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ダイヤモンド=ヴァルキリア~青白き球の女神たち  作者: 八島唯
第1章 ダイヤモンドの原石

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9/25

ベテランの一振り

『ここまでは及第点......』

 凛は蓮子の投球を受けながら心の中でそうつぶやく。

 球威はある。コースもまあ申し分ない。すこし外れるときもあるが、それを痛打されることもない。

 2回裏も一安打されつつも、無難にこなす蓮子。投手コーチの安堵の顔が浮かぶようであった。

 一方、レイヴンズ打線は沈黙したままである。四球でランナーを出すも、残塁。3回裏に試合は進む。

 『3番 ライト美濃川実里背番号7』

 オルカスホーム応援席が沸く。高校在学中にドラフト2位で入団して、すでに10年間以上オルカスに在籍しているベテラン選手である。当初は主砲として活躍していたが、ここ数年は中距離打者としての成熟を増していた。ホームラン数は20本に届くか届かないかくらいだが、打率は常に2割台後半をキープ。ここ一番で勝負強いバッターとしてオルカスの代表選手として人気も高い。

 オルカスは近年、ピッチャーバッターともにメジャーヴァルキュリアリーグへの選手流出が顕著であり、若手の育成が何よりの課題となっていた。そのタイムラグを埋めるかのように美濃川の存在はチームにとって不可欠であった。

 第一打席は凡打。

 迎えた第二打席。

 蓮子は慎重にボールをおいていく。

『次。スライダーでストライクゾーンに外角低め』

 凛がそうサインを出す。蓮子の直接脳内に響き渡る指示。『OK』と短く了承し、振りかぶる蓮子。

 これで終了。ボール半分ほどひっかけた打球は外野フライになる――『運命視』をそう決定する。

 青くうなりを上げるボール。変化球とはいえ、速度は速い。高速スライダー。蓮子の決め球である。

 ゆっくりとミットを構える凛。必要はない。このミットにボールはおさまらない予定であった。二人の『運命視』の結果なら。

 しかし

 美濃川はそれを凌駕する。

 二人の『運命視』を先読みする彼女。『バルドル量子演算プロトコル』のバッターのターン。新たな『運命視』が美濃川の操作により形成される。

 バットを振りぬく美濃川。ボール半分バットの中心から外れていた『運命視』は美濃川の『運命転換』により、バットの中心にボールがとらえられる。

 コンパクトなスウィング。美濃川の真骨頂、パワーに頼らないミート。ゆっくりと青いボールは上昇を続け――レフトの上をすり抜ける。

 スタンド前列。ギリギリではあるがインする。

 空中のバーチャルフィジカルマッピング画面に『ホームラン』の文字が記される。

 ゆっくりとダイヤモンドを駆け抜ける美濃川。

『先制点はベテラン美濃川の第5号ホームラン!』

『変化球を狙っていましたね。さすがは美濃川。『運命視』の結果をひっくり返す。これがヴァルキュリアベースボールの醍醐味ですね』

 「大丈夫。ちょっと抜けただけだから、大丈夫!」

 蓮子は気丈にそう笑いながら繰り返す。

 凛はすでに気づいていた。

 このバッテリーではオルカス打線を抑えきれないことに。

 安打。フォアボール。

 その後も上位打線に痛打される蓮子。

 『運命視』が完全に『ぶれて』きている。

 タイムをかけ、マウンドに駆け寄る凛。

 その時――瀬木監督がベンチを立ち上がった――

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