紙一重のスタンドイン
3番バッターも同様に片付けるトウ華。
先ほどまでの剛速球になれていたファルコンズナインは、右のアンダースローの繰り出す技巧派の投球に手が出ない、
ドーム内に響き渡る、『あと一人』コール。敵地とはいえ、数少ないレイヴンズのファンのテンションはMAXに近づいていた。
凜はマスクを外し、マウンドに駆け寄る。
「......どうする」
口元をミットで隠し、トウ華に告げる凛。
「敬遠ってこと?しないよ、当然」
トウ華はグラブの中でボールをパン、パンと軽く弾ませながらそう言う。架空の存在である青い球をめでるように。
5番バッターも決して組みやすい相手ではない。しかし——スカディは別格である。
しかし、凜は静かに頷いた。トウ華を全面的に信用する。結果がどうなろうとも——
ゆっくりとネクストバッターサークルを出るスカディ。金色の長い髪をなびかせ、豪壮な応援歌が彼女を出迎える。
一発が出れば同点、再び試合は振り出しに戻される。
左の打席に構えるスカディ。片足を軽く上げ、ぎっとトウ華を青い瞳でにらむ。
1球目。初球からあえて、内角への高速スライダー。
スカディは慌てることもなく、完璧にタイミングを合わせそのボールを救い上げる。
虚空に放たれるヴァルキュアの矢のごとく、放物線を描いてスタンドに吸い寄せられる青き彗星。
凜は立ち上がる。トウ華は振り向くことなく、静かにスカディを見つめていた。
ライトスタンドに一直線——しかし、しかしわずかにポールの外側に外れていく。
『ファール!ファール』
判定のコールが告げられる。
ほっとするレイヴンズベンチ。
当然凜も。あと数センチの違いだったかもしれない。
一方スカディは微動だにしない。バットを持ったまま、バッターボックスに立ち尽くしていた。
トウ華も何事もなかったように2球目の準備に入る。
もはやファルコンズファンもレイブンズファンもなかった。ヴァルキュリアボールを観戦する一観客として、この対決にただ固唾をのむばかりである。
二球目の投球。今度は外角高めのボール。右に投げてから一番の速球である。
ゆっくりと構えを展開させるスカディ。見逃すことはない。全力でスイングする。
白球は外角高めいっぱいへ伸びていく。
その刹那。
青い球は糸が切れたように沈み、同時にストライクゾーンの外側へ滑り込む。
高速スライダーとスプリットを掛け合わせたような変化球。その変化に凜自身が必死でミットを合わせようとするが——
これまた、スカディはバットでその変化をとらえる。
こんどは流すようにそのボールを三塁側へと打ちこんだ——




