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ダイヤモンド=ヴァルキリア~青白き球の女神たち  作者: 八島唯
第1章 ダイヤモンドの原石

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2/25

梅雨の憂鬱

 人気のないドーム球場。

 カツーン、カツーンとバットの音が天井に響き渡る。

 グラウンドにはユニフォーム姿の女子選手たち。

 ヴァルキュリアリーグはまだ前半戦の半ばを過ぎたころだった。スタートダッシュに成功したのが、福岡に本拠地を持つ福岡オービタル・ファルコンズである。開幕戦を完封で勝利し、その後10連勝を含む快進撃で不動の一位を獲得していた。

 一方。

 このドームを本拠地とする仙台奥州マテリアル・レイヴンズの成績はひどいものである。5連敗を抜け出したかと思ったらまた、4連敗。45試合終了時で、10勝ち34敗1分け。チーム防御率は4.03、打率は.222。本塁打はリーグ最貧の9本である。エースの離脱、先発陣が壊滅、中軸打線の日替わりオーダー。ほぼほぼ、弱いチームの典型をなぞるような状況であった。

 この日の仙台奥州マテリアル・レイヴンズは首位の福岡オービタル・ファルコンズとのナイターが予定されていた。アウェーで福岡オービタル第二ドームでの試合である。ベンチ入りの選手は当然すでに移動済みであるが、この仙台奥州マテリアル・レイヴンズの本拠地マテリアル・パークドームでは残留組が練習を行っていた。

 とにかく活気がない。選手に覇気もなければ、練習に切れもない。

 無理もない。

 ここ数年のレイヴンズの低迷。未だに地元からはそれなりに応援されてはいたが、正直諦めの空気も強かった。

 いわゆる『暗黒時代』、その一言に尽きる。

 あまりのひどさにシーズン前半間もなくで監督が解任されたばかりでもあった。

 士気の低さは、おしてはかるべし、である。

 シーズン中の練習とはいえ、二軍選手も交じる残留組の練習はなにか覇気を感じさせない。決して技術が低いわけではないのだが、なにか心を打つものが感じられないのだ。

「......よし!」

 そういいながら青いヴァルキュリア・ボールをミットに納めながら呟く選手。

 長い髪をキャッチャー用のヘルメットからたなびかせて、座ったままスローイングする。

 ヴァルキュリア・ベースボールにおいては『白球』は現実には存在しない。AR投影の結果直接視神経に浮かび上がった『架空』のボールである。

 しかし、そのボールをキャッチすれば重さを感じるし、打てば快音が鳴り響く。

 量子演算と神経拡張技術によって成立する、野球競技。

 このシステム『バルドル量子演算プロトコル』によってプレイされる野球、それがヴァルキュリア・ベースボールであった。

 ピッチャーは赤い髪の女性。ピアスを耳にジャラジャラつけながら、肩を震わす。ペッと唾を吐き出すと、再び投球動作に入る。右手の中には青いヴァルキュリア・ボールを握りしめながら。

 空を切る音。

 投げた瞬間にキャッチャーミットに収まるヴァルキュリア・ボール。

 キャッチャーの手がびりびりと痺れる。これもヴァルキュリア・ベースボールの特徴である。本来存在しない感覚をまるで本物のように再現することができるのだ。

「150kmはでてた。いい感じ」

 顔のプロテクターを外しながら立ち上がるキャッチャー。長い黒髪がふわりと舞う。キャッチャーも女性であった。

 ふたりともレイヴンズのユニフォームをまとっていた。

「凛ちゃん的にはどう思う?ボールいい感じ?」

 ひゅーと口を鳴らしながらピッチャーの子がマウンドの上から尋ねる。

「ちょっと軽い感じかな。それとコースが甘い。もう少し低めを心がけたほうがいいと思う。蓮子は」

 凛と呼ばれたキャッチャーはそう返す。

 二人の眼の前にいくつもの数字が現れる。選手は神経接続された視覚で様々な情報を見ることができるのだ。そして――未来さえも。

「今日はもう上がろうかな。汗かいちゃったし」

 ピッチャーの言葉に、少し不服そうな凛。

 それには構わずに蓮子はゆっくりとマウンドを降りるのだった。

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