スイッチピッチャー
『さあ、9回裏。いよいよ最終回です。レイヴンズ1点リードとはいえ、スラッガーのスカディを迎えるこの回、山場ですねぇ』
『もう天城の肩が限界ですからね。続投はないでしょうね。ベンチ裏に下がったようですし。現状だと先程までブルペンで投げていた鷹見が唯一の選択肢なのですが、酷使しすぎてますしねぇ。ここは鷹見と心中というところでしょうかね、瀬木監督』
当然な実況と解説の見解である。スタンドの観衆もピッチャー交代のアナウンスを待っているようだった。
しかし、それは訪れない。
リリーフのアナウンスはされず、普通に9回裏が始まる。
ゆっくりとベンチからマウンドにかけよる人影——それは。
「お、おい!あれ、天城じゃないのか?!」
「まじで?続投するのかよ!いかれてる!」
「プロとはいえ中学生だぞ!瀬木監督、おかしくなったんじゃないのか?」
レイヴンズ観客席からもがやがやとざわめきが起こる。
そんなことにはお構いなしにマウンドに立つトウ華。
観客の一人があることに気づく。
「......左手にグローブはめてないか?」
トウ華は左投手。当然先程までは右にグローブをはめていた。
ゆっくりとセットポジションから投球練習を始めるトウ華。右手が後ろに引っ張られ、横に弾ける。
シュッという心地よい音とともに、青いボールは凛のミットに収まった。
『右投げのアンダースローだぁぁぁぁっ!!』
実況の声が響き渡る。
観客が静まり返る。
先程までサウスポーだったトウ華がまるで鏡に写したように上下左右逆になって、投球練習をはじめたのだ。
『スイッチピッチャー......ってやつですね。確かにこれならば肩の問題はなくなる。でも一番大事なのはヴァルキュリアボールの世界で通用するのか。まあ、アマチュアではいますけどね。あくまで『投げれる』だけで、実用レベルと言えるのは——。』
鋭い実況の指摘。
球速はかなり落ちる。せいぜい130kmいくかいかないか程度である。先程までの日を吹くような豪速球とは比べ物にならない。
それを受ける凛。
このことを聞いたのは本当に直前のことであった。
「大丈夫なのか?トウ華」
心配そうな顔でトウ華に凛は問いかける。肩の疲労もそうだが、まずもって投球すること自体のスタミナが中学生のトウ華に残っているか。
「好きな人にしんぱいされるのはうれしいな」
そういいながら、トウ華は軽く右肩をほぐす
「ボクは大丈夫。1回くらいのスタミナならのこってるよ」
「右で投げることは——」
「それも問題なし。むしろこっちのほうがすごいかもよ。ボクを、そしてもう一つの『世界』を信じて」
そういいながら、自分の人差し指を凛の唇の上に重ねる。
もう一つの『世界』——不思議な言葉に凛は思わず言葉を失う。
——9回裏の開始が宣言される。
先頭打者は2番ショートの晴海。足もあるし、巧みな技術も持ち合わせている。昔の『ニ番打者』というくせもののバッターである。是が非でも出塁してやろうというオーラがにじみ出ていた。
トウ華は投球練習と同じくセットポジションからゆっくりと身を沈める。
第一球目。4万の観客の視線はその青白いボールにただ、注がれていた。
『さあ、9回裏。いよいよ最終回です。レイヴンズ1点リードとはいえ、スラッガーのスカディを迎えるこの回、山場ですねぇ』
『もう天城の肩が限界ですからね。続投はないでしょうね。ベンチ裏に下がったようですし。現状だと先程までブルペンで投げていた鷹見が唯一の選択肢なのですが、酷使しすぎてますしねぇ。ここは鷹見と心中というところでしょうかね、瀬木監督』
当然な実況と解説の見解である。スタンドの観衆もピッチャー交代のアナウンスを待っているようだった。
しかし、それは訪れない。
リリーフのアナウンスはされず、普通に9回裏が始まる。
ゆっくりとベンチからマウンドにかけよる人影——それは。
「お、おい!あれ、天城じゃないのか?!」
「まじで?続投するのかよ!いかれてる!」
「プロとはいえ中学生だぞ!瀬木監督、おかしくなったんじゃないのか?」
レイヴンズ観客席からもがやがやとざわめきが起こる。
そんなことにはお構いなしにマウンドに立つトウ華。
観客の一人があることに気づく。
「......左手にグローブはめてないか?」
トウ華は左投手。当然先程までは右にグローブをはめていた。
ゆっくりとセットポジションから投球練習を始めるトウ華。右手が後ろに引っ張られ、横に弾ける。
シュッという心地よい音とともに、青いボールは凛のミットに収まった。
『右投げのアンダースローだぁぁぁぁっ!!』
実況の声が響き渡る。
観客が静まり返る。
先程までサウスポーだったトウ華がまるで鏡に写したように上下左右逆になって、投球練習をはじめたのだ。
『スイッチピッチャー......ってやつですね。確かにこれならば肩の問題はなくなる。でも一番大事なのはヴァルキュリアボールの世界で通用するのか。まあ、アマチュアではいますけどね。あくまで『投げれる』だけで、実用レベルと言えるのは——。』
鋭い実況の指摘。
球速はかなり落ちる。せいぜい130kmいくかいかないか程度である。先程までの日を吹くような豪速球とは比べ物にならない。
それを受ける凛。
このことを聞いたのは本当に直前のことであった。
「大丈夫なのか?トウ華」
心配そうな顔でトウ華に凛は問いかける。肩の疲労もそうだが、まずもって投球すること自体のスタミナが中学生のトウ華に残っているか。
「好きな人にしんぱいされるのはうれしいな」
そういいながら、トウ華は軽く右肩をほぐす
「ボクは大丈夫。1回くらいのスタミナならのこってるよ」
「右で投げることは——」
「それも問題なし。むしろこっちのほうがすごいかもよ。ボクを、そしてもう一つの『世界』を信じて」
そういいながら、自分の人差し指を凛の唇の上に重ねる。
もう一つの『世界』——不思議な言葉に凛は思わず言葉を失う。
——9回裏の開始が宣言される。
先頭打者は2番ショートの晴海。足もあるし、巧みな技術も持ち合わせている。昔の『ニ番打者』というくせもののバッターである。是が非でも出塁してやろうというオーラがにじみ出ていた。
トウ華は投球練習と同じくセットポジションからゆっくりと身を沈める。
第一球目。4万の観客の視線はその青白いボールにただ、注がれていた。




