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ダイヤモンド=ヴァルキリア~青白き球の女神たち  作者: 八島唯
第1章 ダイヤモンドの原石

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32/40

9番バッターキャッチャー九条凛打率2割2分

『ノーアウトから、意表を突いたセーフティバント!ボールは氷室投手の足元を抜けてセンターへ!』

 ショートとセカンドの間を突き抜けていく青い打球。センターが浅めに守備していたとはいえ、トウ華は悠々と一塁へ到達する。

 その様子をじっと見つめる氷室。何かに気づいたのか、大きく地団駄を踏む。

『ここで先頭打者セーフティバントは意外でした』

『さすが策士の瀬木監督、精神的にゆさぶりをかけるといったところでしょうか。この程度で動揺する氷室投手ではないと思いますが』

 解説の声は氷室には届かない。

 ちまちまとリードを取る一塁のトウ華。馬鹿にされているようで気が散ってしょうがない。

 瀬木監督はノーサインであった。トウ華の独断。それだけに氷室は納得がいかない。そして、自分の渾身のストレートがヒットになったことも。

(おかしい。あのボールをなんでバントして前に転がせるんだ?それに、あの声——なぜあいつは私に語り掛けてくるんだ——直接——)

 とはいえ、そこはファルコンズのエースである。続けてバントを狙う8番バッターを三振に取る。

 ワンアウト1塁。バッターは——

『9番キャッチャー九条凛』

 アナウンスにレイヴンズ応援席が沸き立つ。

『ここまで打率2割そこそこ。キャッチャーとしての務めは果たしているものの、打撃が少し寂しいところです』

『最近のヴァルキュリアボールの特徴として、打てる捕手がいなくなったことが挙げられますね。専門的な守備である以上、キャッチャーも打撃もというのは二刀流並みに難しいことかもしれませんね。こう、スポーツとしてのレベルが上がってくると』

『米ヴァルキュアリーグで活躍する石田選手はすごいですね。投手打者の二刀流をこなしているというのは』

 凛にはあまり触れない解説とアナウンサー。それもしょうがない。ここまで打者としてはほとんど実績のない凛であった。

 瀬木監督はまたもやノーサイン。『九条に一任』の姿勢である。

(バントか、それとも——)

 凜は迷う。五回裏、トウ華の投球数はすでに80球を数えていた。何とかここで塁を進め、得点に結び付けたい。

 右打席から一塁ランナーのトウ華を凜は見つめる。

 ピースサインを出してそれに応じるトウ華。

 凜はため息をつく。

 プレイ!の掛け声とともに、投球動作をとる氷室。

 守備は当然のごとく前進守備。バントでもダブルプレーを狙うような布陣である。

 しかし、やるしかない。

 そう凜は心に決めてバントへ移行しようとしたその時——頭の中に青い世界が広がった——

 そう、それは別の世界が彼女の頭の中に展開していったのである。

 『天城トウ華』の作り出した世界が——

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