舞い上がる打球
(直接......トウ華......!こんな時に!)
『この世界では時間はないよ。大丈夫。バルドル量子演算プロトコルを経由していないコミュニケーションだから。ここは二人だけの世界......』
『何を言ってるの?わからないよ!』
青い世界の中で二人は邂逅する。そこには内野もなく外野もない。マウンドもなければ、スタンドもない。ただ二人だけがまばゆい光の中に漂う世界である。
『これから千雪ちゃんが初球を投げる。ストレート、内角低め。バントはしにくいボール。でも、凛の『運命視』を発動させてその一本に絞れば長打になるはず。ボクはヒットエンドランで塁を飛び出す。凛は打点をあげて、ヒーローになる』
『そんなうまいことが......』
『ボクを、いや自分を信じて。そして凜にはボクがいる。返すよ凜に。この力を』
はっとして凜は我に返る。自分の応援テーマが大音響で響き渡っていた。
氷室がセットポジションからまさに投球しようとしている瞬間であった。
凜はバットをぎゅっと握りなおす。
唇に力を籠め、目を閉じる。
『運命視』発動。氷室はかまわずにそのまま投げ込む。問題ない。凜程度の選手が『運命視』を発動したからと言って、自分のボールが変えられるわけがないと。
青いボールはうなりをあげて内角低めに飛び込んでいく。
その時——背後に違和感。振り向く氷室。なんと、ランナーのトウ華が一塁を飛び出し全力で疾走していた。
にやりと笑みを浮かべる氷室。
あのボールは決してヒットにならない。バントしてもポップフライ、よくても内野フライである。
焦ってヒットエンドランを仕掛けたのであろうが、ダブルプレーでこの回も無得点——のはずであった。
凜はバントの構えをしない。普通に構え、バットを振り下ろす。
(無駄だ!ひっかけてフライになるのがせいぜいで——)
一閃する凜のバット。ボールがまるでバットにへばりつくようにミートする。
凛の『運命視』が氷室によって定められた『運命視』に逆らおうとしている。
そんなことはできるはずがない。
打率二割のバッターに、ファルコンズのいや、リーグでも指折りのエースピッチャーが力負けすることがあってはならないのだ。
『それをひっくり返すのが、『運命視』だよね。それに凜の力は——千雪ちゃんを——凌駕する』
信じられない言葉が氷室の脳内に響き渡る。それはトウ華の声。
凜は、バットを振りぬく。本来ならポップフライになるはずのボールは、一直線にドームの天井目指して舞い上がる。
それは地面に縛られたカラスが、一気に舞い上がるように——




