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ダイヤモンド=ヴァルキリア~青白き球の女神たち  作者: 八島唯
第1章 ダイヤモンドの原石

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諦めの帰路

 熱いシャワーを浴びる凛。

 架空のボールを扱う球技とはいえ、体力の消耗は激しい。ユニフォームに付けられたモーションセンサーが体の動きを判定し、それに見合った球速、もしくは打撃のパワーが量子演算システムで増幅されるのがヴァルキュリア・ベースボールの特徴である。なればこそ、女性が時速150Kmの豪速球をミットめがけて放り込めるのであるが。

 チームは弱いとはいえ、さすがは東北一番の大企業奥州マテリアルのロッカールームである。設備は新しく、水回りも快適であった。

 凛――この奥州マテリアル・レイヴンズの一員である彼女は九条凛という高校生である。

 ヴァルキュリア・ベースボールは学校の生徒や学生がプロ登録することを認めていた。それこそが、新しいプロスポーツの形であるという理想を掲げて。

 しかし、実際に学校に通いながら、プロ選手として活動することはなかなか難しい。学校を卒業してそのままヴァルキュリア・ベースボールに在籍する選手もいる一方で、そのまま退団するものも多い。実際、高校生プロ選手の半分くらいは卒業を待たずして引退する傾向があった。その理由は成績不振。さらに高校生くらいまでは球団も成績を将来を見越して大目に見てくれるのだが、それ以降となると厳しくなり自由契約を迫られる場合がある。

 そもそもこのヴァルキュリア・ベースボールの適性は若さにある。10代から20代くらいの神経が一番『同調率』が高くなるのである。フィジカルの要素は配されたものの、新たに神経接続システムの反応速度が新たなスポーツの必要条件となったのだ。そしてなぜか、『女性』のほうがこのスポーツに高い適性を認められたことが、女性プロ野球リーグ『ヴァルキュリア・ベースボール』が盛んになった理由でもある。

 シャワーをあがり、凛は制服に着替える。私服でもよいのだが、面倒くささもあっていつも練習時には制服で通勤していた。

「おつかれ」

 帰りの通路でスタッフに声をかけられる。見知った顔だ。

 凛がこの球団に入ったのは中学3年生の時。結構なベテランである。一軍の試合にも結構出場した。去年までは――

 正捕手として期待されつつも、いまいち定着しない。守備は申し分ないのだが他の選手に比して秀でているというわけでもない。バッティングも2割行くか行かないかのレベル。控えとしては重宝されるがそれ以上の評価はくだされなかった。

 毎年新しい選手が入ってくる。そのたびごとに凛は自分の実力を信じられなくなるのだった。

「あーしもそろそろ潮時かな、って」

 先程ブルペンの相手をしていた蓮子の言葉が思い出された。

 同期入団。毎回150kmの速球を武器に期待された本格派右腕である。

 1年目は先発することもあったが、結果は残せず最近はもっぱら中継ぎである。

 上には上がいる――そう思わされるこの一年であった。

 多くの選手はそれを自覚し、このグラウンドから去っていく。僅かな天才を残して。

「私はその中には、多分」

 ふっと空を見上げる凛。

 いつの間にか雨がまた降り出していたらしい。鞄から日傘を取り出し、それを広げる。

 ベンチ入りの選手はそろそろウォーミングアップを始めた頃合いだろう。それに対して自分はあまり手応えのない練習を終えて、家に帰ろうとしている。

 とぼとぼと、歩みを進める凛。

 その時――大きな音が凛の耳をつんざいた。

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