先発二人の好投
『本日のファルコンズ先発はエース、氷室千雪。ここまで4勝1敗防御率1.38と圧倒的な安定感を誇ります』
1回表。先発の氷室がマウンドに立つ。
長い髪を一つに束ね、まるで馬が走るようにその髪をなびかせ投球練習を行う氷室。背はそれほど高くはない。細身の体を震わして投げる姿は、中学生のようにも見えた。
レイヴンズの一番バッターは赤見茜。赤い髪がトレードマークの切り込み隊長である。
初球にめっぽう強く、長打力もある。
今シーズンこそ成績が伸び悩んでいるものの、チームの主力といって差し支えなかった。
当然狙うは初球。
相手がエース投手であればこそ、急襲の効果は大きいものがある。
振りかぶって氷室が投げる。
『もらった!』
外角高め。左打者の赤見としては、飛ばしやすいコース。
全力を背中の軸に込め、バットを振りぬく。
しかし――
ボールはキャッチャーミットに納まった。
『初球から、フォーク!氷室の『ファントム・フォーク』が決まった!』
バッターボックスをはずして、バットを見つめる赤見。
テイクバックが小さい。
腕が遅れて出てくる。
リリース位置が見えない。
結果として、ストレートに見えるボールがフォークに化け、バットは空を切ることとなる。
赤見は粘ろうとしたもの、結局三振を期す。
それをじっと見つめる凛。
さすがはファルコンズのエースである。
氷室は顔色一つ変えずに、1回表を完璧に抑えた。
「ナイスピッチング、氷室!」
ファルコンズの選手にベンチで迎えられる氷室。それに対して氷室は最低限の返礼をしてベンチの端にちょこんと座る。
ぼーっとする氷室。本当は本が読みたくてたまらない。さすがに試合中なのでそれは控えているのだが。
「......早く引退して、図書館通いたい。本読みたい......」
氷室がそうつぶやく。なんともアスリート選手らしからぬ独り言。
それを足を組んで横目に見るスカディ。すこし口元に笑みを浮かべて。
1回裏。今度はトウ華の番である。
観客が沸く。本拠地開催で、レイヴンズで一番人気の投手の先発である。盛り上がらないわけがない。
くるくる回りながら愛嬌を振りまくトウ華。一方凜は何度もプロテクターのマスクを神経質にいじる。
「さあ!今日は先発で勝っちゃうよ!凜の胸に全力投球!いっくよー!」
初球。振りかぶって――
いきなりの青い光がマウンドを駆け巡る。
投げた瞬間、まるで光の矢のように凜のミットに突き刺す投球。
ファルコンズの打者はピクリともしない。いやできなかったのだ。
球場がしずまる。
バーチャルフィジカルマッピング画面に球速が示される。
167Km/h――
『ひゃく、167Km!いきなりの速球!先発起用ながら、しょっぱなからマックス全開の天城投手!あまりのスピードに観客も唖然としています!』
トウ華はこの回を三者連続三振に抑えたのだった。




