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ダイヤモンド=ヴァルキリア~青白き球の女神たち  作者: 八島唯
第1章 ダイヤモンドの原石

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34/40

すり抜けるボール

 舞い上がる打球を振り返りながら見上げる氷室。

 全くの想定外。自分の『運命視』をひっくり返すほどの力を凜が発揮した。

 ちっと舌打ちする氷室。

 しかし、そこはファルコンズのエース。過ぎてしまったことにはまったくこだわる様子はなく、次の一手を打つ。

 外野に上がるボール。

 これを外野がキャッチングすれば何の問題もない。フライでアウト。さらに一塁ランナーのトウ華はヒットエンドランですでに二塁を回っている。

 ダブルプレー。むしろ臨んだ結果である。

 やや大きめの放物線を描いて青いボールは宙を切り裂く。

 大丈夫。ライトが捕れる。

 『捕れる』ように『運命視』を発動する氷室。ボールの勢いを落とし、長打にならないように。

 凜はボールの行く先を見ることなく、全力で一塁を駆け抜ける。

 観客の悲鳴。

 ライトはベストナインにたびたび選ばれている梅木。ボールの弾道を見上げながら全力でバックしていく。

 (ダメか......!)

 レイヴンズファンの観客が皆そう思った次の瞬間——奇跡が起きる。

 キャッチング寸前で、大きく弾道が伸びる。全力でそれに梅木は合わせようとして後ずさりしながらグローブを天高くつきだした——

 しかし、ボールはわずかにそのグローブの上をかすり人工芝の上にバウンドする。

 氷室の『運命視』による保険が、逆の結果を生んだ。それが意味するところは、氷室以外に人間が逆の物理的法則を望む『運命視』を始動させたということである。

『おーっと、抜けました!意外にボールに伸びがあったか!』

 そこは名ライト手の梅木である。バウンドしたボールを焦らず処理し、全力で内野に返球する。

 それをつかむセカンド。二塁に達しようとする凜をショートと挟んでアウトにするという判断もあったが、この試合の状況を考えるとトウ華をアウトにした方がクレバーと判断する。

 投手戦。一点を争う状況である。ましてトウ華は投手である。そんなに足が速いはずもない。サードに瞬時にボールを投げるセカンド。これでショートと挟んでアウトにすれば凜の走塁も防げる。

 サードに投げた瞬間にセカンドは、はっと気づく。

 トウ華はサードを回り、ホームに向かっていたのだ。

 ボールを受け取ったサードは瞬時にホームに投げ込む。

 キャッチャーはホームで刺すために、トウ華を正面から待ち構えた。

 本塁クロスプレー——ボールがミットを揺らすのとトウ華が突っ込むのはほぼ同時に思えた。

 少しの沈黙ののち、AI審判が判定する。

『セーフ!』

 キャッチャーブロックの微妙な隙間をかいくぐり、トウ華の右足がホームについていた。

『なんと!天城のファインプレー!好走塁で1点先制!0が並ぶ試合の均衡を破りました』

 二塁上の凜は激しい息遣いの中、ヘルメットをゆっくりと土の上に置く。

 そんな凜にトウ華は砂埃にまみれながら、大きくピースサインをしながら微笑んだ。

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