最終回に至る
——レイブンズの先制点——。輪の跡のバッターは凡退し、1点止まりであったもののこの1点は大きい。
初めて試合が『動いた』のである。流れはゆっくりとレイヴンズの方に来ているように見えた。
当然、ファルコンズとしては看過すべき状態ではない。
しかし、トウ華は5回以降もその流れを維持し続けた。全力投球でねじ伏せるピッチング。一方で4番スカディに対しては、決して勝負に出ることはない。申告敬遠もしくはストライクゾーンを徹底して避けた投球である。
これはベンチと凛の判断でもあった。
スカディの一発が怖い。
いかにトウ華が完ぺきな投球をしていても、スカディはその上を行くかもしれない。1点が重い試合である。正面からあえてぶつかるのを避けた作戦であった。
一方氷室も立ち直る。
むしろ失点後、さらにアクセルが加速したようにも見えた。
ぶつぶついいながら、ファントムボールを連発する氷室。
その様子にはなにやら鬼気迫るものが感じられた。
(なんでわたしが......あんな三流バッターに......)
チームメイトたちも心配そうにエースの様子をうかがう。
『それにしても、両ピッチャー大したものですね。7回まで90球。全くもって模範的な投球です』
『この感じだと、8回か9回に交代かな。ファルコンズは守護神兎原がいますからね。タイプ的にも氷室と似ているし、点数を追加するのは難しいでしょうね』
『一方レイヴンズは......』
解説は目を閉じながら首を振る。
『唯一まともに投げられるのは、先発から中継ぎに転向した鷹見蓮子ですけどね。この間連投続きで、もう壊れてしまいますよ』
レイヴンズのブルペンではその蓮子が投球練習をしていた。かなり疲労が溜まっているらしく、すこしふらついているようにも見えた。
『かといって天城を完投させるのも——ヴァルキュリアベースボールでも肉体にかかる負担は大きい。天城はまだ中学生。なによりあんなに速球を投げ込んでいては左肩がもたないですよ』
ファルコンズもそれを見越して、8回裏はカット打法で弾数を増やす作戦に出る。なんとか投げきるも、すでに球数は120球。左肩の状態が危険であり、これ以上投げることができないドクターストップ・コールが点滅する。
「よく投げた、天城」
ベンチに戻ってくるトウ華を労う。瀬木監督。しかし、トウ華は無言でベンチを降りていく。
「九条、次は右を投げさせる。しかも打順的にスカディと対戦だ。考えておいてくれ」
右の蓮子に交代か、と凛は理解する。
どうすればよいのか。1点差。せめて3点くらい差があれば、何かしらやりようもあるのだろうが——
9回表、レイヴンズは三者凡退に終わり、ついに最終回を迎える。2番からの上位打線。
4番スカディはベンチの前で素振りをはじめる。その素振りだけで球場が吹っ飛ぶような力強い存在感を示しながら——




