違和感
3回まで、試合は全く動かない。
氷室は毎回三振。1安打にレイヴンズの攻撃を抑える。
一方トウ華の方は序盤からフルスロットル。
160km/hのストレートを連発し、たまにスィーパーを混ぜ打者を翻弄する。
唯一の例外は、不動の4番いや日本を代表するコンタクト・スラッガーのスカディーナ=フォン=アルンシュタインである。
早速二回表に打順が回ってきたスカディ。凜は全体的に様子見のサインを送る。
首を振るトウ華。
サインを返す間もなく、ど真ん中に剛速球が青い炎をなびかせて突っ込んでくる。
それをちらりと見送るスカディ。
しびれた手でボールを返しながら、凜はマウンド上のトウ華を見つめる。
いつもとは違うトウ華の雰囲気。
気負っている、とか緊張している、という感じでもない。
普段はあまり表面に出さない闘志を、静かながらも放っているのを凜は感じ取った。
その打席は結局四球。しぶしぶながら、凜のサインに従って大きくボールをはずした結果である。
ベンチに戻る二人。
「大丈夫か?」
凜がそうトウ華に尋ねる。
「ん?いつもとおんなじダヨ~」
「先発だ。何回まで投げるかわからないけど、ちょっととばしすぎじゃ」
その言葉にトウ華は口元を緩めながら、微笑み返す。大丈夫!と。凜をぎゅっと抱きしめながら。
瀬木監督は全く動かない。
ブルペンすら起動していないのである。
今日はトウ華と「心中」ということなのだろうか。それだけの根拠がどこにあるのか。
確かに今日のトウ華のピッチングは上出来だ。いや、今まで最高といっても良い。球速、球威、コースいずれをとっても完璧であった。
しかし、凜はなぜか不安を覚える。
それはトウ華自身の様子である。
首位ファルコンズ、そしてスカディを相手にするということでプレッシャーを感じているわけでもないのだが、得体のしれない感覚。
勝負事ではこういう虫の知らせが馬鹿にならない。実際、それで後悔することも多かった。
自分にできること――自信をもってトウ華にサインを送る。トウ華の投げるボールをとにかく受け止める。
もし――トウ華に少しでも変調が見えるようだったら――
4回表の投球を受けながら凜は考えをめぐらす。
その時、どうするのか。
瀬木監督にこっそり伝えるのか。トウ華の調子がおかしいと。それともトウ華本人に告げるのか。
首を振る凛。
今はただ、トウ華のボールを受けるのみである。
そして、トウ華を援護すること。
5回表も、ファルコンズは三者凡退に終わる。
5回裏、レイブンズは下位打線から始まる攻撃であった。ファルコンズ氷室は相変わらず、クオリティスタートを継続中。
しかし――この回に二回目の凜の打席が回ってこようとしていた――




