば魔力は増しますが」

「再生力だけは、血の濃さが大きく影響します」


 ジルがニヤリと笑う。

「じゃあ手当たり次第、腕でも斬り落として試す?」


 アベルが青ざめる。

「そんな方法ダメだよ!」

「協力してくれる人まで敵になっちゃうし!」


 ベルツも静かに頷いた。

「ええ」

「その方法は最後まで却下といたしましょう」

 部屋に再び小さな笑いが生まれる。

 ベルツは前へ歩み出ると、右手を静かに掲げた。

「それでは参りましょう」


 黒い魔法陣が床いっぱいに広がる。

 リーナはもう一度ミナへ抱きついた。

「お姉ちゃん……」

「絶対帰ってきてね」


 ミナは優しく頭を撫でる。

「うん」

「約束だから」


 ベルツはサミュエルへ視線を向ける。

「サミュエルさん」

「主様の紅茶だけは、決して妥協なさらぬよう」


 サミュエルは姿勢を正した。

「はい!」

「命に代えても、お守りします!」


 アザエルが少し考え言う。

「そこまで気負わなくてもいいぞ」

「……いや、やっぱり気負え」


 ジルが笑う。

「結局、紅茶が一番大事なのね」


 ベルツは真顔で答えた。

「当然です」


 一同は笑いながら魔法陣の中へ足を踏み入れる。

 黒い光が静かに全員を包み込み――。


 次の瞬間、その姿は悪魔界から消え去った。


 執務室には、アザエル、サミュエル、そしてリーナだけが残る。

 新たな仲間を迎え、一行はミナを救う鍵となるヴァンパイアを探す旅へと歩み始めた。


 ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました!


 この物語が少しでも気に入っていただけましたら、ページ下部の星【☆☆☆☆☆】をタップして、あなたの評価を教えてください!


「全然面白くなかった」なら星1つ【★☆☆☆☆】、


「続きが気になる!」なら星5つ【★★★★★】。


 どんな評価でも、反応をいただけることが一番の喜びです。

これからも彼らの物語を届けていきますので、**【ブックマーク】**での応援もぜひよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。